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王も犯罪組織も吹っ飛ばす2

元々はノーザの物語で考え始めたんですね、で2代目主人公にワイアットを置くつもりだったんですがノーザの物語が冒険してヒロインと出会ってと全く捻りが無かったのでワイアットがイカれた主人公として誕生しました

王城――謁見の間。


二度目の来訪にも関わらず、ワイアット・クレインの態度は以前にも増して軽かった。

その隣では、ミレイナ・クロシュノレーヌが申し訳なさそうに控えている。


「というわけでぇ〜、反政府組織は“爆発事故”により、全滅しましたぁ〜」


「………………」


玉座の王はしばし沈黙した。

が、やがて、静かに頷く。


「……事実として、貿易経路は解放された。

被害も最小限……いや、むしろ好都合な形だ。約束通り、報酬を払おう」


「ありがとーございまーす」


ドサッ。


運ばれてきた宝箱に、ぎっしりと詰まった札束と金貨。

これだけで王国の予算の数%が飛んだ。


しかし、ワイアットは止まらない。


「で、王様ぁ。せっかくなんで、ついでにもう一件」


「……なに?」


「ほら、敵の拠点から拾った金貨、結構あったんすよ。んで、それを頭金にして――この国の鉱山、一部俺の所有にしてもらえないっすかね?」


「………………」


「正確には、鉱区の2割……あわよくば3割。

ついでに、そのエリアの採掘権と労働者の契約も、俺にくれたら万々歳っす」


「ちょ、ちょっと待ってください!? いくらなんでも要求が図々しすぎます!」


ワイアットは両手を広げ、平然と笑ってみせる。


「別に全部くれって言ってるわけじゃないっすよ?

だいたい、王様も分かってるでしょう?あの鉱区、


「……貴様、本当に勇者ノーザの息子か?」


「しがないフリーターあがりの、夢追い人っすよ」


王は再び、長い沈黙の末――重たく息を吐いた。


「……良かろう。2割までだ。3割は許可できん」


「サンキュー王様! また稼いだら追加交渉行きますね♪」


宝箱をホルスターの上に乗せながら、ワイアットは軽やかに踵を返した。

ミレイナが呆れと怒りの入り混じった目でついていく。


「ワイアット……いつの間に鉱山の経営まで視野に……」


「これからの時代、資源ビジネスだろ? てか、俺がやるんじゃねえよ?」


「?」


鉱区の一角――

荒れ果てたバラック小屋と、使い古された道具。

そこに集まるのは、国にこき使われてきた鉱夫たちとその家族たち。


「今日からここは俺のエリアだ」

そう高らかに宣言した若者に、皆が驚愕した。


「わ、ワイアット様……!?」

「あ、あの魔物の塔で王女を助けた……?」


彼らの前に立つのは、黒のロングコートにカウボーイハット、

腰には2丁のピストルを吊るした、どう見ても“国付きの騎士”には見えない風貌の男。


だが、彼の放った言葉は――思いも寄らぬものだった。


「このエリアは今日から“国有”を外れ、俺の所有になった。

ま、言うなればここは『ワイアット・クレイン鉱区』ってやつだな」


一瞬、場にざわめきが走る。


「お、お待ちを……! そうなれば、資源の運搬や売買は……王都を通せなくなりますぞ! 輸送手段も、経理も……!」


1人の鉱夫が不安そうに声を上げた。


が、ワイアットは涼しい顔で親指を立てる。


「輸送拠点と馬運車は俺が用意してやる。

それから経理関係は俺の方でまとめて、月末に精算ってことでいいか?」


「えっ……」


「あと、上納金は取らねぇ。

売上は全部てめぇらの懐に入れろ。俺が口出すのは“道具の整備”くらいだ。

お前らが儲けた分、俺も嬉しい。シンプルだろ?」


唖然とする労働者たち。

今まで“絞られる側”でしかなかった彼らにとって、それは信じられない待遇だった。


「ほらほら、ボケッとしてんじゃねぇぞ。

俺は“無能な管理者”ってのが一番嫌いなんだ。

なぁ、あんたら……鉱石掘るだけが人生か?」


「え、え?」


「鉄や金を掘ったら、あとは売って終わり? それってあんまりだろ?

鍛冶屋になれ。腕に覚えがあるなら、金細工師にもなれ。

原石だけじゃなくて、価値あるもんに仕上げろ。……やれるだろ?」


その言葉に、鉱夫の1人がぽつりと呟く。


「……そういや、親父が昔、刃物作りしてたな」


「よし、それだ! まずはそれで試してみな。

道具と資金が要るなら貸してやる、ちゃんと回収はするがな?」


ワイアットの無茶なようで現実的な提案に、鉱夫たちの目に一筋の光が差す。

それは、ただ掘るだけだった生活の中に、“未来”という言葉が灯った瞬間だった。


そしてその裏では――


「はい、ではこのタマネギを、私の言った通りに切ってください」


ミレイナ・クロシュノレーヌ。

王国騎士団の部隊長である彼女が、まさか鉱夫の妻たちに料理を教えるなど、誰が予想しただろうか。


「ミ、ミレイナ様⋯こんなに贅沢に⋯負担もワイアット様で、よろしいのですか?」


「騎士は戦場で食事を疎かにしない。料理もまた、戦の一部です、私はそれを教えているだけですよ」


ミレイナの本気の料理指導により、鉱区の一角に労働者専用の食堂が誕生した。

メニューは滋養に優れた栄養食から、労働後のスタミナ飯まで多彩。

これにより、家族ぐるみで鉱山に関わる“地域コミュニティ”が形成されはじめる。


まさかこの日、

“貧困鉱区”が後に国家の商業拠点へと変貌していくなど、

誰も想像してはいなかった。


それからというもの、

ワイアット・クレインが買い取った鉱山エリアは――


かつての荒廃が嘘のように、活気に満ちていた。


「おい、聞いたか? 民間に売られたエリア、待遇がヤバいらしいぞ」

「週休二日、三食付き、売上は山分け、らしいぞ……」

「それってもう王国より上じゃねぇか……!」


最初はただの噂だった。


だが、それは次第に現実となって周囲を呑み込んでいく。

鉱業、製造業、運送業、果ては飲食業に至るまで――


国の片隅に存在した、小さな鉱山エリアは、

いまや他国からも人が集う“経済特区”となっていた。


「王様! 労働者が足りません! どの鉱区も掘り手不足で!」

「またか……くそっ、仕方あるまい……ワイアットの組合に売却しろ……」


国王は天を仰いだ。

気づけば、国が誇る鉱山の半数以上が――

《ワイアット所有の“鉱山組合”》の手に渡っていたのだ。


「これが狙いか、ワイアット・クレイン……」


まるで、国ごと“買い取られた”ような気分だった。



それから二ヶ月が過ぎたある日――


「……じゃ、そろそろ行くか!」


いつもの軽い調子で、ワイアットは愛馬ノワールに跨がった。


「ちょっと待ってください。急に何ですか」


ミレイナが困惑気味に問いかける。

しかしワイアットは満面の笑みで振り返る。


「次の国だよ。もっと稼げそうな所、まだまだあるだろ?」


すると、鉱夫や職人たちが集まってくる。


「ワイアット様!? では、我々はどうすれば……!」

「こんな突然……もう、貴方なしではやっていけません!」


だが彼は、振り返ることなく言い放つ。


「今日からはお前らがこの町の“経営者”だ」

「俺はただの導火線だったんだよ。燃え尽きたら、あとは勝手に火が広がるだろ?」


そして、ニカッと笑って付け加える。


「売上も送らなくていい。

気が向いたら、また寄るよ。……その時に“国よりでかくなってたら”面白ぇじゃん?」


人々の声援の中、

ノワールジェネシスが蹄を鳴らして走り出す。


「ワイアット……あなたという男は……」


ミレイナもまた、自身の愛馬レオノールに跨がると、

ワイアットのすぐ後を追う。


こうして、たった一人の“無頼の男”によって、

国の礎が揺らぎ、

新たな経済の波が起きたのだった。


誰もが予想しなかったかたちで、

一国の“民営革命”は、完了した。


森の一本道を並んで進む、二つの蹄音。


鉱山町を背に、金と自由を手に入れたワイアット・クレインと、

それを呆れながらも見守ったミレイナ・クロシュノレーヌ。


夕焼けが赤く、道を染めていた。


ワイアットは革の鞄を揺らしながら、ふと口を開く。


「やっぱ資本主義だよなぁ。自由競争、労働の価値、金が回って人が笑う。完璧じゃん?」


ミレイナは呆れ顔のまま、ため息をひとつ。


「貴様のやり方は破天荒で、無茶苦茶で、まるで正道じゃなかったけど……」


しばしの沈黙ののち、ぽつりと呟く。


「……少しは、見直しました」


ワイアットがニヤリと笑った。


「お、惚れた?」


「勘違いするな、下衆が」


「いやいや、そろそろ落ちる頃だと思ってたんだけどなー?」


そんな軽口を叩きながら、彼らの旅は次なる国へ続いていく。


金と女と夢を追い、

自由奔放なアウトローと、堅物な女騎士の――

歪ながらも確かな絆の物語が、今日もまた始まる。


ヤバい戦い方をした後のアフターケアとかバカンスを楽しむシーンを描くのが好きです

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