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勇者は死んだ、その後の物語  作者: 梅犬丸
第一章・戦士視点
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第十四話

昼前、街道に出た。


 石畳が続く、王都へ向かう正式な道だ。


 本来なら、安心できるはずだった。


 だが俺の背中は、ずっと強張っていた。


「……来る」


 小さく呟く。


 僧侶が、俺を見る。


「何が?」


 答える前に、それは現れた。


 馬蹄の音。


 規則正しく、数が多い。


 正面から――

 王都の兵だ。


 十名ほど。


 装備は整っているが、戦場帰りの空気じゃない。


 仕事だ。


 隊の先頭に立つ男が、馬を止める。


「勇者一行だな」


 断定口調。


 俺は、一歩前に出る。


「そうだ」


「勇者の遺体を運んでいると聞いた」


 僧侶の肩が、わずかに震えた。


 情報が早すぎる。


「誰からだ」


「それを答える義務はない」


 男は、勇者の遺体に視線を向ける。


「命令が出ている」


「ここから先は、我々が護送を引き継ぐ」


 僧侶が、前に出ようとした。


 俺は、無言で腕を掴む。


「……離して」


「だめだ」


 低く言う。


「話は俺がする」


 男が、怪訝そうに眉をひそめる。


「問題があるのか」


「ある」


 俺は、一瞬だけ言葉を選ぶ。


「勇者は――

 まだ完全に死んでいない」


 空気が、凍る。


「……何?」


 兵たちが、ざわつく。


 僧侶が、俺を見る。


 驚きと、恐怖と、怒りが混じった目。


「戦士……」


 俺は、彼女を見ない。


「呪いが、残っている」


「不用意に触れれば、感染する」


 半分は、嘘。


 半分は、真実だ。


 男は、しばらく考え込む。


「……証拠は」


「俺たちが生きていることだ」


「魔王の呪いを、間近で浴びた」


「それでも、まだ動いている」


 沈黙。


 やがて男は、舌打ちした。


「厄介だな」


「だが、引き渡しは義務だ」


「拒否は反逆と見なされる」


 僧侶が、俺の腕を振り払った。


「勇者様は――」


 声が、震える。


「物じゃない」


 男は、僧侶を一瞥する。


「分かっている」


「だからこそ、国が管理する」


 その言葉に、感情はない。


「あなたたちに、選択権はない」


 俺は、一歩踏み出す。


「なら、期限をくれ」


「期限?」


「王都まで、あと数日だ」


「それまで、俺たちが責任を持つ」


 男は、俺を睨む。


 剣の柄に、手がかかる。


 僧侶が、小さく息を吸った。


 ――魔法を使う気だ。


「……いいだろう」


 意外にも、男は頷いた。


「だが条件がある」


「監視を付ける」


 兵の一人が、前に出る。


「彼が同行する」


 若い兵だ。


 目が、こちらを真っ直ぐ見ている。


「拒否は?」


「できない」


 そう言われて、話は終わった。


 兵は、勇者の遺体を見る。


 一瞬だけ、眉をひそめた。


 それだけだ。


 出発後。


 僧侶が、低い声で言う。


「……どうして、あんなこと言ったの」


「時間稼ぎだ」


「嘘じゃない」


 僧侶は、歩きながら、勇者の布に触れる。


「私、もう少しで……」


「やるな」


 即座に言う。


「兵がいる」


「……分かってる」


 だが、彼女の声は遠い。


 夜。


 野営。


 兵は、少し離れた場所で見張りに立つ。


 俺と僧侶は、火を挟んで向かい合う。


「戦士」


「なんだ」


「もし……」


 また、その言葉。


「私が、勇者様を繋ぎ止められたら」


「……」


「その時、あなたは」


 俺は、答えなかった。


 答えられなかった。


 守るとは何だ。


 死を受け入れることか。

 抗うことか。


 僧侶は、静かに言う。


「私は、もう選んでる」


 その夜、俺は気づいた。


 勇者の遺体から、

 かすかに、体温を感じた。


 錯覚じゃない。


 確かに、温かい。


 それは、希望じゃない。


 ――警告だ。


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