空っぽ
9.725027
「これに……触るな!」
暴れて抵抗するレナスさん。
ばたつかせている手足は容赦なくわたしを殴りつけてくる。
肩や胸、お腹やみぞおち。ふとももや脇腹。あらゆるところに痛みが走る。
もちろん顔や頭にも攻撃は飛んでくる。
片手はレナスさんの手首を掴んでいる。
もう片方の手は魔法使いのメモリを摘んでいる。
両手に空きがないわたしに、防御する術はない。
「やめろ、離せ! 離せ!」
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。すごく痛い。
けど……そんな事言ってられない。ここからは……自分と精神との戦いになる!
「所有者登録……開始!」
メモリを掴んだまま叫ぶ。
わたしが考えたのは『所有者登録』
ミストさんの世界でやったことだ。
所有者登録を行うと、メモリが……たぶんわたしのものになるからメモリの効果がなくなると……思う!
無責任かも知れないけど……現状でこれがレナスさんを助ける確率が一番高い。
^=}:<@*;]|\^@?
謎の言葉が聞こえ、左目に一筋の光が走ったけど気にせずにすかさず『日本語で承認で設定!』と発する。
一瞬ののち、メモリから『承認確認。日本語に設定しました』と音声ガイダンスが流れる。
よし、合ってた! 間違ってたらどうしょうと思ったけど、合っててよかった!
「所有者登録を更新します。そのままメモリに触れていてください。更新は自動的に行われ、更新は約1分から2分ほどかかります」
「へっ?」
所有者登録の……更新? 1分?
「ちょっ、まっ!」
「いいかげん、離れろ!」
「いたっ!」
レナスさんがわたしを蹴り飛ばし、手のひらをこっちに向ける!
「所有者の接触確認がとれないため、更新を一時中断します」
「ミナミぃ!」
「やばっ……!」
ミストさんの声が響いて、『燃え尽きろ! じゃま虫が!』レナスさんの怒号が聞こえる。
「……ヤバい……絶体絶命ってヤツ。これ?」
そんな落ち着きのある声で言ってしまう。
向けられた手のひらから熱そうな火の玉が出来上がっていく。
「レナスっ!」
「!!」
レナスさんが声の方に向く。
そのスキに急いで体勢を直してダッシュで逃げる。
「アリィィィィィィィィ~~~~スぅううぅうう~~~~!」
わたしに向けられていた火の玉は、今度はアリスさんに向けられた。
「レナス! やめるんだ!」
「焼き消えろ!」
ラケロスさんの声も虚しく、火の玉はアリスさんに向かって放たれる!
「アリスさん! ミストさん! 逃げて!」
必死に叫ぶ。でも、アリスさんもミストさんも逃げる様子はなかった。
「ミストさん! アリスさん!」
もう一度叫ぶ。でも 逃げない。
むしろアリスさんの左手に持っている灰色の『羽』? を掴んだ。
そして、炎の玉が突きだした羽に衝突。そのまま羽を持ったまま薙払い、炎の玉が消し飛ぶ。
「な……んで……?」
呆然とするレナスさん。それと対象にしてやったりの顔のアリスさん。
「私の……羽?」
「気がついた? ご名答。あんたの羽は有用ね。魔法を消し飛ばせるんだから」
「私の羽を……制御下の置いた……の?」
「違うわよ。あんたの元から離れた羽は、ただの羽になったの。でも、魔法防御の特性を持ったただの羽だけどね」
「死に損ないめ……今度こそ消してやる……」
「いいわね。第2ラウンドと行きましょうか」
お互いににらみ合い、動きが止まる。
「ミナミ……どうだったの?」
スキをレナスさんのスキを突いたのか、ミストさんが後ろから声をかけてきた。
「ううん、ダメだった」
「ダメ?」
「うん、更新には1分かかるって……」
「1分だけ? じゃあそろそろ終わってるんじゃないの?」
「……ごめん。言葉が足らなかった。1分かかるのはわたしがメモリに接触してから1分」
「接触……じゃあ、ホントにまだ……」
「ごめん。終わってない」
「どうすんの……」
「……」
答えられなかった。
ほんとにどうしょう。でも、なんで……あの時は……
「あ……」
そうか……
あの時は、何もかもが全部終わってる状態だった。終わった後で所有者登録をしたからずっと持ったままだったんだ。持てたままだったんだ……
でも、今は……
「状況が違う……」
「えっ?」
ミストさんには簡潔に説明して、これからどうするか考える。
「じゃあ、しばらく触ってないといけないって事よね」
「そう言うことです」
「正直、あの状態じゃ難しいわね」
目を向けると、アリスさんとレナスさんが近接での魔法合戦をしている。
魔力で作った剣のようなものを振り回しているところでアリスさんが羽で、なんとかしのいでいる。
「……行ってきます」
ぼそっと言葉を落とす。
「本気……?」
問いかけに『もちろんです』と返す。
「あの状態でいけるの?」
「はい。行きます」
アリスさんとレナスさんの戦い。
わたしはいまからあの戦いに介入しないといけないんだ。
怖いけど……とても怖いけど行かないと……
「……ひとりじゃないよね?」
「もちろんです。付き合ってくれますよね? ミストさん」
「当たり前でしょ。そんなに怖がってるあんたとひとりにできないから」
ミストさんはお見通しか。出会ってからまだ短いけど……ふたりで結構いろいろと経験したからなぁ……
「じゃあ、わたしからも聞きますけどいけますか? あの状態で?」
「行けるよ。当たり前じゃん」
「……ありがとうございます」
すごく、すごく心強い……それと、安心した。これで行きませんなんていったらたぶん心が折れてあきらめていたと思う。
「じゃあ、スキを作ってくるね」
「すいません……お願いします」
「謝ってるんじゃないわよ。あんたはあいつを捕まえることだけど考えて」
「はい」
そして、ミストさんは駆けだしていった。
「……覚悟を決めろ……」
ほっぺたを両手で叩いて気合いを入れる。
そして、腰のダーマドライバーを握って……メモリを取り出した。
◆
「いいかげん……倒れろ!」
「いいわね、その負け犬っぷり。板についてるんじゃない? アリス」
「……だまれ! 死に損ないがぁ!」
レナスが放った魔力の弾丸が羽根を持ったアリスにあっさりとたたき落とされた。
「なんで……なんで……デットエンドエクスデスをまともに食らったのになんで……あんは……!」
「あんたもでしょうが」
そこで、レナスは気づいた。アリスの左腕での違和感に。
「私の羽根を……そうか」
「気づいた? でも本質まで気づいてるかしら?」
アリスの左腕には灰色の羽根が三本刺さっていた。
「羽根を介して……マナを体内に強制注入してるのね」
「そうよ」
「わかってるの? あんた壊れるわよ?」
「そうね……もしかしたらしばらく動けなくなるかもね」
「今すぐに羽根を抜きなさい!」
「あれ? もしかして心配してくれてるの?」
「アリス!」
「そのちっちゃい胸に刺さっているものを抜いてくれたら、私も羽根を抜いてあげるけど?」
「お前……!」
「その怒りはどっちの怒りかしら?」
アリスは無言の怒りのまま、魔力弾を放つ。
しかし、その弾はアリスの持つ羽根にかき消された。
「なんで……!」
「なんで? どんな感情の『なんで』かは知らないけど、魔法を私に直撃させたいなら、まずはあんたのこの羽根をどうにかさせなさい」
羽根をヒラヒラとさせながらアリスはレナスに挑発をかます。
「これだから……天才は……イヤになるっ……!」
「誉め言葉として受け取っておくわ」
「必ず倒す」
「必ず止める」
「ふたりとも、やめてくれ! レナス! 胸のメモリを抜いてくれ!」
「できません! これは……絶対に先生が持つべきものです!」
「レナス……どうして……」
「待っていてください。すべて終わったらお返ししますから」
ラケロスはそのままうなだれて黙ってしまう。
ふたりは対峙し、動かずにお互いを牽制してにらみ合う。
「お~~怖い、怖い」
二人の間に言葉が割り込む。
「怖いわ~~あんた達怖いわ~~」
割り込んできたのはミストだった。
「お互いがお互いを殺し合う思いってやつ? 怖いわー」
「……何しにきた?」
レナスの問いにミストは『アリスと同じよ。あんたを止めにきた』と答える。
「マナを……魔法を使えない人間が……この場に出てくるな!」
「あれ? わかっちゃった?」
「今ならわかる……お前からはまったくマナを感じない。いや違うか。まったく『違う異質なマナ』しか感じない。お前のツレもそうだ」
「あらら~わかっちゃったか」
「下がれ。役不足だ」
「いやいや。わき役ぐらいさせてよ」
「……なら死体役でもやってろ!」
有無を言わさずに、レナスは炎を纏わせた魔力の玉を放つ。
しかし、またもアリスの持つ羽根によって放たれた魔法はかき消された。
「くそっ!」
「まったく、感情にまかせるとロクな事がないわね!」
「くっ! いつの間に……離せ!」
かき消された魔法のスキをつき、ミストはすばやくレナスの背後にまわり、脇から腕を絡めて羽交い締めにして拘束し、動きを止める。
「ミナミィ!」
「お任せあれ!」
その声をとともに、ミナミが暗闇の中から駆けだしてきた。
◆
「よし、ここから……」
こっそりと、物陰に隠れて状況を見極める。
今、ミストさんがレナスさんのスキを作るために、レナスさんの前に出てきている。
いつ状況が変化するか、わからない。
わからないから、じっと見てることしかできない。
なにか話してるけど内容を聞き取るほどわたしには余裕がない。なんせ焦っているから。とにかく状況を判断して的確な行動をとらないと、ミストさんとアリスさんの行動がすべて水の泡になる。
とにかく、じっと待って作ってくれたチャンスを待つしかない。
「ミストさん。能力を貸してくださいね」
盗賊のメモリを両手で包み込むように握って祈る。
「ミナミィ!」
時はきた! いまこそ駆け出すとき!
「お任せあれ!」
駆け出した直後に見えるのは羽交い締めされたレナスさん!
「じっとしててください!」
「お前! ふざけるな!」
「がっはっ……!」
お腹か痛みが走る……痛い。すごく痛い……泣きそう……
「ミナミ! 大丈夫!?」
「大丈夫です……」
駆け寄ってきたミストさんに大丈夫なことを伝えなんとか、立ち上がり、お腹を押さえる。
「痛たぁ……」
「思いっきり入ったからね」
「すいません……せっかく押さえてくれてたのに……」
「いいよ。ミナミが無事なら」
「ありがとうございます」
ミストさんが作ってくれたチャンスを……無駄にした……
正面からメモリを掴もうとした瞬間。
レナスさんはわたしのお腹に強烈な蹴りを入れてきた……あれは反則でしょ……
「うわぁ……」
セーラー服にくっきりと足跡が張り付いている……これは強烈だなぁ……
「ふぅ……」
呼吸を整えて息を吸い込んで、レナスさんを見る。
「……レナスさん! おとなしくメモリを返してください!」
痛みを抑えつけながらレナスさんを睨み、叫ぶ。
「これは、先生が持つものだ! お前が持つものじゃない!」
「ううっ……分からず屋!」
レナスさんに駆け出し、胸のメモリを掴もうとするが、またしてもレナスさんはかわしてしまう。
「お願いですから、返してください!」
「断る!」
「……レナスさんは、戻るべきなんです。ヒトに戻るんです!」
「お前は黙れ!」
「ラケロスさんが……待ってるんです! 人間のあなたを! だから……」
「先生……」
レナスさんがラケロスさんの方を向いた!?
「ごめんなさい!」
レナスさんの一瞬のスキを見逃さす、懲りずに駆け出す!
「しつこい!」
ひらりとかわされる……
だめだ捕まえられない……どうしよう掴めない。
「このままじゃダメ……だよね」
今の『わたし』じゃだめだ……
空を見上げ天を仰いで……決心する。
「もうあきらめろ。そして死ね」
おふぅ……死ねって言われた……絶対に死にたくない! だから……
「レナスさん。わたしは死にたくありません。だから、これからわたしはわたしじゃなくなります。たぶん」
「はぁ? なに言ってるの?」
息を少しだけ吸い込んで決心を固める。
「ミストさん! 能力借ります!」
「メモリ……?」
茶色のメモリを取り出し、ボタンを押す
メモリからは、かわいい声で『盗賊』と音声が流れる。
「ドレスアップ!」
メモリをダーマドライバーに差し込む。
どうなる? わたしどうなる!?
青い鎧ほど動きにくいって事はないと信じたい!
メモリから丸縁の短剣マークみたいな光が飛び出してわたしを包み込む。
そして……光は一瞬でなくなる。
「うわっ……腕になんかある……」
鏡がないから全体がわからないけど……目に入ってきたのは腕に皮の小手? さらに視線を動かすと胸には弓道でつけているような胸当て。
腰には腰巻きのような布が巻かれていて……ローファはブーツに変わっていて……さらにスカートの下にはレギンス? のようなモノを履いていた。
すべてセーラー服の上から装着されている。 レギンスはちがうけど……
「姿が変化した……」
レナスさんのつぶやきを無視して『ミストさん! わたしの格好どうなってますかぁ!?』と問いかける。
「う~ん……あんまり変わってないかも? 変わったのは服装だけ? まぁ青い鎧ほどの驚きはないかな?」
「ありがとうございます!」
変化はほとんどない。っていうかなんか体がすごく軽く感じる。
これなら……ミストさんみたいな立体的な動きができそう。
「……その変化した格好があんたじゃなくなるって事なの? 見た目的にはあんまりかわってない感じがするけど?」
「レナスさん。見た目じゃないんですたぶん『中身』です」
「そう、じゃあ。さよなら」
レナスさんは手をわたしの方にかざす。
でも。
「遅いですよ」
一瞬でレナスさんの目の前まで間合いを詰め、かざされた手首を掴む。
「なんなの……あんた」
「びっくりしましたよね? わたしもびっくりです」
手首を掴んだまま、お互い目を凝視したまま会話を続ける。
「消えなさい」
残った方の手のひらからレナスさんは炎を放つ。
首を横に振って放たれた炎をかわし、手首を掴んでいいない手で胸のメモリを掴む。
「させない!」
「うわっ!」
たぶんレナスさんの風の魔法……だと思う!
突然、小さい竜巻が巻き起こり、わたしとレナスさんは宙に飛ばされた。
「レナスさん!」
「絶対に……これは渡さない! 先生との絆を無くしたりはしない!」
確固たる意志を感じる……
レナスさんにとって『魔法使いのメモリ』はとても大切なもので……とても大切なひととの絆なんだ……だけど!
「……すいません! それでもメモリが欲しいんです!」
「この……わからずや!」
「どっちがですか!? メモリがなくたってレナスさんとラケロスさんの絆はなくなったりはしません!」
落ちながらわたしもレナスさんにわたしなりの意志を伝える。
「いいから黙って!」
片方だけの翼をはばたかせ、レナスさんは急上昇し空中で停止した
「終わらせてやる!」
夜空に掲げた手のひらから炎が生まれる。
時間と置くとどんどん大きくなる感じの魔法の攻撃
「レナスさんの、ばかぁ!」
叫び、建物の壁ベランダ、街頭の柱を駆け上がっていき、レナスさんの目の前まで駆けめぐる!
すごい、わたしがわたしじゃないみたい……これって盗賊の……ミストさんの能力なんだ
「ちょっと失礼します!」
「こいつッ……!」
レナスさんの頭に手を置いてそのままレナスさんを飛び越えて背後にまわる。
「捕まえ……た!」
腕ごと腰に強く抱きついてアリスさんに目を向ける
「アリスさん! わたしごと『拘束』してください!」
「拘束……」
「わたしとミストさんが初めてあったときのアレです! 急いでください!」
「……!ッ わかった!」
アリスさんは目を閉じて魔法を唱える準備に入った……あとは
「離せ! 腕を切り落とすわよ!?」
「切り落とされるのはイヤですけど、お話だったら切り出しますよ!」
「また……それっ!? いいかげんにしろ!」
「結婚式はどこでやるんですか!? 決まってますか!?」
「なに言っての?! お前は!」
とにかく時間を稼ぐ! どんな事をしてでも!
「どうですか? 和式で結婚式してみませんか!?」
「わしき? なんだそれは!? って、いいから離せ!」
「いいですよ話しますよ。和式はですね、純白無垢の羽衣かな? を着てですね。旦那さんは対照的に黒の和服を着て行うんですよ! 洋式の結婚式と違ってなんか神秘的なんですよねっ!」
「いいかげんに……!!」
「ミナミっ!」
ミストさんの声が聞こえた瞬間、掴んでいた左手をとっさに上にあげる
そしてレナスさんの声が遮られると同時に、わたしとレナスさんに光の輪が二重、三重と巻き付いた。
「アリスッ!」
「悪いわね……レナス……これで私は本当にからっぽ……」
「髪が白く……無理がたたって魔力が尽きたわねアリス」
「アリスさぁあぁああぁぁぁあぁぁあぁあん! ありがとうございまぁあぁぁああぁぁぁぁあああす! 所有者登録、再開!」
挙げていた左手でレナスさんの胸に刺さっているメモリを掴む
「接触を確認。所有者登録を再開します」
メモリから声の声を確認して『お願いしまぁあぁああす!』と思いっきり叫ぶ
「耳元で……騒ぐな! くそっ! こんな輪っか、魔力で吹き飛ばして……!」
レナスさんはもがいて肩を上下してるけど、光の輪が動いているだけで変化はない。
「なんで……? ちぎれないの? これは……私の羽根?……」
レナスさんは何かに気づいているけど、わたしからはなにも見えない。
「この羽根が……光の輪を介して私の魔力を抜き取ってる……でも……それじゃこの強度は……なんなの?」
レナスさんはじっと、何かを見ているっぽい? たぶん口に出してる羽根のこと?
「羽根が二枚? 二枚……? そうか、この羽根が魔力を放出して……もう一枚の羽根で魔力を吸収して……」
「レナスさん?」
抵抗しても無駄だと悟ったのかレナスさんの動きは止まった。
「ねぇ、聞いてよ。アリスは天才を越えた天才よ」
「……そうかもですね」
「この光の輪は魔力で強度をかさまししている……あの詠唱の中で あの一瞬で……羽根に放出と吸収の術式組み込んで、さらに光の輪に魔力で強度を増す術式組み込こだ……そんな高度な芸当を成し遂げたのよ? 術式に深い理解と造形があっても説明できないっての。あいつの頭どうなってんの? イカれてるわよ」
「お察しします」
「先生……ごめんなさい。負けちゃいました」
「ラケロスさんとあなたの絆はこれかも続いていきます」
「……ありがとう」
「結婚式。呼んでくださいね」
「……そうね。そのわしきだっけ? その話も聞きたいし」
「楽しみにしてますよ」
その時、『所有者登録完了しました』と声がメモリから漏れた。
「ごめん、落ちるわ」
「へっ?」
レナスさんの声と同時に拘束していた光の輪が消えた。
「所有者登録以外のメモリ使用を確認。メモリを強制停止および排出します」
「えっ、ちょっ……とぉおおぉぉおおぉおぉおおぉおお~~~!!」
メモリがレナスさんからはずれた……はずれたけど!
「お、落ちてるぅぅぅぅううぅぅぅぅぅうぅうぅうう~~~~!」
「大丈夫よ。あいつが……アリスがなんとかするから」
「でも、でもぉぉおおぉぉおぉ~~~~~~!」
空から急速に落ちているわたしとレナスさん!
でも、レナスさんはわたしと違って叫ぶわけでもなく……!
「地面! 地面!」
迫り来る地面。衝突待った無し!
終わった……わたしの人生が終わったと、思った矢先に……
「あ、あれ?」
地面と衝突するかもしれない瞬間。地面スレスレで落下が止まる。
「と、止まってる?」
寸前。本当に目と鼻の目の前に地面がある。しかもわたしの目と鼻の先にはガレキが無造作に積んである。
さらに言うなら……わたしの体は宙に浮いて止まっていた。
ガレキに直撃だったらきっと天国のおじいちゃんに会っていたと思う。
「アリス……からっぽじゃなかったの?」
どうやらこの宙に浮いている状態はアリスさんが、何かをしてくれたらしい。
「これで正真正銘からっぽ。火の玉すら出せないわ。今なら私を倒せるわよ」
「冗談。こっちは元々の『空っぽ』に戻ったのよ? 倒す術がないわ」
「そう。じゃあ、休ませてもらうわ。おやすみレナス」
「……おやすみアリス。いい夢を」
「アリスさん!」
アリスさんは地面に倒れ込んで……目閉じて動かない
「アリスさん!」
呼びかけても返事はなかった……
空っぽ 完