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治癒師と助手

 6.146825



「お帰りの際に塗り薬を受付で受け取ってください」

「はい。わかりました」

「1日1回。夜寝る前に塗っていただければ数日しないうちに痛みが引くはずです。あ、もし薬を塗ってもまだ痛いが引かないようならもう一度来てください」

「はい。ありがとうございます」


 その男は、若くしてひとの身体を理解して治す事ができる。年の頃なら二十代前半。

すらっとした体型と身長で髪も長くもなく短くもなく顔立ちもいい、白衣を着こなすこの男性を若い女性ならきっと『カッコいい』と評価されるほどの男性だ。ただ、髪型がボサボサで整っていないのがタマ傷だ。


 そしてこの魔法使いの世界では『二つの意味』でかなり奇特な若者でもある。


 魔法ですべてまかなえるこの世界では、ひとの身体を治すのも魔法で事足りることだ。だが、それも『軽いケガ程度』なら問題ないと、付け加えておこう。


 問題なのは重傷レベルのケガや瀕死レベルのケガは『治癒の魔法をかけ続けなければならない』こと。そしてそれは完全に直るまで続く。


 そもそも治癒魔法は実際に傷を治すのではなく『人体の治癒力の向上・強化』だ。


 この事が意味するところは休む間もなく、絶え間なく続けなくてはならない。魔力がつきる限り。


 魔力が尽きるイコール死。


 故に重傷の患者には魔法使いが付きっきりで魔法かけ続け、代わる代わるかけ続けなくてはならない。


 そしてさらに問題なのは『治癒魔法が使える魔法使い』の絶対数が圧倒的に少ないことだ。


 アリスが使える飛翔魔法よりかは使える人数は多いが、大勢とは言えない。


 治癒魔法は傷を治すことはすなわち、人体に影響を与える事。人体は繊細。故に修得するのには筆記試験と面談試験を合格し、ライセンスを持たないといけないからだ。


 それに、資金もかかる。


 故に、治癒魔法を使えるのは国や街が認めた治癒魔法のライセンス持ちの魔法使いに限られるという事。


「それでは、今日はこれで終了です」

「ありがとうございました」


 ご老体の女性は目の前の白衣の男性に頭を下げて、診察室からでる。


「レナス、休憩は終わりだよ。薬を用意して受付で渡して」


 男は隣の診察室のベッドで寝ていた少女を起こす。


「……」


 眠気眼の少女名は『レナス』


 幼い顔立ちで銀色の長い髪を後ろで結っている。


 見た目は幼いが、年齢は15~16くらいだろうか。この物語の海波と同じくらいの年頃だろう。


「レナス、調合棚の68番の薬を受付にいる患者さんに渡して、それと待合いに患者さんがきてるから、問診票を書いてもらって」

「……わかった」


 眠りから覚めたばかりなのか、けだるそうにレナスは白色の上着を羽織る。


 レナスは受付には行かず、指示された調合棚へと向かい立ち止まらずに、68番の薬をすれ違い様に手に取り颯爽と受付へと向かう。


「大変、待たせしました」


 受付で待っていたご老体に女性に笑顔を見せて対応を始めた。


 さっきまでけだるそうな表情は完全に消して、満面の笑顔で出迎える。


「こちらがお薬となります。夜、寝る前に塗ってください」

「はい。わかりました」

「では、お会計ですが、診療代と薬代込みで銅貨3枚になります」

「3枚ですね」


 ご老体の女性が硬貨を財布から探している間にレナスは待合室で待つ三人を見た。


 そこにはこの世界ではいないはずのセーラー服を着た女の子と、やたら露出をした服を着ている女の子。それに、見知った黒い服とマントを羽織った女の子がひとり。


「……」


 レナスはその見知った顔を見ると、明らかに不機嫌そうな顔をしたのだった。



 ◆



「ねぇ、そんな格好で大丈夫なの?」

「なに? あたしの服装に文句あるの?」

「いや、ない。ないけど、お腹を出して、ふとももむき出しで腕も出し放しだしさ。それと布の面積が少なくない? 冬とか寒いんじゃないの?」

「いやいや、それ言うならミナミだって結構むき出しよ? ふとももとか」

「ちょっ! わたしはミストさんみたいに変態露出狂じゃないです!」

「あれ? いま結構ヒドいこと言わなかった? ねぇヒドいこと言わなかった? ミナミ?」

「気のせいです」

「仲良いわね。あんたら」


 待っている間。わたし達は他愛もない会話を楽しんでいる。


「ねぇ見てよ、ミナミのこの服だっておかしくない? なにこの無駄なヒラヒラ。いらなくない?」

「ちょっ、やめてくださいよ! 見えちゃうじゃないですかぁ!?」

 わたしのプリーツスカートを摘んで持ち上げてくるミストさん。


 急いでスカートがめくれるのを防ぐため手で押さえるわたし。


 まったく! 誰もいないからいいけど……本当見えちゃうしやめて欲しい……


「そ、それを言うならその……アリスさんのスカートとかマントかヒラヒラじゃないですか?! いらないんじゃないですか? マント!?」

「いやいや、私を巻き込まないでよ。それと、マントは必要だから! 必須だから!」


 マントを抱きしめるように握りしめ、必死に必要性を訴えてくるミストさん


 わたしにはまったくマントの必要性がわからない。わからないけど『魔法使い』には必須なんだろうとなんとなく理解した。


 なんとなく会話が止まってしまったので手持ちぶさたでスマホをポケットから取り出す。


「あ、なに。すまほ見てるの?」

「ええ、この前写真一緒に撮ったじゃないですか? 少し盛ろうかなって?」

「少しもろう?」

「あ、そうですね……」


 盛るってなんていったらいいんだろう……『加工』かな?


「この画像をその……こういう風にして……」

 わたしはミストさんの眼を大きくしたり小さくしたりして説明してみせる。


「キモっ! なにこれ! あたしの眼大きくなってる!?」

「他にもこんな事もできますよ」

 と、言い肌色スライダーを動かす。


「えっ!? 肌が白くなってるんだけど!?」

「はい、そうです。色々とできますよ」

「ちょっとなにそれ! 新しい魔法!?」

「いやいや、違いますよ。それにわたしは魔法なんて……もごっ!」

 突然、アリスさんはわたしの口を片手で塞いで『待って、それ以上言っちゃダメ』と耳元で囁く。


「えっ……?」


 驚いた顔のわたしを尻目に塞いでいた手をゆっくりとどけて小さい声で言う


「ここじゃ魔法は使えないって絶対に言わないで」

「理由があるんですね……わかりました。後でゆっくりと聞かせてください」

 必死の顔のアリスさんを見て、理解してそれ以上は聞かず、アリスさんは静かに頷いた


 そんな会話を交わしていると、診察室からおばあちゃんが出てきて受付の前で立ち止まる。


「大変、待たせしました」


 受付の奥から女の子が出てきておばあちゃんに紙の袋から薬らしきものを見せてテキパキと話しかけている。


「では、お会計ですが、診療代と薬代込みで銅貨3枚になります」

「3枚ですね」


「ん?」


 おばあちゃんがカバンから何かを探してくいるとき、女の子がこっちを向いたけど……


(不機嫌そうだなぁ……もしかして怒ってる?)


 そんな印象を抱かせる顔をしていた。


「そろそろですかね?」

「そうねそろそろかもね?」

「さぁ、どうかしらね」

 そういいつつ、柱側に座っていたアリスさんは、カバンから1冊の本を取りだして読み出したのだった。


「お大事にどうぞ」

 笑顔で見送られたおばあちゃんは、受付の女の子に優しく『ありがとう』と言って癒術所を出ていく。


 わたし達に気づいたおばあちゃんはひとつ会釈をしてわたし達も会釈を返した。


「すいません。こちらを書いてお待ちいただきますか」

「あ、あの、すいませんわたし達は……」

「私たち、患者じゃないわよ」

 1枚の用紙を持ってきた受付の女の子にアリスさんは冷たく言い放つ。


「私たち?……そう、アリスの知り合いなのね。あんたたち」

 さっきまでとは違い態度が180度変わってる? なんか高圧的な態度……と、言うかなんというか……すごい機嫌が悪そう……


「診療終わったんでしょ、ラケロスに会わせてくれる?」

「悪いけど、帰ってくれる?」

「はるばる来たのに門前払いはないんじゃない? レナス」

「どうせ先生が持っている魔導具が欲しいんでしょ!?」

「アレには興味があるけど、欲しいのは私じゃないわ。こっちの子」

 そう言ってわたしを指さすアリスさん。


 ちょっと待って! どうしようなんか怒ってるし……心の準備もできてないよぉ!


「ど、どうも……その……メモリを頂けないかなって……」


 しろどもどろで女の子に挨拶して正直に『メモリを頂けませんか』って言ってみた。


「帰って……」


 うん、知ってた。雰囲気的にたぶんそうだと思ってた。


「その……できれば一度……治癒師の方に会わせては……」

「……事情も知らない部外者のあなたに、先生と会う資格はない」

「ちょっと、いいじゃん少しくらい会わせてくれたって」

 ミストさんの空気読めない発言発動。この状況でこれはかなりまずいんじゃ……


「……! いいかげんに……」

 うつむいて……声がうわずって……あ、こぶしを握りしめてる……やっぱりかなりまずいんじゃ……


「あ、その、落ち着いて……」

「レナス」

 と、制止しようとしたところで、かなりベストなタイミングで待合室に響いた声。


「!……先生」

 その声でレナスと呼ばれた女の子は落ち着きを取り戻し、声を方を振り向く。


「騒がしいけど、どうしたの?」

 

 診察室から出てきた先生と呼ばれた男性。その声はさっきわたし達に待つようにと言ってきた男性と同じ声……つまり……このひとが治癒師のひと


「アリス来てたんだね。久しぶり。半年ぶりくらいかな?」

 治癒師の男性のひと……着慣れていないのか白衣が似合ってなくて……


 それいで優しい面もちで、身体も華奢……なんかとても弱々しくてとても優しそうな人。


 そんな印象を持った。


「違うわよ。一年ぶりくらいよ」

「そうか。なにはともあれ。久しぶりだね」

「そうね。お久しぶり。ずいぶんと施設内は様変わりしたわね」

「そうだね。ちょっと無理しちゃったけどいい感じでしょ。で、今日はどうしたんだい?」

「そっちの子が、ラケロスに用事があるそうよ」

 指さされたのは、もちろんわたしだ。


「これはまた……ふたりともずいぶんとヘンテコな格好なだね」

「ちょっ! ミナミはヘンテコだけど、あたしは違うわよ!」


 と、訂正してるけど……ミストさん。肌の露出をもう少し押さえた方がいいよ。寒いと大変だよ。


「で、何の用かな?」

「先生! そんなひとの話を聞くことありません!」

「レナス」

 治癒師のひとに名前を呼ばれただけで、レナスさんは硬直して黙る。


 名前を呼んだ声には……怒った感情と……なだめる感情……そんな思いが籠められた複雑な声だった。


「わかってるよね。癒術所に来た以上は患者さんの可能性がある。だからどんな話でも聞かないといけないんだ。治癒師としてね」

「すいません……出過ぎたマネでした」

 レナスと言う子は、深々と頭を下げると、一歩引いて頭をあげた。


「うん、わかってればいいよ。あ、別に怒ってないからそんなにかしこまらないで」

「はい」

「で、アリス用事はなんだい?」

「さっきも言ったけど、用事があるのはそっちの子。私は道案内」

「そっか。じゃあ、ヘンテコなカッコ子。用事なにかな?」

「あの、その……」


 相変わらずどこに行っても『ヘンテコな格好』と呼ばれる。いい加減、どこかでこの世界にあった服に着替えないといけないかな……


 と、そんな事を考えてもしょうがないから、とりあえず本題を言ってみよう。


「その……たぶん、これを持ってると思うんですけど……」


 わたしは持っていた学校指定のカバンから『勇者』のメモリを取り出す。


「ああ。ちょっと待ってね。たぶん、これの事だよね?」

 治癒師さんは一目見て、机の引き出しを開けて何かを取り出した。


「形も同じだし、これだよね」

 色は違えど、それはまさしくわたしが持っている『勇者』と『盗賊』のメモリと同じ形のもの。


 違うところ言えば、色が黒と言ったところだね。


「あの……これって、その、頂くことはできないですか?」

「欲しいって事?」

「はい……」

「一応聞くけど、アリスじゃなくて君が欲しいんだよね?」

「はい。そうです。できればいただければと……」

「確認だけど、何に使うの?」

「う~ん……その、何というか」

 職業の復活とかは言ってもなぁ……信じてもらえないだろうなぁ……


「このメモリを必要なひとがいまして……」

「君じゃないんだね?」

「はい」

 うそは言ってない。本当に必要なのは神父さんだし


「必要なひとは、そこのアリスじゃないよね?」

「はい」

 ずいぶんとアリスさんの名前をだすなぁ……このひとに何したのアリスさん?


 と、そう思いながらチラっとアリスさんを見た。


 私は関係ないからって感じで、本を読んでいる……


「なるほど……わかった。じゃあこれを持って行って」

「先生!」

 おとなしく聞いていたレナスさんが大声をあげて、治癒師さんを非難してくる。


「どうしてですか? どうしてそいつに魔導具を……」

「レナス。落ち着いて」

「落ち着いていられません! わかっているんですか……その魔導具がないと……先生はまた……」

「俺はもう大丈夫だよ。癒術所もなかなか繁盛してきたし、癒術も少しづつ広まっている。もう昔のような事はならない」


「昔のようにはならないって……どうしてそう思うんですか! 私は……私は納得できません!」

「レナス!」


 レナスさんは机に置いていたメモリを持って診察室の奥に行ってしまった……


 昔のように……か……


「すまない。明日また来てくれないか」

「わかりました。じゃあ、明日来ます」

「ごめんね」


 こうして、わたし達は癒術所を後にしたのだった。



 ◆


「さて、どしたものかしらね」

 口火を切ったのはアリスさん。


 あの後、わたし達は最初と同じでアリスさんのルラなんとかっていうびゅーんと飛ぶ魔法で工房に戻ってきた。


 夕食を食べ終わって夜が更けた時間帯。


 今は四人で机を囲んで今後の話し合いをしている最中。


「あの子がしゃしゃり出てこなければすんなりと、すんだんだけどね」

「まあ、そうですね……あ、あの、アリスさん。ちょっと聞いてもいいですか」

「なに?」


 わたしはあの治癒師の事をアリスさんに聞いてみる。


「あのふたり。昔のようにならないって言ってましたけど……なにかあったんですか?」

「……そうね……どうしたもんかしらね」

 アリスさんはバツの悪そうな顔で表情が曇っている。


 しゃべりたくないのかな……変なこと聞いちゃったかな……


「もったいぶらずに言ったらどうなの? ここまで来てだんまりってのはないわよ」

 ミストさんがけしかけると、アリスさんは決したのか口を開く。


「……わかった。この世界では魔法が誰も当たり前のように使えるのは聞いてるわよね」

「はい」

 答えるとミストさんも黙って頷いた。


「魔法が使えるって事、それは普通のひとって事。そうよね」

「まぁこの世界に限っては言えばそうなるわよね」

「そうですね……」

「じゃあ、もしあんた達のように魔法が使えないひとがいたらどうする?」

「普通に考えて……変な目で見ますよね? 極端な考えですけど用は服を着てないで歩いているようなものですし」


 わたしがそう答えるとアリスさんは『そう、そこよ』と返答。


「その変な目で見られているのが、あのふたりよ」

「えっ……」

「じゃあ……あのふたりって」

「そう。この世界で唯一、魔法が使えない人間。だから……その他人から叩かれたり……その……」

「たたかれる?」

「……迫害されてたって事よ」

 ミストさんが険しい表情で口を開いた。


「……そうね、ひらたく言えばそう」

「顔を見ればわかるわよ。それぐらい」

「ひどい……」

「殴られたり蹴られたりかなりヒドかったわ……見てられなかった」

「……あんたは見てただけなんだ」

「……」

「ミストさん。ちょっとそれは言い過ぎかも……」

 ミストさんをなだめるとわたしは優しく口調で切り出す


「わかりますよ。無闇に止めて暴力の対象になるのが怖いんですよね」

 どこの世界でも同じか……勇気を持って止めて……でも、いじめの対象がそのひとになる……同じだ……ここも。


「ごめん……私だって止めたかったでも……怖くて……」

「いいんです。アリスさんは何も悪くありませんから」

 そっと寄り添い、肩をやさしく抱き留める。


「でも、今は違うんですよね?」

 とても悲しい顔をしている、アリスさんをじっと見て答えを待つ。


「今は違う……理由はわからないけど、ラケロスが魔法が使えるようになって……それからはまったく」

「レナスさんでしたっけ? そのひとも今は大丈夫なんですか?」

「レナスも大丈夫……でも……魔法は使えない」

「なるほど……なんで突然魔法がって……聞いても理由はなんとなくわかるますけどね」

「そうね。たぶんメモリの影響ね」

「はい。たぶん……いや絶対にそうです」

「やっぱりそうなんだ……」

「アリスさんもそう思ってたんですか?」

「うん、ラケロスが魔法を使うと時っていつもあのメモリだっけ? を持ってたから……」

「決まりですね」

「そうね。で、アリス」

「な、なに?」

「結局、あの治癒師とどうゆう関係なの? 『見てただけ』っていうだけの関係だとは思えないんだけど」


 確かに……そうだ。今の話の流れからするとふたりの関係性が見えてこない。


 それと、レナスさんとの関係もわからない。


「……あいつとは師が同じだった弟子の関係よ」

「師が同じって……同じ人から学んでたんですか?」

「そう。魔法をね。でも結局、ラケロスは魔法を使うことはできなかった」

「どうしてですか……?」

「才能もそうだけど……もともとの魔力がなかったの」

「魔力?」

「マナを使うことができる能力……それを『魔力』ってここでは言ってるの」

「どうすることもできないんですか?」

「できないわね。魔力は生まれ持ったもので、後天的に付随することはできないの」

「だから……ラケロスさんは魔法を使えない……」

「マナに嫌われたのかしらね」

「でも……そのおかげでラケロスさんは癒術を得られたんですよね?」

「そうなのかしらね」

「ねぇ、そもそも『魔法』ってなんなの?」


 黙っていたミストさんが口を開く。でも……開いた言葉がそれなの?


「……知りたいの? 興味ありませんって顔してるけど?」

「興味はないわ。でも好奇心ってやつかな? とりあえず知っておきたい感じ?」

「そんな無意味な感情で聞こうとしてるの?」

「いいじゃん。減るもんじゃないし」

「この無駄な時間が減るんだけど?」

「あたしにとっては有益な時間よ」

「……自分勝手ね、あんたわ」

「どうも」

「いいわ。じゃあ魔法って言うのは、火・風・水・土の四大元素と光・闇の神秘元素のマナを術式化した学問よ」

 アリスさんから魔法の事が語られる。


「水の魔法を使うには水の元素の術式から。火を使いたければ火の元素の術式から。暖かい風を作りたいなら火と風の元素術式を組み合わせて『ひとつの魔法』として使うって感じね」

「えっと……すごく簡単に言うと……お湯の魔法を使うには火と水の術式が必要って事ですか?」

「まぁ、すごく簡単に言うとそうね」

 う~ん……ムズかしそうだなぁ……


「街で言ってた重量と反重力の魔法ってのはどんな術式なの?」

「反重力は土の元素に属しているから、まず土の術式内にある『重さ』の術式を無効にして反転の術式に書き換えて作動させるの」

「う~ん難しいですね……」

 だから、同時にふたつの魔法を使うってのは難しいのか……あ、でも……じゃあ


「あ、あの……」

「じゃあ、治癒魔法ってのは?」

 わたしが聞こうとしたところにミストさんが割って入ってくる。


「それは水と風に属してるわ、めんどいからざっくりと言うとまずは、水の術式にある『治癒』って術式の対象を自分からはずす、次にあふれ出た治癒を風の術式で手のひらから対象相手に飛ばしてるって感じね」

「それってふたつ魔法を使ってない?」

 と、ミストさんが訪ねる。


「同時にって言ったでしょ? 今のはまず、水の魔法を使ってその次に風の魔法を使ってる。同時に感じても実際にはひとつづつ使ってるの」

「なるほど……うん、むずい!」

 それは、わかる。うん。なるほど。ムズい。


「魔法は学問って言ってたけど」

「ずいぶんの聞いてくるのね。もしかして魔法に興味が出たとか?」

「まさか。知りたいことを知りたって思う好奇心よ」

「好奇心の使い方、間違ってるんじゃない?」

「ごたくはいいから」

「口が悪いわねあんた。まぁなんで知りたのかわからないけど、まぁいいわ。どうぞ」

「じゃあ、お言葉に甘えて言うわよ」

「ごたくはいいわ」

 ミストさんはひとつ頷いて口を開き始める。


 何言うんだろう? 究極の幻想(カードゲーム)の時もそうだけどミストさんって一見バカそうに見えて、意外と地頭いいからなぁ……


 おっと、こんな言うと怒られそう……こわっ!


「学問ならその術式を学べば誰でも魔法を使えるんじゃないの?」

「……なるほど。そこを突いてきたのね。意外と頭の回転は速いのね」

「誉め言葉として受け取っておくわ」

「そうね。言うとおり術式だけなら誰でも覚えることができる」

「だけ……?」

「覚えてる? 最初に言った、あのふたりが魔法が使えない理由」

「理由……」


 ミストさんは首を傾げてるけど、わたしはピンときてしまった。


「あ、はい……あの、魔力がないから……マナを使えないとか言ってましたよね」


 わたしがそう答えると、アリスさんは頷いて返した。


「そう。最終的には魔力=マナが使えないの解に辿り着くの」

 なるほど。だから魔法が使えないと。


「あ、そうそう言い忘れてたけど、魔法を発動させるには術式の最後に言葉にしないといけない」

「言葉?」

 わたしが首をかしげて聞いてみる。


「祝詞や呪文、言の葉や言霊といった声をきっかけにして最終的に魔法を発動させるのよ。私は詠唱って呼んでるけどね」

「あ~もしかしてあの、仰々しい口上はそういうこと?」

「そういうことよ」

「つまり……どんな魔法もなにかしゃべらないといけないって事ですか?」

「全部が全部ってわけじゃないけど、無詠唱……あ、えっと、何もいわないで発動した魔法は一瞬で効果が切れるのよ。こんな風にね」


 と、アリスさんは手のひらを空に向けて火を出した。


「ん、すぐに消えたけど?」

「これが無詠唱で発動した魔法よ。効果が一瞬で終わる」

「へぇ~」

 感心しているとミストさんから『使い道はなさそうね』との言葉が飛ぶ。


 でもなぁ……なんかこう……


「そうね。正直無詠唱魔法の使い道はないわ」

 う~ん……さっきも思ってたけど、なんとなくなにかに使えそうだけどなぁ……その『なにか』はわからないけど……


「これって、詠唱ってなんでもいいの?」

「術式に沿っていればね。特に決まりはないわ」

 アリスさんとミストさんのやりとりを聞いてわたしは『もしかして、口上を暗記するんですか?』と疑問を口にしてみる。


 アリスさんから『そうよ』と、返ってくる……う~ん暗記か……わたしでは無理かな魔法は。


「そうなんですね。なんかその……暗記、大変そうですね」

「即座に発動したいなら暗記は必須ね。でも、日常生活ではそうでもないわよ。『魔導書』に書き込んでそれを読めばいいから」


「まどうしょ……?」


 と、アリスさんは部屋の隅の小さいテーブルに積んである本を1冊持ってきて適当なページを開いてダイニングテーブルに置いてくれた。


「ん? 何これ?」

「この記号みたいなのが、術式でこっちが口に出す詠唱文よ」


 ページをのぞき込んでみると、右のページにはよくわからない記号みたいな文字? が踊っていて左のページには文字が踊っている。


「……」

「どうしたの? ミナミ考え込んでるけど、難しすぎて頭痛でも出た?」

「まぁ、ムズかしすぎてってのはありますけど……」

 なんかこの……術式って……なんとなくパソコンのプログラミングみたいだなぁ……文字はアルファベットじゃないけど。


「ふたつの術式を合体させてひとつの術式として使うことはできないんですか?」

「? どうゆうこと?」


 ふと思った疑問をアリスさんに訪ねてみた。


「あ、えっと……例えば……火と氷の術式を合体させてその……極大消滅魔法とか?」

「なにそれ? でも……そうか……ふたつの術式をひとつの術式にまとめるか……」

「で、ひとつの魔法として扱えば……」

「……なるほど」


 アリスさんはそれだけ言うと、ぶつぶつとひとり言を言い始めて、ペンと紙を取り出して何かを書き始めてしまった。


「では、みなさん。今日はこれでお開きにしましょう」

 今まで、黙って事を見守っていた? アズサさんが手を叩いて呼びかける。


「ああなった姉さんは、数時間はあのままですので、今日はもう休みましょう」

「今まで黙ってて第一声がそれ?」

「ええ、私は状況を知りませんから。口出しはできません」

「できた妹ね。あんた」

「皮肉ですか?」

「誉め言葉よ。でもそうね。あんたの言うとおり休みますか。なんか集中してるみたいだし」


 アリスさんをもう一度見る。うん、さっきまでなかった紙が大量に持ち込まれている……っていうか……紙を越えてテーブルにまで書いてない?


「ミナミ~お風呂一緒に入る?」

「あ、入ります」


 こうして、ミストさんと一緒にお風呂に入って、寝たのだった。


 治癒師と助手 完

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