表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は死んだ、その後の物語  作者: 梅犬丸
第一章・戦士視点
10/13

第十話

異変に気づいたのは、僧侶だった。


「……止まって」


 その声に、俺は即座に足を止める。


 森の奥。

 風がないのに、葉が揺れている。


「囲まれてる」


 俺がそう言うより早く、魔法使いが杖を構えた。


「数は?」


「五……いや、六」


 低い唸り声。


 狼型の魔物だ。

 連携を取る、厄介な種類。


「僧侶、後ろに」


「はい」


 俺は前に出る。

 魔法使いは、その背後。


「……行ける?」


 俺が聞くと、彼女は短く頷いた。


「詠唱は短くする」


 魔物が動く。


 一体が囮、左右から二体。


「来るぞ!」


 俺は剣を振る。


 最初の一体を弾き飛ばすが、完全には止めきれない。


「今!」


 魔法使いが詠唱に入る。


 炎が、杖の先に集まる。


 ――その瞬間だった。


 別の一体が、地面を蹴った。


 速い。


「魔法使い!」


 俺が叫ぶ。


 彼女は、反応が遅れた。


 右腕が動かない。

 回避が、半拍遅れる。


 俺は間に合わない。


 代わりに――


「《聖護》!」


 僧侶の魔法が発動する。


 淡い光が、魔法使いを包む。


 だが。


 その魔法は、防御ではない。


 “衝撃を和らげる”だけだ。


 魔物の牙が、彼女の脇腹を裂く。


「っ……!」


 魔法使いが、声にならない声を漏らす。


 同時に、詠唱が完成する。


「――《焼き払え》」


 爆ぜる炎。


 魔物は一掃された。


 森に、焦げた匂いが広がる。


 静寂。


 俺は、すぐに彼女の元へ走る。


「……大丈夫か」


 答えは、ない。


 魔法使いは、地面に膝をついていた。


 血が、指の間から落ちる。


「……ごめん」


 かすれた声。


「詠唱……止めるべきだった」


「喋るな」


 僧侶が駆け寄り、治癒魔法を使う。


 光が、傷口を覆う。


 だが――


 治らない。


 僧侶の顔が、青くなる。


「……なんで」


 魔法使いは、僅かに笑った。


「魔力、もう……」


 言葉が、途切れる。


 俺は理解した。


 無理な詠唱。

 傷。

 魔力枯渇。


 全部が、重なった。


「……戦士」


 彼女が、俺を見る。


「約束……」


「するな」


 声が、荒れる。


「勝手に死ぬな」


 魔法使いは、首を振った。


「死にたいわけじゃ、ない」


「なら――」


「でも」


 彼女は、僧侶を見る。


「このまま歩いたら……もっと迷惑かける」


 僧侶が、必死に首を振る。


「そんなこと……!」


「僧侶」


 魔法使いの声は、驚くほど穏やかだった。


「あなたは、優しすぎる」


 僧侶の手が、震える。


「……勇者の代わりに、誰かを信じなきゃ」


 視線が、俺に戻る。


「戦士」


「……何だ」


「あなたは、逃げない」


 それは、呪いみたいな言葉だった。


 魔法使いは、最後に空を見る。


「……空、青いわね」


 そして。


 息が、止まった。


「……っ!」


 僧侶が、治癒を続ける。


 意味がないと分かっていても。


 俺は、彼女の肩を掴む。


「やめろ」


「でも……!」


「……もう」


 言葉が、続かなかった。


 森は、何も答えない。


 俺は、立ち上がる。


 剣を、地面に突き立てる。


 拳が、震える。


 守ると、言った。


 全員を。


 なのに。


 俺の前で、二人目が死んだ。


 勇者は、死体になり。


 魔法使いは、骸になった。


 残ったのは――


 生き残った、俺と僧侶だけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ