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勇者は死んだ、その後の物語  作者: 梅犬丸
第一章・戦士視点
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第二十五話

僧侶が連れて行かれてから、半日が過ぎた。


 雨は止んだ。

 空は、驚くほど晴れている。


 俺は、川沿いを歩いていた。


 剣は抜かない。

 走らない。


 ――追わない、と決めたわけじゃない。


 ただ、足が動かないだけだ。


 途中、倒れた木の影で、男に出会った。


 ローブ姿。

 商人崩れか、流れ者。


「……あんた」


 男が、俺を見る。


「王都から来たのか?」


「違う」


 短く答える。


 男は、肩をすくめた。


「なら、聞いとけ」


 声を潜める。


「今朝、処刑台が立った」


 心臓が、跳ねた。


「……どこで」


「旧聖堂跡」


 場所は、分かる。


 勇者が、祝福を受けた場所だ。


「罪状は?」


 男は、鼻で笑う。


「呪い汚染。

 それだけで、十分らしい」


 俺は、拳を握る。


「……まだ、間に合うか」


 男は、首を振った。


「準備は、もう終わってる」


 その言葉で、

 時間が、凍りついた。


 男は、続ける。


「代わりに、変な噂もある」


「なんだ」


「今の勇者は――」


 一拍置く。


「動く」


 喉が、ひりつく。


「死体だろ」


「らしいな」


 男は、遠くを見る。


「だが、剣を振るったって話だ」


 確信する。


 ――もう、始まっている。


 俺は、走り出した。


 理屈も、判断も、遅すぎる。


 旧聖堂跡は、人だかりだった。


 台の中央。


 僧侶が、膝をついている。


 魔封じの杭が、背後に突き立てられている。


「……僧侶」


 声は、届かない。


 司祭服の男が、声を張り上げる。


「勇者の呪いを引き受け、

 世界を脅かす存在――」


 言葉が、続く。


 だが。


 ――地鳴り。


 人々が、ざわつく。


 聖堂の奥。


 剣を持った影が、歩いてくる。


「……なに?」


「まさか……」


 それは。


 勇者だった。


 否。


 勇者の死体に、

 魔導装置と呪文を重ねた、別物。


 瞳は、光を失っている。


 だが、剣だけが、正確に動く。


「鎮圧用勇者、起動」


 誰かが言った。


 勇者は、一歩、前に出る。


 僧侶が、顔を上げた。


 その視線が、

 俺の方を向く。


 見つかった。


「……戦士」


 唇が、動いた。


 声は、聞こえない。


 俺は、人波をかき分ける。


「やめろ!」


 叫ぶ。


 だが、声は、雑踏に飲まれる。


 勇者が、剣を振り上げる。


 僧侶は、目を閉じた。


 ――間に合わない。


 その瞬間。


 白と黒の光が、僧侶から溢れ出した。


 爆風。


 人々が、吹き飛ぶ。


 勇者の剣が、止まる。


 僧侶は、杭を折り、立ち上がっていた。


「……まだ」


 震える声。


「終わって、ない」


 司祭が、叫ぶ。


「抑えろ!」


 勇者が、再び動く。


 剣が、振り下ろされる。


 俺は、飛び込んだ。


 剣と剣が、ぶつかる。


 衝撃で、腕が痺れる。


「……遅い」


 勇者の口が、動いた。


 声は、出ない。


 だが、確かに。


 俺を見ていた。


 剣を押し返す。


「返せ」


 歯を食いしばる。


「全部……返せ!」


 僧侶の叫び。


 次の瞬間、

 勇者の身体に、亀裂が走る。


 魔導装置が、悲鳴を上げる。


「停止しろ!」


 誰かの命令。


 だが、もう遅い。


 勇者は、僧侶の方へ向き直る。


 剣を――落とした。


 そのまま、膝をつく。


 僧侶は、勇者に触れた。


「……ごめんね」


 その言葉で。


 勇者の身体が、崩れ落ちた。


 沈黙。


 僧侶は、振り返る。


 俺を見る。


 笑おうとして――


 倒れた。


 俺は、駆け寄る。


 抱き上げる。


「……戦士」


 僧侶は、息も絶え絶えに言う。


「もう……勇者は……」


「喋るな」


「……大丈夫」


 首を振る。


「……利用、されなかった……でしょ」


 俺は、答えられない。


 僧侶は、目を閉じた。


 そのまま、動かなくなった。


 周囲は、静まり返っている。


 処刑台だけが、虚しく立っている。


 俺は、僧侶を抱いたまま、立ち上がる。


 勇者の遺体は、

 結局――


 壊れた部品として、転がっていた。


 守れなかった。


 誰も。


 世界は、救われたかもしれない。


 だが。


 それで、何が残った。


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