表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

ハッピーエンドでは無い

リバルを出てすぐです

必ず、いつか終わりの時は訪れる。


笑い声も、冗談も、大金も、旅も、命も永遠には続かない。

夜風が潮の香りを運びながらも、今は不思議なほど静かだ。

港町を包む喧噪は遠く、ただ波の音が微かに響いている。


いつもなら軽口を叩き、酒を煽り、女たちをからかうその男が――

今夜のワイアットは、あまりにも静かで、そして、真剣だった。


野宿の洞窟。

闇の奥で水の滴る音が響き、焚き火の赤が壁を揺らす。

静寂の中ワイアットは膝を立て、炎の揺らぎをじっと見つめていた。


「……皆。ちょっと、俺の話を聞いてくれ」


ミレイナが眉を寄せる。

「……我が君?」


エトラが不安そうに瞬きをする。

「え……?」


カレンは肩をすくめる。

「なによ、改まって……」


アイネスは息を飲む。

「ワイアットさん……?」


その視線を受け、ワイアットはゆっくり立ち上がった。

顔に宿るのは、いつもの軽口も、茶化す笑みもない――ただ、揺るぎない覚悟。


「俺は今まで、ずっと“全部”を手に入れたいって思ってきた。

金、自由、戦いのスリル、そして……愛する女たち」


焚き火の光が、彼の瞳を金色に照らす。


「でも最近、気づいたんだ――

その全部の中で、一番欲しかったのは……お前たちだったってな」


四人を順に見つめる。

炎の明かりに浮かぶ、それぞれの瞳。


「だから言わせてくれ」


一呼吸、間を置く。


「――皆、俺と結婚してくれ」


沈黙が洞窟を満たす。

焚き火がはぜる音が、やけに大きく耳に残る。

ヒロインたちの瞳には、驚きと困惑、そして――ほんの少しの期待が揺れていた。


ミレイナが小さく瞬き、唇を震わせる。

「……え?」


カレンが一歩踏み出し、信じられないと首を振る。

「ワ、ワイアット……!? 一人じゃなくて?」


エトラは胸元を押さえ、声を裏返す。

「け、けけ結婚って……全員と!?」


アイネスは頬を紅潮させ、しかし微笑を浮かべた。

その瞳は、長い旅路の果てにようやく辿り着いた安堵の色をしている。

「……私、信じてました。

貴方が誰か一人を選ぶなんて……そんなの、ワイアットさんらしくない……♡」


焚き火の向こう、ワイアットはゆっくりと彼女たちを見渡す。

炎の揺らぎが、彼の影を洞窟の奥へと長く伸ばしていく。


「俺は誰も裏切らない。選べない。

だって……お前たち全員が、俺の全部だからさ」


外の夜風が、洞窟の入口からそっと吹き込む。

炎が揺れ、彼の声は少し掠れて聞こえた。


「だから、全部愛す。全部守る。

……それが俺なりの、“理想のゴール”なんだ」


そして──静かに、ひとりずつ口を開く。

焚き火の炎が揺れ、頬を濡らす涙を金色に照らしていた。


ミレイナは目尻に涙を溜め、笑うように震える声で言った。

「……まったく、最っ高に最低で、最っ高にカッコいい男ですね……♡」


カレンは小さく鼻で笑い、肩を落とす。

「はは……もう、勝てないわ、ワイアットには。

いいわ、全員まとめて“奥さん”になってやろうじゃない!」


エトラは両手で顔を覆いながら、ぽろぽろと涙をこぼす。

「嬉しい……嬉しいです……♡ わたし、ずっとずっと一緒にいたいです……!」


アイネスは静かに目を閉じ、まるで長い旅路の終着点を見つけたように微笑む。

「……貴方が、私の“王子様”なのですね。ええ、喜んで……♡」


星空の下、焚き火を囲んで交わされた“誓い”。

それは契約でもなく、形式ばった約束でもない。

ただ、魂と魂を重ねるように交わされた――求婚。



愛の国──エルモナリア。

「“冒険王”ワイアット・クレイン、四人の花嫁に永遠を誓う」

その報せは風に乗り、海を越え、空を越え、

やがて世界中の町や村の広場にまで届いた。


それはただの結婚式ではない。

英雄の生涯を祝う、世界規模の祭典だった。


ゲスト席には、厳かな顔で正装した伝説の勇者ノーザ。

その隣には、頬を濡らしながらも微笑むニーナ。

さらに、華やかなドレス姿で兄の晴れ舞台を見守る妹リリィ。


視線を巡らせれば、かつて肩を並べた戦友たちが、

遠くから駆けつけた商人たちが、

彼の名を叫んだ競馬ファンが、

威厳を湛えた各国の王族たちが、

そして──かつて剣を交えた敵ですらも、この日だけは祝いの席に座っていた。


金色の陽光が花嫁たちを包み、

鐘の音が愛の国に響き渡る。

ワイアットは誇らしげに胸を張り、

4人の花嫁はそれぞれの笑みで、その未来を信じていた。


この瞬間──

誰もが、永遠を疑わなかった。


エトラ・セリエドール──

純白のドレスに包まれ、胸には宝石のような小さな涙が揺れる。


「……わたし、昔は、自分が“必要とされる”って思えるだけで精一杯でした。

でも……ワイアットさんに出会って、初めて知ったんです。

“愛される”って、こんなにも温かいんだって」


「これからも、あなたを信じて、笑って、支えて……ずっと隣にいます。

ワイアットさん、愛してます。……何があっても」


──


アイネス・メランコリ──

潮風の香りを運ぶような、海を映したドレス。


「私が人間を愛した、あの日から……ずっと切ない夢を見ていました。

でも今は……その夢が叶う現実の中にいる」


「あなたが拭ってくれた涙──あの夜の海が、永遠に煌めくように。

海の神に誓って、私はあなたの妻になります。

心から……愛しています」


──


カレン・マリアライト──

煌びやかで、どこか冒険の匂いがするドレス。笑顔で指輪を掲げる。


「ははっ……まさかアタシが結婚式なんてね♡

でも……誰よりもドキドキしてるの、アタシかもしれない」


「この世界が全部敵に回っても、アタシはワイアットの味方でいる。

好きだよ……ワイアット。大好き。今までも、これからも、ずーっと♡」


──


ミレイナ・クロシュノレーヌ──

最も長く彼を支えた、騎士の誇りを宿すドレス。


言葉を探し、瞳を伏せ──ゆっくりと見上げる。


「……我が君。私は、あなたの剣であり、盾であり、忠義の女でした。

けれど今は、ただ一人の“女”として、この言葉を捧げます」


「愛しています、ワイアット・クレイン。

どれほど世界が移ろおうとも、私はあなたのそばにいる。


そして──必ず。

死ぬ時も、隣で笑っていると誓います」


世界の全てを手に入れた男が誕生した。

これは誰もが憧れた“理想の愛”であり、

全員が納得し、全員が笑い、全員が愛し合う──真のハーレムエンドだった。


かつて荒野を駆けた男、

誰よりも欲望に忠実で、誰よりも自由を愛した放浪のアウトロー。

──ワイアット・クレイン。



そして彼は──

世界で最も栄え、最も華やかな「楽園」を築き上げた。


陽光は絶えず降り注ぎ、街路には笑顔が溢れ、

花々は四季を問わず咲き誇り、海はどこまでも澄み渡る。


その中心に立つ男は、すべてを手にした者。

金も、名誉も、自由も──そして、愛すべき全ての女性たちも。


彼らは肩を並べ、同じ空を見上げながら歩む。

重なり合う笑い声、そっと交わされる視線、

手と手をつなぐ温もりが、王国の空気そのものを甘く染めていた。


そうして、彼は愛と誇りを柱に、

自らの王国を──揺るぎない“楽園”を築き上げた。


ミレイナは防衛と戦術の責任者。時に甘く、時に凛とした王妃。


カレンは外交と商談の切り札。自由で気まぐれな王妃。


エトラは庶民に寄り添い、魔法と家政を司る慈愛の王妃。


アイネスは水の守り手として港と自然を癒す、幻想の王妃。


ワイアットは4人を平等に愛し、

4人も彼に全身全霊の愛を捧げた。


彼女たちにとって、

世界で最も幸せな国とは、ワイアットと過ごす場所だった。


風は静かに、愛の国に吹く




それから80年の時が流れた。

冒険も戦争も、遠い昔の物語となり、

世界は平和を取り戻していた。


静かな海辺の村──

寄せては返す波音のそばに、

ひとつの墓地がある。


潮風に揺れる草花の中、

丹念に磨かれた墓石が並んでいた。


《墓碑》

ワイアット・クレイン

ミレイナ・クレイン

カレン・クレイン

エトラ・クレイン

──ここに眠る




その前に、ひとりの女性が静かにしゃがみ込んでいた。

白銀の髪は、風にそよぎ、

その顔立ちは──80年前と寸分違わぬ美しさを湛えている。


アイネス・クレイン。

永遠の命を持つ人魚にして、

ただ一人の王を愛し続ける“最後の王妃”。


「……皆、逝ってしまいましたね」


潮の香りを纏う吐息が、寂しげに海へと溶けていく。

手にした白い花を、一つひとつ、墓石の上にそっと置く。


かつて共に笑い、肩を並べた日々は、

もう二度と戻らない。


アイネスの頬を、ひとしずくの涙が伝い落ちた。

その雫は砂に吸われ、跡形もなく消える──

まるで彼女以外の全てが、時に奪われたように。


永遠の命を持つがゆえに、

永遠に別れを繰り返す。


「でも……皆が選んだ“最期の場所”が、こんなに綺麗で、静かなところで……

きっと、ワイアットさんは……あの人らしく笑っていたんでしょうね」


墓前で呟く声は、潮騒にかき消されるほど小さい。

それでも、彼女の瞳は遠い過去の海を見つめていた。



ふいに、背後で馬が鼻を鳴らす。

黒鹿毛の毛並みは海の夜のように深く、

その瞳は、どこか誇りと温もりを宿している。


「ローズ」──ノワールジェネシスとレオノールの血を継ぐ玄孫


アイネスは微笑み、ゆっくりと馬に近づく。


「……ローズ。私は大丈夫ですよ。ありがとう……

きっとまた会えます。ワイアットさんにも……皆にも」


馬がそっと、彼女の頬に鼻先を寄せる。

それはまるで「愛している」と告げるかのように。


アイネスは立ち上がる。

背後には、風に揺れる草花と、静かに眠る愛する者たち。

前には、果てなく広がる青い海。


「さあ、帰りましょう……今日も、海が綺麗ですよ」


彼女の足取りは静かで、しかし一歩ごとに、

永遠の孤独を抱えて進んでいく。


永遠の中でただ一人、

“彼”を愛し続ける者として。





彼女だけが知っている――

ワイアットが最後に語った言葉を。


「全部手に入れて、やっと気づいた。

 ……俺が本当に欲しかったのは、ずっとこういう日々だったんだな」


眠るように彼はそう呟いた。


そして、今もどこかで

夜空を見上げるアイネスの横に、

誰にも見えないワイアットの笑顔が浮かんでいる気がした。


「見てるか? 俺の女たちは、今日も最高だぜ」


風が吹く。波が寄せる。星が煌めく。


彼が愛し、彼を愛した全ての者たちに――

その魂は、今も静かに微笑んでいる。



---



「ここに、冒険王は眠る。

 ──そして、永遠に生きている」


続編出しました、是非ご覧下さい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ