第四話 見切り鷹、今夜はコケと鳴く
焼き鳥屋「とり安」の店長は、午後三時からアルバイトの面接をしていた。
やって来た若い男は、席に着くなり店内を見回して、ぽつりと言った。
「低いな。実に低い」
店長は聞こえないふりをした。
「志望動機は?」
「社会勉強です。こういう現場は、ある程度やれば見切れますので」
「飲食経験は?」
「ありません」
店長は不安になったが、男の妙な自信に押されて採用した。
翌日から働き始めた男は、皿を下げても、注文を取っても、すぐ首を振った。
「低いな。実に低い」
だが、皿は落とすし、注文は聞き返すし、ねぎまを三回復唱して最後に「かわですね」と言った。
夜になり、店長が焼きたてのねぎまを一本差し出した。
「食うか?」
男は串を受け取り、品定めするように眺めた。
「低きトリなりに、よく焼けていますね」
そのとき、男の背後の高いところで、「キィィェェェェェ――」と、風のような声がした。
男には見えた。
痩せたタカの神が、肩のあたりに舞い降りていた。
男は少し顎を上げ、ねぎまをひとくちかじった。
次の瞬間、膝がかくんと折れた。
うまかった。
炭の香り、肉汁、ねぎの甘み。
腰がくだけるほど、うまかった。
それでも男は言った。
「……低きトリなりに、よくがんばった」
タカの神は言った。
「見苦しい」
「おまえは見切るのではない。見切ったふりをしているだけだ」
男は、ねぎまを持ったまま固まった。
いちばん痛いところを、見抜かれていた。
「……ちが」
だが、声は最後まで出なかった。
膝がまた、かくんと折れた。
「もうよい」
タカの神は去った。
男はしばらく、顔を上げられなかった。
視線は、炭火の高さまで落ちていた。
代わりに、焼き台の湯気の向こうから、白くて丸いトリの神が現れた。
「よう来なはったな」
「……ずいぶん低い」
「そうですねえ。でも、低いところには低いところのうまさがありますよって」
トリの神は、つくねを一本差し出した。
男がひとくち食べると、また腰がくだけた。
何か言い返そうとしたが、口から出たのは、「……コケ」だった。
トリの神はやさしく笑った。
「ええ鳴き声ですなあ」
男はあわててごまかそうとした。
だが、もう一度口を開くと、「コケコッコー……」と出た。
店長は腕を組み、「とりあえず、皿下げから覚えてな」と言った。
見切るには、まだ早かった。
読んでいただき、ありがとうございました。
人はときどき、まだよく知らないうちから、何かを見切ったような気になってしまうのかもしれません。
でも実際は、恥をかいたり、思いがけず心を動かされたりしながら、少しずつ足元を知っていくのだと思います。
そんな可笑しさを、焼き鳥屋を舞台に書いてみました。
また読んでいただけたら、うれしいです。
このお話をもとにした短い動画もあります。
ご興味があれば、ご覧ください。
https://www.youtube.com/shorts/8p_VVSvWqZo




