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第四話 見切り鷹、今夜はコケと鳴く

掲載日:2026/04/21

焼き鳥屋「とり安」の店長は、午後三時からアルバイトの面接をしていた。

やって来た若い男は、席に着くなり店内を見回して、ぽつりと言った。

「低いな。実に低い」

店長は聞こえないふりをした。

「志望動機は?」

「社会勉強です。こういう現場は、ある程度やれば見切れますので」

「飲食経験は?」

「ありません」

店長は不安になったが、男の妙な自信に押されて採用した。


翌日から働き始めた男は、皿を下げても、注文を取っても、すぐ首を振った。

「低いな。実に低い」

だが、皿は落とすし、注文は聞き返すし、ねぎまを三回復唱して最後に「かわですね」と言った。

夜になり、店長が焼きたてのねぎまを一本差し出した。

「食うか?」

男は串を受け取り、品定めするように眺めた。

「低きトリなりに、よく焼けていますね」


そのとき、男の背後の高いところで、「キィィェェェェェ――」と、風のような声がした。

男には見えた。

痩せたタカの神が、肩のあたりに舞い降りていた。

男は少し顎を上げ、ねぎまをひとくちかじった。

次の瞬間、膝がかくんと折れた。

うまかった。

炭の香り、肉汁、ねぎの甘み。

腰がくだけるほど、うまかった。

それでも男は言った。

「……低きトリなりに、よくがんばった」

タカの神は言った。

「見苦しい」

「おまえは見切るのではない。見切ったふりをしているだけだ」

男は、ねぎまを持ったまま固まった。

いちばん痛いところを、見抜かれていた。

「……ちが」

だが、声は最後まで出なかった。

膝がまた、かくんと折れた。

「もうよい」

タカの神は去った。


男はしばらく、顔を上げられなかった。

視線は、炭火の高さまで落ちていた。


代わりに、焼き台の湯気の向こうから、白くて丸いトリの神が現れた。

「よう来なはったな」

「……ずいぶん低い」

「そうですねえ。でも、低いところには低いところのうまさがありますよって」

トリの神は、つくねを一本差し出した。

男がひとくち食べると、また腰がくだけた。

何か言い返そうとしたが、口から出たのは、「……コケ」だった。

トリの神はやさしく笑った。

「ええ鳴き声ですなあ」

男はあわててごまかそうとした。

だが、もう一度口を開くと、「コケコッコー……」と出た。


店長は腕を組み、「とりあえず、皿下げから覚えてな」と言った。

見切るには、まだ早かった。


読んでいただき、ありがとうございました。


人はときどき、まだよく知らないうちから、何かを見切ったような気になってしまうのかもしれません。

でも実際は、恥をかいたり、思いがけず心を動かされたりしながら、少しずつ足元を知っていくのだと思います。

そんな可笑しさを、焼き鳥屋を舞台に書いてみました。

また読んでいただけたら、うれしいです。


このお話をもとにした短い動画もあります。

ご興味があれば、ご覧ください。

https://www.youtube.com/shorts/8p_VVSvWqZo

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