第三話
護送が始まって、しばらくは何も起きなかった。
道は整備されていて、歩きにくくはない。
王国の兵も、一定の距離を保ったまま黙ってついてくる。
まるで、葬列だった。
担架の上の勇者は、目を閉じたままだ。
眠っているように見えなくもない。
そう思おうとした自分を、俺はすぐに否定した。
僧侶は、勇者の傍から離れなかった。
歩きながら、時々、担架の布を直す。
「……揺れますね」
小さな声だった。
「ああ」
俺は歩調を落とす。
それだけで、何かをした気になってしまうのが怖かった。
魔法使いは、少し後ろを歩いていた。
いつもなら、前に出て周囲を警戒する位置だ。
「魔法使い」
俺が声をかけると、彼女は一瞬、反応が遅れた。
「……なに?」
「後ろ、大丈夫か」
「ええ。問題ないわ」
問題がない声じゃなかった。
しばらく沈黙が続く。
風の音と、足音だけ。
「……ねえ」
不意に、魔法使いが言った。
「勇者って、最後……痛かったのかしら」
僧侶の肩が、僅かに揺れた。
「……分かりません」
そう答えたのは、僧侶だった。
「でも……祈りは、届かなかった」
その言い方が、あまりにも自分を責めているようで、俺は言葉を失った。
「魔法使い」
俺は前を向いたまま言う。
「今は……考えるな」
「考えないで、どうするの」
魔法使いの声は、静かだった。
「運んで、引き渡して、終わり?
それで、全部なかったことになるの?」
答えられなかった。
僧侶が、担架を強く握る。
「……勇者様は、そんなこと望んでいません」
魔法使いは、何も言わなかった。
ただ、勇者の顔を見つめていた。
俺は剣を握り直す。
守る、と決めた。
それしかできない。
誰の気持ちも、
何が正しいかも、
分からないまま。
それでも、前に進むしかなかった。




