表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第5話:Painkiller(鋼鉄の救世主)

「いつの時代にも、ロックやメタルがあるから人間は生きてこれたんだぜ。」


鉄心は、紗江が隠した金属の小箱――超小型の真空管アンプ・エミュレーターをレスポールに繋いだ。変換プラグが「カチリ」と、50年の時を超えて噛み合う。


「父さん、やめるんだ。それは……」


「黙って聴け。これが、お前が消し去った『魂の叫び』だ!」


鉄心の指が、1弦から6弦までを叩きつけるように振り抜いた。


――ギャォウィーーーーーン!!


2076年の無音社会に、汚らしくも美しい、極限まで歪んだディストーション・サウンドが産声を上げた。 鉄心が弾き始めたのは、Judas Priestの『Painkiller』。1990年代のメタルキッズの脳天を貫いた凶悪なリフが、最新の防音壁を震わせ、部屋の空気を「狂気」へと変えていく。


「あ、ああああ……最高だ……! 指が、耳が、細胞が沸騰してやがる!」


鉄心は陶酔した。 50年分の休符を取り戻すように、指板の上で指を躍らせる。鉄心にとって、この爆音こそが、過去と現在を繋ぐ唯一の「痛み止め(ペインキラー)」だった。


「やめろ、父さん! 止めてくれ!!」


真が叫ぶが、その声は爆音の濁流にかき消される。 真の腕のスマートデバイスには、無数のアラートが赤く点滅していた。


『警告:セクターTB(8地区)にて、基準値を500%上回る未確認ノイズを検知』 『警告:近隣住民12名から「破壊的な不協和音」の通報。直ちに出動せよ』


「くそっ……! こんなことが本部に知られたら、私の理事長としてのキャリアは終わる!だが、家族の思想犯がバレれば、紗江まで連行されることになる……!」


真は絶望的な状況に顔を歪めた。 窓の外では、これまで見たこともないような「恐怖」に怯える近隣住民たちが、耳を押さえてうずくまっている。彼らにとって、メタルのリフはもはや音楽ではなく、未知の「音響兵器」による攻撃に等しかった。


「……父さん、すまない」


真は、スーツの内ポケットから、護身用の超高電圧スタンガンを取り出した。 2076年のエリートが持つ、音一つ立てずに標的を無力化する「クリーンな武器」だ。


「おい、真!覚えているか!? 最高のサビだ!お前も一緒に歌っ…!」


鉄心が最高のシャウトを放とうと振り返った瞬間。 真の放った電光が、鉄心の首筋を焼いた。


「……がっ、……は……」


鋼鉄の咆哮が、無慈悲に途切れる。 レスポールを抱えたまま、鉄心の体が床に崩れ落ちた。 レスポールから小型のアンプが外れたと同時に、魂が抜けたような「プツン」という虚しい音が響く。


「……すまない、父さん。この世界では、父さんは危険すぎる」


真は、気絶した父を抱きかかえた。 遠くから、組織の「静謐維持部隊」のサイレン(それすらも不快感を抑えた微かな電子音だ)が近づいてくる。 真は苦渋の決断を下した。


父を、再び「管理下」へ戻す。 あの白い、音のない病院の深層部へ。


2076年の空の下、鉄心の短い「脱走ライブ」は、一曲を終えることなく強制終了シャットダウンされた。

読んでいただきありがとうございます。

第5話に登場した『Painkiller 』はジューダスプリーストというバンドの代表曲であり、ヘヴィメタルを代表する1曲となります。是非聴いてみてください。


ついでで構いませんので、少しでも面白いと思っていただけたら、高評価やブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ