第二十話
足音は、三つ。
間隔が一定。
迷いがない。
――騎士団だ。
教会の外、崩れた石柱の影から、黒い外套が現れる。
「見つけたぞ」
先頭の男が言った。
兜は外している。
まだ若いが、目が冷たい。
「王都第七回収部隊」
その言葉だけで、喉が渇く。
「勇者の遺体を引き渡せ」
俺は、剣を抜いた。
「断る」
騎士は、少しだけ眉をひそめる。
「戦士。君は勇者の仲間だったな」
「ああ」
「なら分かるはずだ」
男は、一歩近づく。
「勇者は国の資産だ」
「……人を、物みたいに言うな」
「死んだ時点で、人ではない」
その言葉で、
頭の中で、何かが切れた。
「下がれ」
俺は、低く言う。
「僧侶が中にいる」
「承知している」
別の騎士が口を挟む。
「彼女も回収対象だ」
回収。
その二文字が、耳に残る。
「理由は?」
俺は問う。
「勇者の呪いを抑えるための媒介になる」
――やはり、そうか。
「拒否すれば?」
「排除する」
簡潔すぎる答え。
俺は、深く息を吸う。
「最後に聞く」
「勇者は、何のために利用される」
若い騎士は、少しだけ視線を逸らした。
「……魔王の呪いを、別の形で固定する」
「兵器化だな」
否定は、なかった。
「それが世界を守る」
「世界のためなら、何でもいいのか」
「そうだ」
その即答に、俺は笑った。
「じゃあ、俺は――」
一歩、前に出る。
「世界の敵になる」
次の瞬間。
騎士の剣が抜かれた。
速い。
だが、俺も止まらない。
金属がぶつかる音が、教会跡に響く。
石屑が舞う。
「まだ正義気取りか!」
「違う!」
俺は叫ぶ。
「ただ、取り返すだけだ!」
剣を弾き、
脇腹を斬る。
血が飛ぶ。
騎士の一人が倒れる。
「戦士!」
背後から、別の刃。
避けきれない。
――来る。
その時。
鈴の音がした。
僧侶だ。
祈りではない。
ただの、呼吸に合わせた震え。
「やめて……!」
その声で、騎士の動きが一瞬止まる。
俺は、その隙を逃さなかった。
柄で顎を打つ。
倒れる。
残った一人が、距離を取る。
「……狂ってる」
騎士は、吐き捨てるように言う。
「勇者の死体一つで、国を敵に回すのか」
「勇者は――」
俺は、剣先を向ける。
「仲間だった」
一瞬。
風が止んだように感じた。
騎士は、剣を下ろした。
「……次は、もっと大きい部隊が来る」
「分かってる」
「その時、君は死ぬ」
「それでいい」
騎士は、外套を翻し、去っていった。
静寂。
俺は、膝をついた。
息が荒い。
「……戦士」
僧侶が、近づいてくる。
「無事か」
「うん……でも」
僧侶は、俺の手を見る。
血に濡れた剣。
「……戻れなくなったね」
「ああ」
否定しない。
「もう、人の側には戻れない」
僧侶は、少し考えてから言う。
「それでも」
勇者の遺体を見る。
「一緒に、行こう」
俺は、頷いた。
その選択が、
どれほど多くのものを失わせるか――
もう、分かっている。
それでも。
俺は、立ち上がる。
勇者の遺体を背負い直し、
逃亡は、完全な敵対へと変わった。




