俺、冒険者になる
俺は意気揚々と冒険者ギルドへ向かうことにした。だが——
「……どこ?」
完全に迷子になった。
(異世界転生モノの主人公なら、ギルドなんてすぐ見つかるはずだろ……! なんで俺だけこんな目に……!)
しかたなく人に聞こうとしたところ、ちょうど知った顔が通りかかった。
「お、さっきのガキじゃねえか!」
振り向くと、食堂で話した屈強な冒険者——ゴルドだった。
「何やってんだ? ギルド行くんじゃなかったのか?」
「それが……道が分からなくて……」
ゴルドはしばし無言になり、やがて大声で笑い出した。
「ハハハハッ!! なるほどな! まあ、初めての街ならしゃあねえ! 俺が案内してやるよ!」
(異世界の洗礼を受けてる気がする……)
こうして俺は、ゴルドに連れられてギルドへ向かった。
***
冒険者ギルドは思った以上に立派だった。
「ここがギルドだ」
「おお……!」
中にはカウンターが並び、美人受付嬢が対応している。奥の方では酒場のようなスペースがあり、冒険者たちが談笑していた。
「さて、あの受付嬢のとこ行け」
ゴルドに促され、俺はカウンターに向かった。
「いらっしゃいませ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
(おお、美人だ! これはテンション上がる!)
「えっと、冒険者登録をしたいんですが!」
「はい! では、こちらの登録用紙に記入をお願いします!」
俺は紙を受け取り、「レイ」と名前を書いた。年齢は適当に18歳にしておいた。
「ありがとうございます! では、適性検査を行いますね!」
「適性検査?」
「はい! 冒険者としての基本的な資質を測るために、実技テストを受けていただきます!」
(やばい、俺、剣も魔法も使えないんだけど!?)
不安を抱えつつ、俺はギルド奥の訓練場へ向かった。
***
訓練場には、ガチムチの教官が立っていた。
「新入りか」
「は、はい!」
「お前の実力を見せてもらう。そこの木剣を持て」
俺は渡された木剣を手に取った。
(やべえ、まともに剣なんて振ったことないんだけど……!)
俺は適当にそれっぽく構えてみる。
「……お前、剣を握るの初めてか?」
「……バレました?」
教官は頭を抱えた。
「はぁ……まあいい。攻撃してこい」
(どうしよう……待てよ、俺には『全知全能』があるじゃないか!)
俺は心の中でスキルを発動し、最適な剣の振り方を知ろうとした。
【全知全能発動】
——『剣の振り方』を検索中……
——検索結果:お前が思ってるより意外と難しいぞ!
(いや、そういうのじゃなくて、ちゃんと振り方を教えてくれよ!)
——『基本的な剣の振り方』:柄をしっかり握り、力を入れすぎず、肩の力を抜いて振り下ろすこと。
(おお、なんかそれっぽい!)
俺は指示通りに力を抜いて剣を振り下ろした。
——バキィッ!!
「ぎゃああああああ!!?」
剣が手から滑り、俺の足の指を直撃した。
「……」
「……」
沈黙が流れる訓練場。
「お、おい、大丈夫か……?」
「だ、大丈夫です……!!」
涙目で立ち上がる俺を見て、教官は深いため息をついた。
「お前、本当に大丈夫なのか……?」
「は、はい! ちょっとスキルの使い方が……」
「……どんなスキル持ってるんだ?」
「えっと……『全知全能(ただし使い方は自分で調べろ)』 です」
「……」
教官は俺をじっと見つめた後、ポケットから小さなメモを取り出した。
「……それ、どうやって使うんだ?」
「俺が知りたいです!!」
俺は全知全能を使って「戦闘における最適な戦い方」を検索した。
【全知全能発動】
——『戦闘における最適な戦い方』を検索中……
——検索結果:とりあえず逃げろ!
(いや、それは違うだろ!!!)
俺は心の中で絶叫した。
「……とにかく、もう一回やってみろ」
俺は再び剣を構えた。
(よし、ここは慎重に……)
剣を振り上げた瞬間——
——バキィッ!!
「ぎゃああああああ!!」
今度は足を滑らせ、派手に転んだ。
「……」
「……」
教官は深いため息をつき、俺の肩をポンと叩いた。
「……よし、合格だ」
「えっ、いいんですか!?」
「まあ……戦闘は向いてなさそうだが……スキルが強そうだし、なんとかなるだろ」
(雑すぎるだろ、この世界の評価基準!!!)
こうして俺は、無事に(?)冒険者登録を済ませた。
受付へ戻ると、受付嬢が微笑みながら冒険者カードを渡してくれた。
「おめでとうございます! では、最初の依頼ですが……」
「はい!」
「スライム討伐なんて、いかがでしょう?」
「スライム……?」
(……俺のスキル、スライム戦で役に立つのか?)
俺は妙な不安を抱えながら、最初の依頼へと向かうことになった。