チートスキルの使い方がわからない
「……とりあえず、落ち着け俺」
深呼吸をしながら、自分の状況を整理する。
現状
1. 異世界に転生した
2. チートスキル「全知全能」を持っている
3. しかし、スキルの使い方が分からない
4. 説明してくれる人がいない
5. 異世界とはいえ、見渡す限り草原で町らしきものはない
6. 腹が減った
「……うん、わりと詰んでない?」
チートスキルがあるとはいえ、使えなければただの凡人。いや、むしろチートが使えない分、普通の人よりタチが悪い。
「とりあえず、スキルの発動方法を試してみるか……」
俺は両手を広げて、それっぽいことを言ってみた。
「スキル発動!」
……何も起こらない。
「じゃあ、『全知全能、発動!』」
……沈黙。
「スキル……オン?」
無反応。
「おいぃぃぃぃ!!! どうやって使うんだよこれ!!!!」
その瞬間、俺の頭の中に機械的な声が響いた。
『スキルの発動方法を知りません』
「知れよ!!!!」
『スキル『全知全能』を使えば発動方法を知ることができます』
「じゃあスキルを使わせろよ!!!」
『スキルの発動方法を知りません』
「いや、無限ループやめろやぁぁぁぁぁ!!!!」
まさかの詰み案件。
「……もしかして、このスキル、無能なのでは?」
全知全能とか言いながら、俺が知りたいことを何も教えてくれないんだが!?
「え、俺、転生する時にスキル選択ミスった?」
もはやチートどころか、ただの不具合スキルじゃないかコレ。
「くそっ、こうなったら物理的に動くしかないな……」
俺はとりあえず、適当に歩き始めた。
しばらく歩くと、小さな青色のスライムが跳ねているのを見つけた。
「お、モンスターか?」
スライムといえば、初心者向けの雑魚モンスターって相場が決まっている。ゲームで言えば、まず最初に戦う相手だ。
「よし、チートスキルがダメなら、まずは物理戦闘だ!」
俺は意気込んでスライムに向かって走り出し――
「くらえ! 正拳突き!!!」
ポヨンッ
「やわらかッ!?」
拳を振るった瞬間、スライムのプルプルボディが衝撃を吸収し、俺の拳はむしろ逆に弾かれた。
痛くはないが、全くダメージを与えられた感じがしない。
「え、こいつどうやって倒せばいいの?」
その瞬間、頭の中にまたあの機械的な声が響いた。
『スライムの弱点を知りません』
「お前何のためにいるんだよ!!!!」
スライムはそのまま俺の腕に飛びつき、じわじわと絡みついてきた。
「え、ちょっ……おまっ……離れろ!? って、熱い熱い熱い!!!」
『スライムの胃液は約75℃です』
「情報だけ教えるなぁぁぁぁ!!!!」
俺は必死にスライムを振りほどこうとしたが、プルプルしてるくせに意外と粘着力が強い。
「くそっ、こうなったら……!」
俺は地面に転がっていた枝を手に取り、スライムをグサッと突いた。
ズボッ
「お、おおお!? なんか効いてる!?」
スライムはプルプルと震えながら、俺の腕を離して逃げていった。
「え、俺、まさかの物理武器頼り???」
スキルが使えないので、どうやら俺の異世界生活は棒切れ片手に始まるらしい。
「……転生って、もっとこう、楽しいものじゃなかったの?」
絶望のまま、俺の異世界生活は幕を開けた。
(続く)