第4話:All hope is gone? ―鋼鉄の咆哮、沈黙の未来に響くか―
『……お前も変わってねぇな、相棒。』
黒いハードケースの中から現れたギブソン・レスポール。
50年の歳月を経てなお、漆黒のボディは鈍い光を放ち、指板からは微かにレモンの香りが立ち上っている。手入れの跡だ。誰かが、この「鋼鉄の牙」を錆びつかせまいと、暗闇の中で磨き続けていたのだ。
鉄心は、震える指で弦を弾いた。
「ペシッ……」
アンプを通さない生音は、驚くほどに弱々しい。だが、その振動は指先を通じて、凍りついていた鉄心の血潮をダイレクトに揺さぶった。
「真。アンプはどこだ……。今すぐこいつの喉をブチ鳴らしてやる。」
愛機を抱え、闘志を漲らせる鉄心。しかし、背後に立つ真の反応は、氷のように冷ややかだった。
「……父さん。この時代にアンプはない。博物館にだって置いていないよ」
「おい、 何言ってやがる。アンプあってのエレキギターだろ。バットなしで野球やろうって言ってるようなもんだ。」
「もう一度言っておく。今の時代、音楽は『聴く』ものではないんだ。脳内チップに直接データを転送し、神経をリラックスさせる『聴覚サプリメント』なんだ。物理的に空気を震わせるなんて、今の法律では『公害』扱いだよ。」
真は部屋の隅にある、スタイリッシュな白い円筒形のデバイスを指し示した。
「どうしても聴きたいなら、その『デバイス』を起動して。君の脳波に合わせて、最適な鎮静音楽を生成してくれる。……もちろん、無音でね。」
「ふざけんな! 俺が聴きてえのは鎮静剤じゃねえ、心臓を叩き割る鎮痛剤なんだよ!」
鉄心は苛立ちながら、部屋中を歩き始めた。
「クソッ!これじゃあ、ただの『重い板』じゃねぇか……!」
鉄心は、膝の上のレスポールを握りしめた。
弦はある。指は動く。だが、その声を増幅してくれる「出口」が、この清潔で静かな未来にはどこにも存在しないのだ。
「……父さん。その『板』は、思い出として飾っておくといい。今の父さんに必要なのは休息だ。」
真が冷たく言い放ち、部屋を出ようとしたその時だ。
「……ピピッ」
鉄心の古いデスクの引き出しの奥で、微かな電子音が響いた。
真も気づいていない、その音。
鉄心が引き出しを強引に開けると、そこには埃を被った小さな箱が隠されていた。
最新の未来ガジェットとは明らかに違う、どこか野暮ったいデザインの金属の小箱。
その箱の側面には、掠れた文字でこう書かれていた。
『For DAD. Don’t stop the noise. ―Sae』
箱の横には、2026年当時には存在しなかったはずの、奇妙な形状の「変換プラグ」が添えられていた。
「……紗江か」
鉄心の唇が、ニヤリと歪んだ。
どうやらこの未来には、真のような「静寂の番人」だけでなく、まだ「火種」を守り続けている反逆者がいるらしい。
「真。お前、さっき『この世界にはアンプはない』って言ったな。」
鉄心は、隠されていた小箱――50年間の技術を凝縮したであろう「特製の超小型アンプ」を手に取り、不敵に笑った。
「いつの時代にも、ロックやメタルがあるから人間は生きてこれたんだぜ。」
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メタル音楽の素晴らしさを伝えたいと思い稚拙ながら執筆いたしました。
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