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天秤の裁量


 ・天秤座

 9月23日~10月23日

 天秤座にとって幸運の花は『あじさい』

 天秤座にとっての幸運色は、『淡青』

 宝石では『オパール』






 なんだか不思議に思うことがある。

 よく覚えてはいないのだけれど、何か違和感を感じる。その違和感がいったい何なのか分からないけれど、心の奥で引っかかっている感じがするのだ。結局もやもやしたまま、今日も太陽が昇って一日が始まった。

 私はテレビを見ながらハミガキをしていた。右上に表示される時計に焦点を合わせながら、流れるニュースを横目でぼぉーっと眺める。特別読むわけでもなく、真剣に聞くわけでもない。目的までの単なるBGM程度に流しているだけだ。


 私、眞琴には毎日の日課がある。

 それは朝の恋愛占いを見ることだ。

 その日の恋愛運が私のモチベーションを左右すると言ってもいい。

 私自身は9月28日のてんびん座生まれだ。

 さぁ、3月22日の今日の恋愛運はどうだろう。



 ――今日の恋愛占い――


 *恋愛運……あなたの明るさが最大限に発揮され、異性に魅力的に映るとき。意中の相手に接近するいいチャンスです! カップルは落ち込んだ相手をなぐさめるシーンに遭遇しそう。この機会にぐっと信頼が深まりそう。

 *全体運……新しいことを吸収できる時期。楽器の演奏やスポーツなどにトライしてみましょう。

 *幸運の鍵……クレープ

 *相性のいい星座……双子座



 明るさが最大限に発揮される日だって!

 男の子の好みとかは分からないけれど、やっぱり元気で明るい女の子が好きなのかな。でも今日の私はそんな心配しなくても大丈夫。だって占いで最大限に発揮されるって書いてあるし。ようやく私の恋が結びそうな気がする。

 そう、私には好きな人がいる。

 それは同学年で音楽学部に所属する赤坂紡あきさかつむぐ君だ。

 格好いいとか可愛いとかお洒落とか優雅とか、どんな言葉で彼を表現していいのか悩んでしまう。文学部に所属している私が適切な言葉を見つけられない。(知識がないとは認めたくない)

 とにかく学内の女子生徒に大人気の男子だ。

 彼は先生たちからも人気で、よく他学部の棟でも見られていた。何度か文学部の棟内ですれ違った時は心臓が止まるかと思った。理想や憧れの人物が突然目の前に現れるのは本当に驚くことなのだ。

 声を掛けようにも声が出ない。

 笑顔でいようにも頬の筋肉が強張って上手く笑えない。

 平常心を心がけても自然と速くなる鼓動を抑えられない。



 私はときどき、好き過ぎることで恋が失敗に終わるのではないかと不安になる。



 今日は友人のあかりと共にテニスをやりに行くことになっていた。

 私とあかりは高校で硬式テニス部に所属していた。女子テニス部の部員が5名だったため団体戦を行うことは出来なかったが、それでも毎日楽しく練習できて、個人戦にも出場することが出来ていたので特に不満はなかった。その中であかりは部長、私が副部長を務めていた。

 あかりは私にとって何でも相談できる親友だ。

 そして、そんなあかりにも好きな人がいる。それはもちろん私と同じ秋坂紡君だ。私たちは良き親友であり、ライバルでもあるのだ。正確にいうと学内の女子生徒は皆ライバルなのだから、狙われている彼は大変だろう。


 

 大学の駅よりもひとつ手前の駅前にテニスコートを貸してくれるお店がある。それがテニスショップ『スリクソン』。高校の時から何度か足を運んでいる常連のお店で、無料でコーチの指導を受けさせてもらったこともある。働いている方とも仲良くなり、月に一回は無料でコートを貸してくれるのだ。体育の授業がない私たちにとって、汗を流す機会を与えられて本当に感謝している。


 スリクソンに私が着いたとき、まだあかりは来ていなかった。まだ集合時間まで十分あった。きっともうじき来るだろう。私はお店の店員に挨拶をしに行った。「いつもお世話になっています」と、「今日も一日お邪魔します」と。

 そうしているうちにあかりが来た。


「ごめんごめん、遅れちゃったかな~?」


「ううん、だいじょうぶだよ。ほら、あかりも挨拶しておいでよ、今日もお世話になるんだから」


 ジャージの姿のあかりがラケットバックを背負ったまま、ぱたぱたと駆け足で受付に向かった。袖の中に手を入れていてなんとも可愛らしい。後ろから見るとまるで小中学生のどちらかだ。あかりは身長が低くくて元気で明るいせいか、まるで子犬のように見える時がある。例えるならパピヨンだろうか。犬種をよく知らない私が一番最初に思いついたのがそれだった。


 戻ってきたあかりと共にコートへ向かう。オムニコートが今日貸してくれたコートだった。ここにはクレー(土)・オムニ(砂入り人工芝)・ハード(コンクリートにゴム加工)の三種類のコートが設備されている。クレーとオムニが二面ずつあるので計5つのコート数だ。

 コート内のベンチに座ってラケットバックからラケットとボールを取り出す。軽く準備体操をしてからコート外でボレーを行いボールの感触を掴む。三年間やってきたテニスの感覚は身体に染みついていた。毎日居残りしてまで練習していた私たちは意識せずにボレーをしながら会話をしていた。


「眞琴って秋坂君に告白しないの~?」


「出来るわけないでしょ!」


 思わず強く返してしまった。乱れたボールはあかりの頭上を越えてフェンスにぶつかった。


「あぁ~怒らなくてもいいのにー」


 駆け足でボールを取りに行くあかりに私は謝った。そしてそのままコート内に入ってラリーを始めた。


「眞琴ならいけるとおもうんだけどなぁ~」


「それを言うならあかりだってそうよ。意外と簡単にオッケーもらっちゃうかもしれないよ?」


 ラリーはミスすることなく何度も続く。


「どうなのかねぇー。秋坂君の好きなタイプが何なのか分からないし~」


「まぁそうだよね。いったいどんな子がタイプなんだろ……」


 あれだけの容姿を持つ彼だ。それなりの女性が好きに決まっている。スタイルが良くて趣味が合って家庭的で――のような理想の女性。

 または私の思う理想像と逆かもしれない。あかりのような小さくて元気で明るくて、可愛くて放っておけない感じがタイプかもしれない。

 残念ながら私はそのどちらにも属していないので、彼と付き合うには望みが薄すぎる。せめてどちらかの要素があればよかったのにと思った。


 話しながらラリーを何度か続け、身体が温まってきたところで本格的に、真剣に集中しはじめた。


 あかりの打ったサーブをバックハンド側の深くにレシーブして打ちにくくさせ、どんどん前に詰めていく。前に出てきている私を避けようとあかりはボールを高く上げたが、それはネットからサービスラインの間に落ちるのが分かったため私はスマッシュの構えに入った。予想通りの場所に落下してきたボールに左手を伸ばして構え、右手に持つラケットを振り下ろしてスマッシュをした。ボールを正確に捉えられなかったせいか勢いが弱くあかりに取られてしまった。すぐに体勢を立て直していた私は、ネットの上50センチを通るボールをボレーで返した。それも鋭角を狙った。見事にボールはサイドラインの上に落ち、ライン上の砂が丸く消えていた。


 思わず「やったー!」っと私は大きな声で喜んでしまった。現役の時でもなかなか決まらなかったボレーが綺麗に決まって嬉しかった。


「眞琴うますぎー」


「まぐれよ。まず本当に上手だったらスマッシュで決めてるしね」


「――ねぇ、良かったら混合ダブルスしない?」


 ふとコート外から声がした。その声に私の鼓膜は震えていた。左耳から入った音は一度心臓に向かい、脈打つ鼓動の速さと音を増幅させて、やけにゆっくりと右耳に届いた。私の中で時間が遅く流れていくような感覚がある。まだ耳の奥で響く声の主は秋坂君だった。


「おぉー秋坂君だぁ! 眞琴やろうよ混合ダブルス!」


「うん……」


 あかりは平然としている。あまり驚いてもいないみたいだ。

 秋坂君ともう一人、よく秋坂君と一緒にいる同じ音楽学部の人がコートに入った。


「眞琴さんって言うんだ、何度か見かけたことあるけれどこうして話すのは初めてかな。そっちのあかりさんとは何度か話したことあるから久しぶりでいいのかな。それよりもさっきのボレーすっごく上手だったよ、すげーって思わず声出たわ。あ、こっちは同じ学部の馬庭まにわ。小学生のころから知ってる友達ね」


「あの、よろしくお願いします。その、秋坂君ってテニスするんですね。楽器を演奏しているところしか見たことなくて……」


「まぁ、小さいとき親にテニススクールに入れられてね、中学高校とテニス部だったよ。ほかにもピアノだのヴァイオリンだのって音楽もやらされててね、結局音楽の道に進むことになったよ」


「そうなんですか……」


 私は緊張のあまり気の利いたことも言えずにいた。内心はすごく驚いているし、嬉しいのにうまく伝えられない。もっと明るく元気にしなきゃ!


「えっと、ダブルスしましょう! 秋坂君よかったら私とダブルス組んでもらえませんか?」


「もちろんいいよ。馬庭はあかりと最初組んでな。3ゲーム先取でチーム交代、負けた方は勝った方に帰りクレープおごりな。あ、女の子たちは払わなくていいからね、払うのは俺と馬庭のどちらかだから。馬庭おっけー?」


「りょうーかい」


「それじゃあ始めましょ。眞琴さんよろしく」


「はい!」





            ――・――・――・――




 そのあと私と秋坂君は3ゲーム連取で勝った。次に馬庭君と組んで2対2まで競り、馬庭君の4本連続のサービスエースによってあかりと秋坂君のチームに勝った。私自身はどちらの試合も勝利したが、秋坂君と馬庭君が互いに一度負けたため、結局帰りのクレープ代は二人とも払うことになった。二試合とも勝った私には一番高いクレープを買ってくれた。イチゴにバナナにカスタードに生クリーム、チョコレートにアイスクリームまで乗ったすごいクレープだった。



 今日は本当に楽しくて嬉しい一日だった。

 占いの通り意中の相手と接近できた。それもかなり近づいた気がする。幸運の鍵がクレープだったのも当たっていた。私はきっと今日という日を大事にするだろう。でも何度だってこの気持ちを味わいたい。私が秋坂君を好きでいるならきっとまだチャンスはあるはずだ。



 私がてんびん座でよかった。もしも他の星座だったらこんな幸せを感じられなかったと思う。



 星座占いの結果が人生を多少なりとも左右しているのならばきっと。










 読んでいただきありがとうございます。今回のお話はどうだったでしょうか?

 よろしければ感想や一言をいただけると嬉しいです!

 まだまだ続きます。これからもよろしくお願いします☆


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