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魔弾の射手

・射手座

 11月22日~12月21日

 射手座にとって幸運の花は『山百合とひいらぎ』

 射手座にとっての幸運色は、『紫』

 宝石では『トパーズ』






 

  私、眞琴には毎日の日課がある。

 それは朝の恋愛占いを見ることだ。

 その日の恋愛運が私のモチベーションを左右すると言ってもいい。

 私自身は12月8日のいて座生まれだ。

 さぁ、3月22日の今日の恋愛運はどうだろう。


 ――今日の恋愛占い――


 *恋愛運……思ってもいない人から告白されるかも。友人からさりげなく相手の評判をリサーチしてから結論を出しても遅くはないので、焦らずじっくり判断しましょう。既に好きな人がいるなら、相手を傷つけずに断る心遣いを。

 *全体運……二者択一を迫られそう。直感で選んでもいいですが、誘いを断るときはつとめてソフトに。

 *幸運の鍵……スポーツ用シューズ

 *相性のいい星座……水瓶座



 ……今日は恋愛運がいいと思っていいのかな? 思ってもいない人から告白されるなんて今までの占いでなかったし。もし告白されても焦らなくていいって書いてあるし、しっかり評判を聞いて判断しよう。まぁ告白されたらの話だけれど。でも、私には好きな人がいるんだよね。

 同学年で音楽学部に所属する赤坂紡あきさかつむぐ君。

 学内ではなかなかの有名人で、女子で知らない人はいないだろう。彼の容姿もだが、明るくて爽やかな性格も惹かれるポイントだ。

 全体運の二者択一はもしかすると告白してくる誰かと秋坂君のことを言っているのかもしれない。今日の射手座はなんて恋に恵まれているのだろう。


 春の香りのする門を通り大学に入る。

 満開の桜の木に挟まれて歩く道はなんとも優雅な気分になる。遠くで聞こえる女子ソフトボール部の声に道場から聞こえる竹刀同士のぶつかり合う音。たわいもない話をしながら歩く生徒もいれば、耳にイヤホンをして音楽を聴いて歩く生徒もいる。見上げた空の青さに思わず笑みがこぼれた。

 今日はいい一日になりそう。



 朝の天気予報で陽気な一日になると言っていたため、アイボリーの透かし編ゆるニットとモカブラウンの落ち着きのあるロング丈カーゴスカートを着て正解だったようだ。太陽の日差しがほのかにあたたかくて、歩いていると全身がぽかぽかとする。新しく買ったショートブーツの履き心地もいい。

 これから私は友人のあかりと一緒に三階にあるテラスでお茶をすることになっている。女子生徒に大人気の場所で、男子禁制になりつつあるところだ。

 テラスに着いたとき、まだあかりは来ていなかった。待ち合わせ時間の15分前に着いてしまったので、鞄に入れてあった小説を読むことにした。文庫サイズの本で、短編の物語がいくつか載っている。その中で私はお気に入りの一編を読むことにした。



 タイトルは『魔弾の射手』という。


 狩人のマックスは射撃大会の予行演習をしていたが、彼の放つ弾は的を射抜くことがどうしてもできない。恋人のアガーテの父・クーノーは、彼の結果次第ではアガーテとの結婚を認めないといっている。

 狩人仲間のカスパールは自信を失っているマックスに、「深夜に狼谷へ来たら、勝つ方法を教えてやる」と言い、マックスを誘い出す。

 その夜マックスは狼谷に向かった。その頃、カスパールは狼谷でマックスの命を引き換えに契約の延長と、7発中6発は自分の意図するところに必ず命中し、残りの1発は悪魔の望む箇所へ命中する魔弾を作るよう、悪魔のザミエルに頼んだ。そこへマックスが狼谷へやってきて、カスパールと共にその魔弾を鋳造した。 

 射撃大会当日、アガーテは花嫁衣裳で現れ、マックスとの結婚に備えていた。婚礼の花冠を持ってくるがそれは葬儀用の冠で、そこでアガーテは森の隠者から貰った白いバラで花冠を編んでもらい、代わりにかぶることにした。

 マックスは魔弾の効果で素晴らしい成績を上げていた。領主はマックスに最後の1発で鳩を撃つように命令した。その弾は飛び出してきたアガーテに向かって発射されてしまうが、バラの花冠がお守りになってくれたお陰で弾はそれ、間一髪命中をまぬがれた。しかしそれた魔弾がカスパールに命中してしまい、彼は死んでしまう。

 不審に思った領主はマックスにその理由を問い、マックスは正直に全てを答える。激怒した領主はマックスに追放を宣告するが、そこに隠者が登場し、マックスの過ちを許すように領主に諭す。領主はそれに従い、1年の執行猶予の後にマックスとアガーテとの結婚を許した。


 というドイツのお話。

 人生は何事もすべてはうまくいかないとものだと、私は解釈している。狩猟仲間のカスパールは酷いことをしたけれど、可哀想にも思えた。それはきっと死んでしまったからかもしれない。あれで死なずにいたのならば、私の想いは変わっていただろう。

 流し読みで読み終わった頃にあかりが来た。

 あかりは背が低くて元気な子犬のような女の子だ。例えるならポメラニアンみたいな感じ。といっても、とっさに思い出したのがこの犬だった。


 互いに紅茶を飲みながら色々話した。私のいる文学部のこと。あかりのいる薬学部の授業や友達のことをあれこれ話しているうちに、いつの間にか恋の話になった。


「ねぇ、眞琴は好きな人いるの?」


「どうでしょうね。付き合ってみたい人ならいるよ」


「それってやっぱり音楽学部の秋坂君?」


「それはもう当然でしょ。きっと女子ならみんな付き合いたいって思ってるよ。あかりだってそうでしょ?」


「もちろんね~。でも秋坂君ってどんな子がタイプなんだろーね」


 きっと頭のいい子。それでいて気取らなくて、スタイルが良くて、音楽が趣味のような人だと思う。私の妄想の中に私は何処にもいない。まぁ仕方がないのは分かっている。分かってはいるけれど、せめて妄想なのだから、出てきてもいいじゃないかと思ってしまった。

 

 お茶を終えたあと、私は古文の講義に出ることになっていた。あかりと別れ、講義室のある校舎に向かっていると、うしろから突然男子生徒に声を掛けられた。振り返ってみると同学年同学部の生徒だった。


「眞琴さん! 突然で悪いんだけどさ、俺と付き合ってもらえないかな!」


 今日の占いは当たってる。本当に告白された。それも意外な人物、あだな〝芥川〟の加川君だった。秋坂君に劣らない容姿の男子。大人っぽくて落ち着いている性格の彼は、秋坂君とは正反対だった。



 ……どうしよう。加川君は嫌いなタイプではないけれど好きなタイプともいえない。ここはまず焦らないでじっくり考えてから答えよう。そう占いでも言っていたし。


「さすがにいきなりすぎて答えられないや。もう少し待ってくれますか?」


「あぁ待つよ、俺も唐突過ぎたな。講義室に行くなら一緒にどうかな?」


「うんいいよ」


 加川君とたわいもない話をしながら歩く。そこを偶然通りかかった秋坂君に見られてしまった。彼は立ち止まって私をまっすぐ見ていた。じっと見つめられた私は動けなくなった。秋坂君は視線を外して私たちの前から早足で行ってしまった。


「眞琴さん、どうしたの?」


 二者択一を迫られる――これのことだったのか。

 秋坂君を追うか追わないか。

 まさかこんな形で二者択一が迫られるなんて想像もしなかった。

 私は動けずに下を向いたまま泣いた。


 

          ――・――・――・――・




 今日の恋愛占いはよく当たっていた。告白されたし思っていたのとは違ったけれど二者択一も迫られた。何よりも幸運の鍵を信じればよかったと後悔している。もしも私の靴がスポーツ用シューズだったら秋坂君を追っていたに違いない。

 人生は何事もすべてはうまくいかないとものだと思い知らされた。

 そっか、わかった。

 私がいて座だったから駄目だったんだ。もしも他の星座だったら今日の恋愛占いの結果が違っていて、きっと私は加川君の告白を断って秋坂君のもとに走っていたんだ。

 きっとそうだ。

 私は秋坂君が好きなんだ。秋坂君がいいんだ!

 この哀しい気持ちは自分の生まれた月日が悪かっただけと悔やむものだ。




 私がいて座じゃなくて他の星座だったら、今日と言う日は変わっていた。




 星座占いの結果が人生を多少なりとも左右しているのならばきっと。











参考資料:魔弾の射手は、カール・マリア・フォン・ウェーバーが作曲した全3幕のオペラ。

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