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獅子の敗北



 ・獅子座

 7月23日~8月22日

 獅子座にとって幸運の花は『ひまわり』

 獅子座にとっての幸運色は、『黄金色・オレンジ・深紅・紫色』

 宝石では『ルビー』

 








 私には毎日の日課がある。

 それは朝の恋愛占いを見ることだ。

 その日の恋愛運が私のモチベーションを左右すると言ってもいい。

 私自身は7月23日のしし座生まれだ。

 さぁ、3月22日の今日の恋愛運はどうだろう。



 ――今日の恋愛占い――


 *恋愛運……午前はとくに目立った事件もなくて平穏な運勢。意中の相手には、他愛のない話でもよいので、なるべく話し掛けて自分をさりげなく印象付けて。午後はライバルが出現するかも。それはあなたの知る人かもしれません。

 *全体運……何かを言い訳にしてしまう一日。素直に現実を受け止めるべし。

 *幸運の鍵……ファッション誌。

 *相性のいい星座……射手座。



 ……う~ん。つまり今日の私はさりげなくアピールすればいいのかな。午後は出会い運が好調らしいから、オシャレした方がいいのかな。幸運の鍵でもファッション誌って言ってたし。もしかするといいコーデが載ってるのかも。


 部屋に置いてあるファッション誌を適当に手に取り、さらさらとページをめくる。

 緑のカットソーカーディガンとくしゅくしゅ袖Tシャツ、ナチュラルカラーの裾リブショートパンツで女の子らしさを表現。

 チェック柄フェイクチュニックと袖レース使いシャツとバックレースアップレギンスでカジュアルに着こなし。ワンアクセントでキャスケットを被って可愛らしさアピール。

 ニットカーディガン、ケープ付き袖カーブワンピース、起毛レースペチコートパンツ、テープ付きブーツでゆるふわガールコーデ。


 たくさんの服が載っているけれど、今すぐに揃えられる感じの洋服は少ない。手に取ったファッション誌は最近買ったばかりのもので、今年の流行を抑えてはいる。クローゼットの中にある服を何着か用意して、姿鏡の前で合わせてみた。

 オシャレが苦手と言うわけでもないが、なかなかパッとしない。組み合わせは決して悪くないのに、何か決め手がないような感じがする。

 もやもやとしているうちにあっという間に時間は過ぎていた。

 あれこれ悩んだ結果、重ね着風シャツチュニック(内側はアイボリーと紺系のチェック柄)とウエスタン調のショートブーツを履いて出ることにした。




 最寄駅まで歩いて電車で十五分程度乗り、地下鉄に乗り換えてさらに十五分。中央出口を出て左を向くと私の通う大学がある。濃い茶色の壁に青っぽいガラス張りの学舎。

 文学部に属している私の講義が始まるまで二時間ほどある。私がいつもよりもだいぶ早く登校したのは、友人とお茶をしながら話すことになっていたからだ。学舎の三階にあるテラスが待ち合わせ場所になっている。

 この時期のテラスは柔らかな日差しが射し込み、花の香りがするそよ風が吹いているため、いつも女子生徒で埋め尽くされている。それだけではない。校内に植えられた桜の木がピンクや白の花を満開に咲かせた景色を眺めながらのお茶はここでしかできない。


 春だけとは限らず、いまではこの場所が男子禁制になりつつあるように思えた。

 そして案の定テラスに着くと男子生徒は一人もいなかった。

 ……まぁ入りにくいよね。

 これだから最近の男子が草食系とか言われるのだろうか。それならばなんだか可哀想な気がした。私がもしも男子だったら入るには勇気が必要かもしれない。だって周りの視線とか会話とかが飛んでくるのは耐えれなさそうだから。



 テラスにはすでに友人のあかりが来ていた。名前は〝灯〟と書いてあかりだ。

 高校で出会った彼女は動物で例えるならば犬のような人物だ。犬種でいうとミニチュワダックスフンドだと思う。小さくて元気で利口な女の子。なにもミニチュワダックスフンドじゃなくてもいいのだが、なんとなく思いついたのがこれだった。

 そのあかりと私は学科が違う。文系が得意な私と違って彼女は理科系が得意で薬学部の方に所属している。背の低い彼女が白衣を着て実験器具を運んでいるのを見たときは思わず可愛いと口に出てしまった。 男子の横に並ぶあかりはまるで大人と子供のようなのだ。


 あかりとの楽しいお茶会は時間を忘れた。一つの話題はどんどんと膨れ上がり、何が話題でそこまで盛り上がったのか思い出せないほどだった。気が付けば時計の針はかなり進んでいた。それはすでに講義が半ば終わっている時刻を指している。

 私は見事に講義に遅れてしまった。

 占いでは午前中は特に目立った事件もなく平穏だったはずなのに……。

 今日の占いは当たらないのかもしれない。



 ノートは真っ白で理解できないまま講義を終えた後、あかりからのメールが届いた。

 それは『遅刻させちゃってごめんね』というものだった。

 『いいよ』と返信をするとすぐに新着メールが来た。



『あのあと今日話してた音楽学部の秋坂君にたまたま出会ってね、ダメもとで告白してみたの!』



 同学年で音楽学部に所属する赤坂紡あきさかつむぐ君。

 容姿もよく性格もいいとの評判で、大学内に知らない女子はいないほどの有名な男子生徒。なんでも、音楽のコンクールでは最優秀賞を取るほどの腕前らしい。ピアノにヴァイオリン、ギターにドラムと、様々な楽器を扱える器用な人でもある。

 私自身も何度か彼の演奏を聴いたことがあった。やさしいメロディーから激しいロックまで自由に奏でる彼の音楽に私の心は惹かれていた。付き合えるなら彼のような人がいいね――と話していたのを思い出した。



『それでどうなったの?』


 メール文では何事もないうように打って送ったが、私の指は震えて心臓の鼓動は早くなり、明らかに動揺していた。聞かない方がいい。そう胸の奥の方で告げているのがわかった。



『オッケーもらえちゃった!』




           ――・――・――・――・




 今日の恋愛占いはやっぱり信用できなかった。平穏な日だと書いておいて全く違った。意中の相手には会えもしなかったし、さりげなく話し掛けるなんて初めから無理だったんだ。そして当たってほしくない部分が当たった。これは占いの嫌なところ。まさかライバルがあかりだったなんて思いもしなかった。


 何が幸運の鍵だよ。出会えなきゃ意味ないじゃん……。

 何が射手座よ。あかりの星座じゃない……。

 そっか、わかった。

 私がしし座だったから駄目だったんだ。もしも射手座だったらあの恋愛占いの結果が違っていて、きっと私が彼と付き合うことになっていたんだ。

 きっとそうだ。

 あかりに対しては何の怒りも憎しみも恨みも湧かない。

 この哀しい気持ちは自分の生まれた月日が悪かっただけと悔やむものだ。





 私がしし座じゃなくて射手座だったら、今日と言う日は変わっていた。





 星座占いの結果が人生を多少なりとも左右しているのならばきっと。










 読んでいただきありがとうございました。次は射手座のお話になります。感想・一言でもかまいません!いただけると幸いです。

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