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勇者は死んだ、その後の物語  作者: 梅犬丸
第一章・戦士視点
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第五話

夜営は、森を抜けた先の小さな草地で行った。


 火を起こすと、ようやく音が戻る。

 薪の弾ける音、兵士の足音、鎧の擦れる音。


 それだけで、少し安心してしまう自分がいた。


「……交代で見張りだな」


 俺が言うと、兵士が頷く。


「戦士殿、最初は俺が――」


「いや、俺がやる」


 勇者の担架の近くに、腰を下ろす。


 眠れる気がしなかった。


 魔法使いは火の向こう側で、杖を膝に置いている。

 僧侶は祈り終えたのか、静かに座っていた。


 誰も、勇者の話をしない。


 しばらくして、魔法使いが口を開いた。


「……王都に着いたら、どうなると思う?」


 答えは分かっている。

 だから、誰もすぐには言わない。


「祭りよ」


 魔法使いが自分で言った。


「英雄の凱旋。

 遺体は聖堂に安置されて、民が列を作る」


 僧侶が俯く。


「……嫌です」


「私も」


 魔法使いは即答した。


「でも、止められない」


 俺は火を見つめたまま言う。


「止めたら、俺たちが罪人だ」


「勇者を殺したって?」


「利用されたくないって言っただけで、な」


 僧侶の声が震えた。


「勇者様は……物じゃありません……」


 魔法使いが目を伏せる。


「分かってるわ」


 一瞬、沈黙。


「……ねえ」


 僧侶が、小さく言った。


「勇者様、最後……何か言ってましたよね」


 全員が、彼女を見る。


「え?」


「魔王を倒した直後……

 私の方を見て、何か……」


 彼女は、言葉を探している。


「……“帰ろう”って」


 俺は、胸が詰まった。


 あの時、確かに勇者は笑っていた。


 魔法使いが、手を握り締める。


「……そう」


 それ以上、何も言わなかった。


 そのとき。


 火の向こう、草の揺れる音。


 兵士が立ち上がる。


「誰だ!」


 返事はない。


 俺は剣を抜く。


「配置につけ!」


 影が、火の光の外で動いた。


 ――獣だ。


 狼に似ているが、輪郭が歪んでいる。

 目が、不自然に白い。


「魔獣か!」


 兵士の槍が突き出される。


 だが、獣は担架を見ていた。


 勇者を。


「来るぞ!」


 魔法使いが魔法を放つ。

 光が走り、獣が吹き飛ぶ。


 だが、一体じゃない。


 草むらから、さらに影。


「数が……!」


 俺が前に出る。


 剣で、斬る。


 手応えが、軽すぎた。


 獣は倒れたが、血が出ない。


「……死体に、引き寄せられてる」


 魔法使いが言った。


「勇者様に……?」


「ええ」


 獣たちは、倒れた仲間を無視して、担架へ向かう。


「触れさせるな!」


 俺は吼えた。


 全員で防ぎ、数分で獣は逃げていった。


 静寂が戻る。


 息を整えながら、俺は担架を見る。


 無事だ。


 だが。


「……増えるわ」


 魔法使いが、低く言った。


「これから先、もっと」


「何だ、これは」


 俺の問いに、彼女は答えない。


 代わりに、こう言った。


「森に入った時点で、

 私たちはもう“運んでる”」


「何を」


「……厄介なものを」


 火が、ぱちりと弾けた。


 その音が、やけに大きく聞こえた。


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