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魔法はひとつ。箒はみっつ

5.908574



「ここがノアロームよ」

「へぇ~すごいめちゃくちゃ広い所ね」


 空飛ぶこと数分後。


 あっという間にロアノームの街に辿り着いた。


 いきなり街に着地すると、住人の方がびっくりするので街から少し離れた所に着地して徒歩で街に入る。


 街は木やレンガ? で作られた家やお店などで溢れている。とても活気に満ちた街。

 バハラタの街とは違いここはなんというか……とてもおしゃれな街だ。


 イギリスやフランスはこんな街並みなのかなと想像してしまう。


「空から直接街には入れないの?」

「入れるけど……そうね。飛翔魔法自体がかなり希少性の高い魔法であまり見せたいくないのよね」

「そうなの?」

「使用できる魔法使いは指の数より少ないわ」

「へぇ~、じゃああんた意外と有能なんだ」

「意外はよけいね」

 アリスさんとミストさんの会話。空飛ぶ魔法って意外とレアなんだ。ガチャだと『SSR』ぐらい?


「じゃあ、あれって魔法じゃないの?」

 と、ミストさんが指さす方空には、ほうきに乗った人が空を飛んでいる。


「あれは、魔法具で魔法そのものじゃないわ」

「でも飛んでるけど? あんただって最初に森に来てた時はほうきで来てたじゃん」

「あのときは箒で来たけど……さっきも言ったけど飛翔魔法じゃない」

「魔法じゃないの? じゃああれってほうきに空飛ぶ魔法をかけてるの?」

「仮にそうだったら、わざわざ箒にかけないでひとに直接魔法をかけるでしょ? そのほうが箒を持つ必要もないから」

「あ、そうか」


「あの……もしかしてここって空を飛ぶことが当たり前で日常なんですか?」

「そうよって、そうか、別の世界からきたあんたらはこの光景は異常か」

「まぁね」


 わたしも『そうですね。わたしの世界じゃそんな事はできないです』と返答して空飛ぶほうきを見上げる


 飛行機があるって言うのは伏せよう。あれはあのほうきのように個人で飛べないし。


「でも魔法じゃないないなら、なんであのほうきは飛んでいるですか?」


 と、聞く役だったわたしは、ふたりの会話に興味を持ったので参戦してみる。


「あれは、伝承魔法や古代魔法の一種」

「伝承……古代ですか?」

「そう、古代のひとが、誰でも空を飛べるようにしたのがあの箒」

「へぇ~そうなんだ。でもなら飛翔魔法の方がいいんじゃないの? ほうきを持つ必要ないんだから」

「それはそうなんだけど……飛翔魔法って修得がかなり難しいのよ」

「それは……なんとなくわかるような気がします」

 空を飛ぶってだけでかなり高度な気がする。まぁ言葉通り『飛翔の魔法』だしね。


「自分が空を飛んでいるイメージして、そのイメージを具現化して魔力付加して現実に反映させる」

「ん?」

 難しそうな話になりそうだぞ、これは。


「言葉にしたらずいぶん簡単そうね」

「なに言ってんの? あんたは空を飛ぶイメージはできるけどそれを現実にできるの?」

「できない」

「きっぱり言い切りましたね……」

 言い切ったミストさんにちょっと呆れた声で見た。


「できないものはできないんだし。言っていいでしょ」

「まぁ……そうですけど……」

 ミストさんとわたしの不毛な会話を聞いていたアリスさんはひとつため息をついた。


「遮ってその……すいません……」


「いいわよ。そういうの嫌いじゃないから。まぁ、それが難しいところで飛翔魔法は希少って言われる由縁よ」

「確かに使うのは難しそう」

「だとしたら、あたし達も空を飛べたのはあんたのイメージのおかげって事?」

「まぁ、そういうことになるわね。さらに言えばあなた達ふたりには反重力魔法を付与し維持・制御して飛んでたからね」


「おふぅ……なんかありがとうございます」

「おおっ……そうなんだ。ありがとね」

 とりあえず、お礼をいうわたしとミストさん


「いいわよ。で、箒の話に戻るけど箒は魔導具で飛翔魔法がかかってるわけじゃないわ」

「あ、ほうきの話はもういいわ」

「は?」

「ミ、ミストさん! あの、話してくださいわたし興味あります!」

 正直、飛翔魔法の話がすごすぎて箒はミストさんと同じくどうでもいいけど……『は?』がでるとなんか後が怖い。


「コホン。じゃあ話すわよ。魔導具の箒に付与されている魔法は飛翔魔法じゃないのよ」

「そ、そうなんですか?」

 と、話が再開されたけど……ミストさんはあくびをかいて街を見渡し始めた。


「……」

「ど、どうぞ。続けてください」

 雰囲気が悪くなる前に話をさせよう。そうしよう!


「ええ、付与されている魔法は『重力魔法』と『反重力魔法』それに『風魔法』よ」

「風の魔法だけじゃダメなんですか?」

「ダメ。風で人が自由に飛べる? 吹き飛ぶだけでしょ?」

「なら、その重力魔法で飛べるの?」

「箒は飛んでいるわけじゃないの? 『落ちてる』の」

「はぁ? なに言ってんの? あんたバカ?」

「はぁ? 本気で言ってるけど? 反論があるならまず最後まで話を聞きなさいよ? バカなの」

「よ、よし、落ち着きましょう! そんでこうしましょう。とりあえず最後まで話を聞きこう! 話はそれからです!」


 ミストさん! 聞くなら聞く! 聞かないなら聞かないではっきりしてください!

 

 と、胸中での叫び。実際に言えない臆病なわたし。たまにこんな自分がイヤになる……


 このままなら絶対にふたりはケンカしそう! いや絶対にケンカになる! これは確実だよ!


「そ、その落ちてるってどういう意味ですか?」

 と、場を荒らさないように話を繋げて、事を進めるわたし。


「言葉通りだけど?」

「あ、いや……その、ほうきが落ちるって事が?」

「そうよ」

「えっと……言っている意味がわからないんですけど……」

「……なるほど。そこからか」

 と、アリスさんはひとりなった得したかのように、アゴを指でなぞった。


「いい? さっきも言ったけど、箒には重力と反重力の魔法。それに風の魔法が付与されている。ここまではいいわね」

「はい……その三つの魔法がかかってるって事はわかりました」

「あんたもいいわね? 続けるわよ」

「どうぞ。あたしの事は気にせず空気と思っていいわよ」

 アリスさんは頷いて話を続ける。


「まずは……そうね……」

 アリスさんは下を向いて、落ちていた小石を拾い上げる。


「この石だけど、重力は下向きだから下に落ちる。こういう風にね」

 指を小石から離す。文字通りに小石は落下して地面に落ちる


「ここまでは理解してるはずだから続けるわね。で、次に説明するのは『反重力』この石を見てね」

 再び小石を拾い上げ、右の手のひらに乗せる。


「見ててね」

 と、前置きして目を閉じる。


「あっ!」

「えっ!」

 ミストさんとわたしは驚きの声を上げる。


 アリスさんの手のひらに乗せた小石は勢いよく空に飛び立った!


「これ、風の魔法ですか!?」

 と、わたしは言うと『違うわ』と即答される。


「これが反重力の魔法」

「で、でも、飛んでいきましたよ?」

「違うわよ。これは『空に落ちている』の」

「空に……落ちる?」

「……なるほど」

 ミストさんは何かを理解したように言葉を漏らした。


「上に落ちて、下に落ちる。重力と反重力。ほうきはこの動作を繰り返して飛んでいるように『見せかけている』のね」

「ご名答。意外と頭いいのね」

「それ、誉め言葉として受け取っておくわ」

「ご勝手に」

「でも、それだと重力の魔法はいらないんじゃないの? 反重力の切り替えと風の魔法で事足りると思うけど?」

「甘いわね。それだと、上と下。どからかに落ち続けるでしょ?」

「なんでそうなるのよ?」

「考えてみてよ。空を飛ぶことだけはできるけど、反重力の切り替えだけだと高度の固定ができないでしょ?」

「高度の……固定……ああ、そういうこと」


 どういうこと? 途中からまったく話が理解できなくなったんだけど……


「重力と反重力。それぞれが作用して高度の固定をしてるって事ね」

「そういうこと」

「で、推進力は『風の魔法』ね」

「そういうこと」

「あ……あの……わたし途中から取り残されちゃってるんですけどぉ……」


「「ごめん」」


 なぜがミストさんにまで謝れたのだった。


 ◆


「じゃあ、箒の飛んでる理論を石を使って簡単に説明するわね」

「お願いしまっす!」

「じゃあ、石を見ててね」

「はい」


 アリスさんの手のひらに乗った小石をじっと見る。


「まずは反重力で空に落とす」

 手のひらから『空に落ちる』小石。飛び上がった石を目で追う。


「で、これが重力の魔法」

 反重力が重力の戻り、手のひらに落ちる。


「ここで、もう一度『重力の魔法』で落として『反重力の魔法』を発動させると……」

「あっ! すごい!」


 小石はアリスさんの胸の前で止まって宙に浮いている。


「石が……浮いてます!」

「正確には重力と反重力を同時発動・反発させて高度を固定してるだけよ」

「でも……浮いているように見えます。すごいです」

 簡単にサラッと言ってるけど……結構すごいこと何じゃないのこれって?


「これが箒が浮いてる理由」

「これが……理由……へぇ~」

「で、ここからさらに風の魔法をかけると……」

「おおっ! 石が動きました!」

 石はわたしの目の前まで来て円を描くように動いている。


「上昇したいなら反重力。下降したいなら重力の比率を変えれば高度を変えられるわ」

「へぇ~すごい! 魔法ってすごいですね!」

「そ、そう。面と向かって言われるとちょっと恥ずかしいわね」

「いやいや。恥ずかしがることないですよ! ホントにすごいです!」


「そ、そう。ありがと。で、わかった? 箒は重力と反重力。それと風を使って飛んでいるの」

「はい。わかりました! ありがとうございます!」

「でもさ、そんな魔法理論があるなら別に飛翔魔法いらなくない?」

「ミストさんが……なんか頭良さそうなこと言ってます!」

 空気だったミストさんが放った質問はとても賢く聞こえた! でも……聞いてないかと思ったたら意外とちゃんと聞いてくれてるんだなぁ


「なによ、バカにしてんの!?」

「あ、そうじゃなくて、その……本心でそう思っただけです!」


 ううっ……ミストさん……昨日のカードゲームもそうだけど……意外と地頭がいいのかなぁ……なんかちょっとショック。


「ホントですって……あはは」

 ミストさんが……ジト目で見てるよぉ………


「盛り上がってるところ悪いんだけど……飛翔魔法がいらないってなんでそう思うの? 気にならない空気さん?」

「ケンカ売ってんの? だってそうでしょ? 重力と反重力、それに風があれば事足りそうじゃない?」


 ミストさんの見解を聞いたアリサさんは『はぁぁぁあぁぁああぁああ~~~』と大きなため息をついた。


「甘い。やっぱりまだまだ甘いわよ。あんた」

「ちょっ! なに? 文句でもあるの? 実際にそうでしょ?」

「いい? よく考えて? 飛翔魔法はひとつ。箒はみっつ」

「はぁ? なに言ってんの?」

「甘いどころじゃなかったわね。大甘よ大甘。甘くて虫歯ができそう」

「な、なに。なんなの!?」


 と、反論を聞きつつ、アリサさんは指を3本立てる。


「3本?」

「ミナミの実演でも見せたけど、箒は『浮く・沈む・反発・動く』この四つの行程を『重力・反重力・風』で処理して『飛んで』いることを『再現』している。

「ん?」

「アホな顔してるけど、続けるわよ。で、再現の言葉通りに箒は実際には『飛んでいない』落ちて浮いて飛ばされているだけ」


「んんっ?」


 今度はわたしがアホみたいな顔になってるかも?


「そして、飛翔魔法は今言った、箒のような飛び方じゃなくて『完全に浮いて、自由に空を飛べる』それらがたったひとつの魔法でまかなえる」

「ん? だから箒だって再現してるけど……飛んでるんでしょ? 回りくどい言い方はいらないから『結果』だけ教えて」

「ふぅ……わかった。過程より結果を求めるなんて……やっぱり激甘ね」


 軽いため息をついてアリスさんは口を開く。


「いい、よく聞いて。箒は『三つの魔法を同時に発動させている』の。これは常人では無理。絶対にできない」


「そ、そうなんですか?」

「そうなんです」

 ……なんか、バカっぽい問答だなぁ


「仮にできたとしても重力と反重力をふたつ魔法を同時に発動、維持してさらに風を発動させて移動。正直頭がこんがらがるし、魔力集中が途切れた瞬間に落ちるか上昇して頭が真っ白になる。絶対に無理。私は絶対にやらない! やらないったらやらない!」


「へ、へぇ~」

「そ、そうなんですか……」

「そうなの! 魔力集中が飛んでいる間にずっと続くと思うだけでもうイヤ! 修得が難しい出けど飛翔魔法のほうがずっと楽!」


 と、わたしとミストさんはちょっと引き気味で感心を述べた。


「すごい確固たる意志を感じますね」

「昔ホウキになにかされたのかな?」


 と、コソコソ話をしていると『ちょっと、聞いてる?』とアリスさんからお叱りの声が届く。


「「聞いてます!」」

「ったく。まぁこんな大それた事ができるのは『大魔導師』ぐらいなものね」

「大魔導師?」


 オウム返しで聞いてみるとアリスさんは『そう』とひと言だけ返す。


「すごいひとよ。私が追いつけないほど、背中が遠かったわ……」


 空を見上げてアリスさんは言った。


 たぶん……その『大魔導師』ってひとを思い出しているんだと思う。


「うん、こっちから振っておいて悪いけど、この話はこれで終わり! とにかく箒は魔法を三つ同時には発動させて飛んでるの、これで終わり! さ、魔導機に乗りたいんでしょ? こっちよ」

「ったく、ホントに振っておいて悪いわ! 自分勝手も追加しておくわよ!」


 ミストさんとアリスさんはお互い文句を言い合って歩いていく。


「あ、待ってくださ……あれ?」


 と、わたしはひとつ、あることに気づいた


「魔法を三つ同時……」


 さっきアリスさんが小石を使った実演の事を思い出す。


「さっきのあれって……『魔法を三つ同時に発動』させてなかった……かな?」


 アリスさんの小石を使った実演。


 アリスさんの胸の前で止まって、円を描くように空中を動いてた。

 『常人では絶対に無理』ってアリスさんははっきり言ってたけど、


 ……もしかして『三つの魔法を同時に発動』させてるんじゃ……


「アリスさん……あの」

「ミナミ! なにやってんの!? 行くよ!」

「あ、うんごめんね。あ、待ってください!」


 呼ばれて、わたしの思考は停止したのだった。



 ◆



「いや~おもしろかったですね。魔導機! 邪魔がなければもっと楽しめたかもです!」

「ホント、もう一度乗りたいくらいよ! 邪魔がなければ!」


 ミストさんもチョー絶賛の魔導機!


 レース形式も相まって すごい疾走感で臨場感だった!


「どうよ? あたしの操縦技術は?」

「……」

「あれぇ~~黙っちゃってるけどぉ~~もしかして悔しいんですか? そうですよねぇ~~究極の幻想だっけ? あれでも負けてぇ~~魔導機でも負けたんだもんねぇ~~悔しいよねぇ~~」

「……」

「ミストさん……それ、完全に煽ってますよ……」

「アリスさぁ~ん? 聞いてますぅ~~」

 わたしの聞こえない小言を完全に無視して、アリスさんの顔をのぞき込む。


「ぎ……け……ない」

「はい? 聞こえませんよぉ~~」

「次は……負けないんだからぁ!」

 顔を真っ赤にしてミストさんに宣戦布告。うん、意外とかわいい感じで怒るんだアリスさんって。


「はいはい。いつでもどうぞ。挑戦受付中でぇ~す」

「……ううっ……ううっ……絶対に負けないんだから……」

 さらに顔が真っ赤になり、眼には玉のような涙が出来上がっている。


 握られた指はぷるぷると震えている……なんか爪が食い込んで血が出てきそう……


「邪魔さえ入らなければ……私が勝ってたのにぃ……」


 アリスさんの肩がプルプル震えるほど怒りに燃えている……

 おふぅ……ガチ勢、恐るべし!


「アリスさん! メモリの持ち主ってどこにいるんですか!?」


 話の方向性を変えないと……アリスさんずっと根に持ってそうだからなぁ


「え、ああ、もうすぐ着くわ」

「わかりました」


 と、歩いて数分。


 その間はミストさんがずっとアリスさんの事を言葉で扇いでいる。

 アリスさんはじっと堪えて耐えている。


 きっと、実際に2回も負けているのだから言い返す材料がなく、それができないんだろうな……


 そんな光景を後ろで見ながらわたしは『意外と仲がいいのかも』と思うことにした。



 ◆



「ここよ」

 と、案内されたのが一軒家の小さい家。


「ここですか?」

「癒術所?」

 その家……レンガでできた家の玄関には看板があり、ミストさんの言うとおり『癒術所』と書かれている。


「癒術所……ってなに?」

「なんでしょうね……」


 癒術かぁ……いじゅつ……いじゅつ……ん? もしかして医術のことかな?


「なんとなくですけど……お医者さんがいそうな所ですね」

「おいしゃさん?」

「あ……」


 そうか……お医者さんじゃ通じないのか……別の言い方か……


「え~とぉ~ケガとかしますよね? ミストさんって」

「ケガ? うんするけど?」

 よかった! ケガは通じた!


「そのケガの直し方を教えてくれたり塗り薬をくれるひと……かな?」

「ケガの直し方教える? そんなひとがいるの?」

「いるのよ。そんなひとが」


 と、助け船を出してくれたのは、アリスさんだった。


「ここにいるのはミナミが言うとおり、ケガはもちろん身体の痛みなんかを和らげたり治してくれるひとがいる。それをここじゃ『癒術所』っていうの」

「なるほど……」

「で、その癒術所とメモリがなんか関係あるの?」

「大あり。この治癒師……あ、『治癒師』っていうのは癒術を使える人ね……って言っても癒術を使えるのはひとりしかいないけどね」


「治癒師……ですか」

 治癒師……話を聞く限りだとやっぱりお医者さんとか医師のことだよね、きっと。


「その治癒師があんた達が求める『魔法使いのメモリ』を持っている」

「よし、じゃあさっそく奪いにいこう!」

「ちょっ! ダメですよ! 許可をとって貰いましょうよ」

 ミストさんの腕をとって、強奪行動を止めるわたし。


「回りくどいから奪えばいいじゃん!」

「ダメですって! ひとの物を奪うのはダメです!」

「甘い。大甘よ。ミナミは」

「大甘でも結構です。とりあえず話し合いましょう」

 いいひと何だけど……根は盗賊なんだよなぁ……ミストさんって。


「いいかげん入るわよ」

「あっ、ちょっ!」

 業を煮やしたのかアリスさんがドアの取っ手に手をかける。


 ドアを開けるとチリンチリンと鈴のような音が室内に響く。たぶんお客が来たって事をわからせるため。


「すいません。もうすぐ終わるんで座って待っててください」


 と、部屋の奥から顔を出さずに、声だけが飛んでくる。

 声からして結構若い男のひとそう。それでもわたしより年上って感じの声だけど。


 わたし達は近くにあった壁際に置いてあった木造のベンチに腰をかける。


 ベンチにはわたし達だけしかいない。


 受付っぽいカウンターには誰もいないし、他の患者さんもいない。


「綺麗な家ね」

「ほんとですね。掃除も行き届いてて清潔そう」

「でも……中は真っ白ね」

 真ん中に座ったミストさんの言うとおり確かに、家の壁も天井もどこもかしこも白色で覆われている。なんとなくだけど『病院』を思い出す。


「白は清潔に見せるって事と、どこか汚れていたらすぐにわかるからって言ってたわ」

「なるほど……ひとの身体にばい菌がはいったらヤバいですからね」


 アリスさんのさりげないフォロー。


 アリスさんって意外と答えてくれるからありがたい。さすが魔法使い! 物知りって感じ。


「言ってたわって事は……もしかしてこの治癒師だっけ? と、知り合いなの? あんたは?」

「まぁ……知り合いって言えば知り合いね」

「だからメモリを見たんですね」

「そんなとこよ」

「ふぅ~ん」

 ミストさんがなにやらニヤニヤしながら、アリスさんを見ている……なんだろ? また何かが起きる予感がする……


「なに?」

「どういう関係なのあの治癒師と? 声からして若そうだし。女子受けしそうな感じ」

「なんでそんなこと聞くの?」

「別に。メモリを見せるくらいだから、結構親密な仲なのかなって」

「あんたが思っているほどの仲じゃないわ。あのメモリ……なんかイヤな感じの魔力を放ってたから気になっただけ」

「そう」

「すぐにわかるわ。私とあいつの関係が」

「言ってくれないんだ」

「すぐにわかるわ」


 アリスさんの言葉を最後に会話は途切れた。


 ◆


 待つこと数分。


「で……ま……り」

「そ……み……か」

 診察室らしき部屋の中では会話のやりとりがずっと聞こえる。


 たぶん、問診でもしてるんだろうな。どこの世界もお医者さんは大変そうだな。


 ◆


  魔法はひとつ。箒はみっつ 完

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