違う俺が頑張るんじゃないお前らが頑張るんだ
個人的にファンタジーな世界を銃で攻略するのは好きです
山道を越えて、夕暮れの風が涼やかに吹きつける頃。
街道を駆ける二頭の馬、その先頭を行くのは黒馬ノワールに跨がるワイアット・クレイン。そしてそのすぐ後ろ、芦毛の軍馬レオノールに乗るのは、忠義を誓った女騎士──ミレイナ・クロシュノレーヌ。
「今日はこの町で休むか」
見えてきたのは、そこそこの規模を持つ宿場町。旅人や商人も行き交い、活気がある。
「了解です。我が君。宿の手配はお任せください」
凛とした声と共に馬を降りたミレイナが、背筋を伸ばして礼を取る。主従としての関係が始まってから、まだ日は浅い。だがその所作からは、早くも揺るがぬ忠誠が感じられた。
程なくして宿に落ち着き、町一番と評判の料理屋で夕食を取ることに。
ローストビーフに香草のスープ、新鮮なパンと山葡萄のワイン──
「よし、今日は一杯くらい付き合えよ」
そう言ってワイアットがグラスにワインを注いでやると、ミレイナは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに口元を緩めてグラスを受け取った。
「ありがたく……頂戴します。我が君」
ワイアットが杯を掲げ、ミレイナもそれに倣う。
「乾杯。──旅の無事と、いい金儲けに」
小さくグラスが触れ合い、二人の杯は空になる。
数杯後──
「競馬場のある国行きたいな」
「ふふ……競馬場のある国ですか……確かに、王族が競馬を好む国は、競馬文化が根付いていることが多いですね……」
いつもは堅物なミレイナが、頬を紅潮させて饒舌に語る姿は、どこか新鮮で可愛らしい。
「いいじゃん、旅のついでに寄ろうぜ。儲けて、遊んで、あわよくば金持ちに見初められたりしてな」
「な、何を言うんですか……っ! まったく、我が君は不真面目です……でも……ふふ、嫌いではありませんよ、そういうところ……」
少し言葉が舌足らずになってきたミレイナが、グラスを揺らして笑う。
気づけば、夜は更け、二人はいつまでも語らい、飲み明かした。
翌朝。まだ薄明るい陽が差し込む中、宿の部屋にノックの音が響いた。
「我が君、朝の新聞をお持ちしました」
「おう、ありがと」
ベッドで寝転がっていたワイアットは、受け取った新聞をパラリと開きながら目を通す。
今日の一面は王都での政争。二面は旅人向けの天気と危険情報。そして三面に載っていたのは求人欄。
(労働者募集に……ギルドの短期バイトか……まあ、どれも小遣い稼ぎって感じだな……)
そう呟きながらもページをめくっていたワイアットの目に、一つの記事が飛び込んできた。
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「カウンタックの町民たち、避難生活が続く」
魔族の侵略が止まらず、町を離れた住民たちは避難先での生活苦に直面している。
国による支援は遅れており、民間ギルドや教会による援助も限界が近い。
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その一文を読んだ瞬間、ワイアットの表情が引き締まった。
「ミレイナ」
「はい?」
真剣な声に、ミレイナもすぐに姿勢を正す。
「ここ行くぞカウンタックだ。荒稼ぎにはならないかもだけど……」
ワイアットは新聞を折りたたみ、懐に突っ込むと笑みを浮かべた。
「──こういうの、嫌いじゃねぇんだよ」
それはあくまで気まぐれなアウトローの一言だった。
舗装もまばらな街道を、二騎の馬が駆ける。
その背には、ワイアット・クレインとミレイナ・クロシュノレーヌ。
行き先は――魔族によって壊滅寸前となった町、カウンタック。
「ワイアット、この町を……救う計画ですか?」
隣を並走するミレイナが問う。彼女の表情には、わずかな期待と疑念が混じっていた。
「ん、まあな。救うついでに儲けもいただくさ」
軽い口調で笑いながら、ワイアットは手綱を鳴らす。
「だが──“魔族には後悔”してもらう」
その瞬間、風が吹き抜けた。
ワイアットの目が、いつになく鋭く光る。
「後悔……と?」
「俺はな、自由に干渉してくる奴が大嫌いなんだよ」
言葉には、静かな怒気が宿っていた。
「コツコツ真面目に働いてる奴らを理不尽に踏みにじるヤツ、そういう連中は苦しめて後悔させてやる、泣き叫ぶ姿が好きでね」
それは、どこまでもワイアットらしい正義だった。
法でも名誉でもない。
それでも確かに、信念と呼べるものがそこにはあった。
馬の蹄が、再び力強く地を蹴る。
カウンタックの地で、ワイアットの“流儀”が牙を剥くのは、もう間もなくだ。
カウンタックから逃げ延びた住民たちが暮らす避難村――そこは、まるで戦場跡のような惨状だった。
粗末なテントが並び、栄養の足りていない子供たちが空腹に耐えながら泥遊びをする。
井戸はひとつ、食料の配給所には長蛇の列。
老人たちは力なく地に座り、誰に怒るでもなく、ただ沈黙していた。
彼らは全てを失った。
故郷を、家族を、日常を、そして明日を生きる希望までも。
「……酷い」
ミレイナが、思わず呟いた。
「魔族の侵略で、罪のない人々が……こんなにも……!私が王都に討伐隊の派遣を進言します!」
その声には、怒りと悲しみが混じっていた。
だが隣に立つワイアットは、表情ひとつ変えず、避難民たちの様子をじっと観察していた。
そして、ひとつの決意を口にする。
「いや、待てミレイナ」
低く、静かな声。
「これから俺は、こいつらから搾取をする」
「……なっ!?」
ミレイナが顔を上げて、思わずワイアットを見返す。
「物資も金も無い彼らから……あなた、正気ですか!?」
ワイアットは笑わなかった。ただ、真っ直ぐにミレイナの目を見た。
「お前がそれに失望したなら──俺の下を去れ」
言葉の刃は、冷たく鋭かった。
けれどその奥には、何か別の想いが、確かに宿っていた。
ミレイナは何も言えず、ただ黙って、ワイアットの背を見つめる。
朝靄の残る避難村に、ワイアットの怒声が響き渡った。
「おい! カウンタックの町民ども!!」
その声に、村のあちこちから人が顔を出す。
痩せた顔に疲れた目。子供を背負い、老人を支えながら、泥にまみれた姿で集まってくる。
「な、なんだ……?」 「誰だよあいつ……?」
ざわめきの中で、ワイアットはひときわ高い岩の上に立ち、続けた。
「逃げてるだけでいいのかよ!!町を捨てるのに後悔はねぇのかよ!!」
「……!」
群衆が一瞬、息を呑んだ。
「何もできずに逃げ回って、誰かの助けを待つしかない……そんなのが本当に“生きてる”って言えるのか!?」
その言葉に、子を抱く母が顔を伏せ、背を丸めた男が拳を握る。
「ふざけないでください、ワイアット!」
ミレイナが思わず彼の隣に駆け寄り、制止に入った。
「この人たちは傷ついてるんです!そんな言葉で追い詰めてどうするつもりですか……!」
だが──。
「ワイアット様!! 到着しました!」
ミレイナの背後から響いた声に、場が再びざわめいた。
ずっしりと積み荷を載せた大きな荷車。それを引いてきたのは屈強な男達、搬馬車。
荷車の側面には、見覚えのある紋章が描かれていた。
それは、鉱山国ガルドン・クラストにおいて名を轟かせる武器商会の印だ。
「ワ、ワイアット……? まさかあの人は……」
ミレイナが戸惑いながら問う。
「ガルドン・クラストの武器商人さ。俺が頼んで朝一でここに来てもらった」
ワイアットはそう言って、腰のホルスターから銃を取り出した。空に向けて一発──パン! と撃つと、皆の視線が彼へと再び集中する。
「俺はてめぇらを“搾取”する、でもな弱者から奪うだけが搾取じゃねぇ」
そして、武器商人たちの荷を指差す。
「この中には──武器がある!意思がある奴は買え!ローンも可能だ!」
そこには鋼の剣、ハルバード、弓やクロスボウ等の武器に加えてレバーアクションライフル、リボルバー式拳銃、この時代では最新鋭の武装だ
「これ程の銃火器⋯もはや正規軍以上の戦力⋯」
「武器職人に俺のピストルや最新鋭ライフルの研究させたんだよ」
目を見開く群衆。
ワイアットは、右手を高く突き上げて宣言した。
「家族を守るために、町を取り戻すために、自分の誇りを取り戻すために戦え!!」
「それでもただ逃げて生きるなら──ここから出ていけ!!」
──静寂のあと。
一人の男が、拳を握って叫んだ。
「……俺はやる! 武器を取るぞ!!」
「俺もだ!家族を殺された恨み⋯魔物共を嬲って殺してやる!」
「俺も! 銃があれば怖くない⋯!」
「私も、食事を作ります! 薬草も採ってきます!」
「……母さん、僕も……僕も戦いたい!」
次々に声が上がる。
人々は立ち上がり、かつての誇りを思い出したように──再び未来へ歩き出した。
そんな光景を見ながら、ミレイナは隣の男を見た。
「あなたやっぱり……人を導く人ですね」
ワイアットは、にやりと笑って言った。
「ただのクズだよ。金になると思ったからやってるだけさ、売上はガルドン・クラストの儲けから仲介料として俺の財布に入る」
──奪われた町、カウンタック。
その入口に、炎のように荒ぶる風が吹く。
丘の上に並ぶ人々。その先頭に立つのは──黒き愛馬ノワールジェネシスを駆る男、ワイアット・クレイン。その隣には、銀の甲冑を身に纏った騎士、ミレイナ・クロシュノレーヌ。
「行くぞ、弱者共!」
ワイアットの声が、全軍に響き渡る。
「魔族どもに人間を舐めたことを──後悔させてやれぇ!!」
その号令とともに、町民たちは突撃を開始した。
銃と剣を構え敵を討つ。
女たちは弓を構え、子どもたちは後方支援の補給班として動き、全員が「町を取り戻す」という一つの意志で結ばれていた。
そして、何より恐ろしかったのは──
「撃てェ!!」
ワイアットの合図で、最新鋭の銃が一斉に火を噴いた。
ドォォォンッ!!
その破壊力に魔族たちは目を見開いた。
「な、なんだこの兵器は……!?」 「魔力じゃない……人間の“技術”か……!?」
弓やバリスタの次元では無い、、火の海と化す町の広場。
まさか、逃げ回っていたはずの人間たちが、これほどの反撃をしてくるなど──誰が予想しただろうか。
立場は逆転、人間は狩人、魔族は獲物になっていた
「よし、先頭を開けたぞ! ミレイナ、突っ込め!」
「了解です、我が君!!」
ミレイナは剣を抜き、愛馬レオノールと共に敵陣を駆け抜ける!
風のように素早く、雷の如き正確な剣さばきで次々と魔族をなぎ倒していく。
「はあああぁぁあッ!!」
一閃──。
敵の副官クラスを両断した瞬間、戦場の流れは完全に人間側に傾いた。
そして──
「言え、町から略奪した金と物資は何処だ?」
ワイアットは魔族の将に銃を突き付ける
「ち、地下シェルターだ!全部そこにある!、」
「そうか」
ワイアットは敵将の眉間を撃ち抜き了解した。
「お前らが思ってるより──人間ってのはしぶといんだぜ?」
カウンタック──かつて魔族に蹂躙され、住民が避難生活を余儀なくされていた町。
「取り返した金は復興予算にあてるか」
瓦礫は片付けられ、仮設だった住居が整備され、
新たな市場が立ち上がりつつある。
町民たちは笑顔を取り戻し、子供たちは路地を駆け回り始めていた。
その様子を、高台から見下ろす二人の騎乗者がいた。
「無事勝利ですね──我が君」
銀の鎧を輝かせるミレイナが、柔らかく言う。
それに対し、ワイアットは気怠げに肩をすくめた。
「よせよミレイナ、飽くまでビジネスだ
今回の武器代は分割払いでな、手数料は俺の財布に入る」
そう──ワイアットは、避難民たちに“銃”を売ったのだ。それも、最新鋭の火器を。
「それに……今回売ったのは、“コスト削減”された奴でな」
彼は黒の愛馬ノワール・ジェネシスのたてがみを撫でながら、続けた。
「メッキ処理は手抜きだ。すぐに銃身が摩耗して、買い替えが必要になるだろうな。
……まあ、これが“ビジネス”ってやつだ」
ミレイナは少し眉をひそめたが──それ以上は何も言わなかった。
「ガルドン・クラストからしたら良い得意先になるだろう」
そして数週間後──
カウンタックの町は、“最新鋭火器を有する独立傭兵団の拠点”として生まれ変わった。
傭兵の派遣、魔物の駆除、交易路の護衛
小さな町が正規軍並みの兵力を有した
魔族に奪われた町は、人間の“商魂”によって蘇ったのである。
「なあミレイナ」
ワイアットが言う。
「……やっぱ資本主義だよな?」
「本当に⋯貴方は最低で最高の男です、我が君」
馬を並べる二人は、再び次の町へと向かって駆け出した。
次回は新展開の予定