決着。その先へ
4.908456
「勝った……ミ、ミストさぁあぁあぁあぁああああぁぁああぁあぁあああぁああん!」
ミストさんの首もとに抱きついて大きな声で叫んでしまう。それだけこの逆転劇はこっちのテンションも爆アゲしてしちゃう!
「ちょっ、耳元で叫ばないでよ!」
「すごい! ホントに逆転劇じゃないですかぁ!? 激熱の胸熱の超展開ですよ!」
「ちょっとぉ、なに言ってるかわかんないわよ?」
「私たちの勝ちって事ですよ! バーガーキングダムですよ!」
「ばーがーなに? って、ミナミはなにもしてないでしょーが!」
「応援してましたよぉ!」
「ったく、で、『私たちの勝ち』よ。ゲームが終われないからさっさと命を壷に送って」
アリスさんにそう言って視線を向けるけど……
「負けた……私が……」
「ア、アリス……さん?」
「初心者に私が……なんで? どこで狂った? どこで間違えた? どこで歯車が崩れた? どこで……どこで?」
呼びかけても上の空。放心状態で反応が返ってこない。
「呆けてるわね。ったく、ちょっとひっぱたいて引き戻してくる」
「ちょっ、ミストさん! ひっぱたくのはダメですよ!」
「いいじゃない。それが手っ取り早いって」
「そうかもですけど、とりあえず体を揺らしてみましょうよ」
ぱぁん!
「おふぅ……」
「おふぅ……」
ふたりで変な声をあげる。
なにが起こったかというと……アズサさんがミストさんより先に、アリスさんの頬をひっぱたいた。
「あなたの手を煩わせません。私が姉さんを今からひっぱたきます」
「あ、いや……もうひっぱたいてますけど……」
と、ミストさんがつっこみを入れる。確かにミストさんの言うとおりアリスさんが言う前にひっぱたいてたけど……
「アズサ……?」
「姉さんの負けです。壷に赤い石を送ってください」
「私は……負け……たの?」
「そうです」
「あの優位な状況で……?」
「そうです」
「なんで……」
「道化師と召還獣の合わせ技です。完全で完璧に、必殺で叩き潰すはずが逆にこっちがそれをやられましたね。完膚なきまでの完敗です」
「負けた……」
「姉さんの悪い癖です。自分の思い通りにならないと現実を受け入れられない。ダメ人間の典型です。いい機会です。直しましょう」
おふぅ……妹さんは意外と厳しいなぁ……
「姉には容赦ないのね」
「妹ですから。姉の道の踏み外しは正さないと」
「あんた、えらいは」
「そんなに偉くはないですよ」
謙遜してるけど、わたしもえらいと思いますよ。その行動は。
「さぁ、命を壷に」
アリスさんは無言で赤い石をふたつ壷に送る。
「リザルトを開始してください」
「いいわ。それはこっちで引き取る」
ミストさんは高々に宣言する『リザルト』と
「まぁ整理するまでもないけどね」
盤上の赤い石はミストさんのひとつだけ。アリスさんは赤と青の石はひとつもない。
一目瞭然。
誰の目から見ても勝利者はミストさんだ。
「ゲーム終了。じゃあ、メモリを見た場所を教えてもらうわ」
「うっ……うっ……負けちゃった……悔しいよぉ……どうしてなの!」
「ゲームの経験と年季の違いよ。あんたは場数と経験を踏んでないし積んでもいない」
「ううっ……くやしい!」
◆
「と、言ってからずいぶんと時間が経ちましたね」
「そうね……2時間くらい?」
「たぶんそれくらいですね」
あの後。
アリスさんは子供のように泣き出して部屋に籠もってしまった。
様子を見に行ったアズサさんが一言『時間がかかるかも』と言ってまたアリスさんの部屋に戻っていった。
さらにそのあと、『もう少し時間がかかるかも』と、言って申し訳ないのか料理を振る舞ってくれた。
「アズサさんって料理を作るのうまいんですね」
テーブルには多くのお皿。ソースや食べカス、細かい野菜のなどが残った料理の残骸が残る白いお皿が数枚。
「そうね。ベルーナさんくらいおいしいかも」
「あ~確かに」
残ったホワイトソースをスプーンですくって喉に流す。うん。おいしい。
「もう少し時間かかるかもね」
ミストさんはサンドイッチをひとくち食べ、言葉を漏らす。
「う~ん……もし、時間かかりそうなら、やっぱり自力で探しますか?」
「そうね、それを含めて考えないといけないかもね」
と、悩んでいたら『お待たせしました。姉さん出てきました』との声でアズサさんが戻ってきた。
「あ、ホントですか? ってちょっ、えええぇえぇええええっ~~!?」
「うわっ、めっちゃ腫れてるじゃん! 顔がおかしいくらい頬、腫れてるじゃん!?」
アズサさんと一緒にきたアリスさんの頬はめっちゃくちゃに腫れている。それはもう顔の形が変わってると言ってもいいほどに。
「あまりに聞き分けがないので、強行させていただきました」
「強行というか……もう暴行なんだけど?」
「アリスさん……その、大丈夫なんですか?」
「モゴ……モゴ……ウボモグ」
「「おおう……」
口が動かせないほど頬が腫れている……これは話せるまで『時間がかかり』そうだと、わたしとミストさんはたぶんそう思った。
それと……
「モゴモゴ……グム……ゴムオ……」
絶対に……泣いてるよねあれ……
◆
数時間後。
「やっと……腫れと痛みが引いてきたわ……」
「だ、大丈夫なんですか?」
アリスさんが心配なんで聞いてみたけど『あ、大丈夫、大丈夫』とかなり軽めに返されてた。ホントに大丈夫なのかなぁ?
「3年ぶりねくらいかな、アズサが本気で怒ったのは……あ、おしっこ漏れそう」
「ぜんぜん大丈夫じゃないじゃない? めっちゃ震えてるじゃない? 視線ブレブレじゃない?」
「な、なに言ってるの? この震えは久しぶりすぎて体が喜んでるのよ」
「ホントにぃ? 強がりじゃないの?」
「ホント、ホント。姉として嬉しい限りよ」
「おしっこ漏れそうなんでしょ?」
「そう。これは喜びの漏れよ」
「なによ、喜びの漏れって? 漏らす前にさっさと厠に行きなさいよ」
「かわや?」
「あ~おしっこする所です」
と、フォローを入れたところ『あ~トイレね』と返される。
あ、ここってトイレで通じるんだ……
「じゃあ、お言葉に甘えて。漏れる前に行ってくるね」
「とっとと行けって」
「辛辣ね」
「姉さん。漏らしたら……おしおきです」
「行ってきます!」
かなりビビり気味でアリスさんはトイレに向かっていった。
「めちゃめちゃビビってるじゃない。どんなおしおきよ」
と、言葉を漏らしてミストさんは残ったアズサさんと対峙する。
「じゃあ、あんたに聞かせてもらうかな。メモリの場所」
「そうですね。その前に口直しのお茶を入れますね」
「お願いするわ」
「あ、わたしにもお願いします」
◆
「ノアローム?」
と、ミストさんが訪ねる。
「あ、これおいしい」
わたしはわたしでこの飲み物を楽しんでいた。
このお茶はほどよい甘みで意外とさっぱりている。とてもおいしいお茶……たぶん紅茶だと思う飲み物をひとくち飲んで、『お茶おいしいですね』とアズサさんに言葉を返す。
「ありがとうございます。そのお茶は珍しい茶葉から抽出したお茶なんです」
「へぇ~紅茶みたいな味ですね」
「こうちゃ?……ですか?」
「あ~すみません。知りませんよね。紅茶っていうのはわたしの故郷にこのお茶に似たようなものがあって、そのお茶が『紅茶』って言うんですよ」
「そうなんですか。一度ミナミさんの故郷で飲んでみたいですね」
「ぜひ! あ……でもかなり遠いから無理かもしれないですね」
「遠いんですか?」
「はい。わたしでも帰れないくらいに」
「そうなんですか……ミナミさんはよくここまで来れましたね?」
「あはは……そ、そうですね、が、がんばりました?」
ううっ……コンビニから出たら別世界に居ましたって言っても、信じてもらえないだろうなぁ……ましてや『コンビニ』ってなんですかって所から説明しないといけなそうだし……さらに言えば魔法使いの世界じゃなくて居たのは『神殿』付近だけど……
「ミナミ話戻していい? あ、おいしい」
と、言ったミストさんだったが、お茶がお気に召したようだ。
「ですよね? おいしいですよね?」
「へぇ~やるじゃない? アズサ」
「お褒めの言葉、ありがたく頂きます」
三人、テーブルを囲んで話す。
内容はもちろん、メモリを見た場所……なんだけど今は紅茶の話に脱線している。
ちなみに、アリスさんはまだトイレから戻ってこない。
「あたしはもう少しだけ甘みを抑えた方が好みかな?」
「そうですか? ちょうどいいと思いますけど?」
「いやいや、甘さは押さえた方がおいしいって」
「ちょっと、あんたたちなんの話してるのよ? メモリの話じゃないの? ちなみに私は甘い方が好みだけどね」
と、紅茶の甘みの話をしてると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
トイレから帰ってきたアリスさんがドアを開けて早々、話に割っては入ってくる。でも、甘い方が好みなんだアリスさんって。ちょっと意外。
「ずいずん長かったわね? もしかして泣いてた?」
「ち、違うわよ! ちょっとだけ茶色い物体と出す出さないの駆け引きをしてただけだから!」
「……泣いてくれたほうが、よかったわ。いろいろと」
確かに。ミストさんのツッコミが正論の気がしてくるよ。
「い、いいじゃない! 人ってほら、いつかは絶対にださないといけないじゃない!?」
「あ~はいはい。負け犬はあま~いお茶でも飲んで吠えてなさい」
「うっ~~~言い返せないのがつらい!」
「姉さんどうぞ。甘くしておきましたよ」
「あ、ありがとうアズサ」
帰ってきたアリスさんと四人、テーブルを囲んで話す。
「あんただって出すでしょ?」
「もちろん。でもあたしは駆け引きなんてしない! すぐに決着をつける派だから」
内容はもちろん、メモリを見た場所……なんだけど今はう○ちの話に脱糞している。
あ、違う違う脱線だった。
話がメモリに戻ったのはこのあと10分くらい後だったのでした。
「ノアロームでしたっけ?」
「そっ、その街にいる魔導師が持ってるわ」
アリスさんがメモリを見た場所の……ノアロームって街か。
「メモリを、ですか?」
「それ以外になにかあるの? あんた達が欲しがってるものって?」
「まぁ、ないですけど……」
自分でもバカな質問をしたなって思った。たしかにメモリ意外は特に欲しいものはない。断言してもいい。ない!
「で、そのノアロームって街はここから近いんですか? すぐにでも行きたいんですけど?」
「そうねぇ……ここから歩いて三日って所かな?」
「「三日ぁ!」」
わたしとミストさん。同時に叫ぶ。
そりゃ叫ぶよ。だって三日だもん。
「三日……ミストさんどうします?」
「どうしますって……行くしかないんじゃないの? あんた的には」
「まぁ、選択肢はそれ以外はないんですけど……相談したいのは今からいくかって事です」
「あ~そうか、結構日も暮れてきたしね」
ミストさんの言うとおり、太陽が沈みかけている。いまから行くとなると確実に夜になる。
「なんだかんだで、結構長く居座っちゃいましたね」
「そうね。意外と居心地よかったわね」
「でも、三日かかるなら絶対にいつかは夜になるし……行っちゃいますか? 今から」
「う~んあたし的には危険があるかもしれないし……日が出ているときがいいんだよね。まわりの状況を見て、危機対策もできるし」
「なるほどぉ……となるとぉ……問題は」
チラっ
「そうなのよねぇ……今日の寝床が問題なんだよねぇ」
チラっ
「な、なによ……チラチラと……」
「そのぉ~なんていうかですねぇ~困ってるんですよね~わたし達」
「そうなのぉ~困ってるのあたし達。今日の寝る場所」
わたしとミストさん。胸の前で指をくんで軽い演技口調で、お願いを入れてみる。
「はぁ~~わかったわよ。泊まって行きなさい。それと言っておくけど、私の飛翔魔法なら3、4分でいけるからね。ノアロームまで」
「えっ!?」
「そうなの?」
「そうよ。忘れたの? 守護の森からここまで、一瞬でここまで飛んできたでしょ?」
「「あ、あぁぁあああぁぁあぁあぁああ~~~~~~!!」」
そうだった! 確かにビューンと一瞬……だったかな? 2、3分くらいかかった気がするけどぉ?
「そうか、アリスがいればその街まですぐに飛んでいけるのか! じゃあ、ミナミさっそく……ってちょっ、えっ!?」
「どうしたの? すごい顔が青ざめてるけど? 大丈夫?」
「あはは……ちょっと飛んできたことを思い出して……苦手なんですよね、高い所って」
ううっ……わたし、高いところ苦手なんだよね……落ちたら怖いし……
「そうなの? でも、鉄球体の上には乗ってたじゃん?」
「あれは、そんなに高くないじゃないですか」
「そうかな? 結構高かったと思うけど?」
「そんなことないですよ」
「う~ん……」
「ミストさん? えっと……なんですか?」
わたしの顔をじっと見つめて何かを考えている? ……嫌な予感しかしないけど……
「うん、いい機会だから直そうよ。高いところが苦手なところ」
「えっ!? いやいや、い、いいですよ!」
「うんにゃ、いい機会だから直そう。あたしの見立てではあんたは食わず嫌いっぽいし」
「く、食わず嫌い?」
「ミナミは本当に高いところに行ったことあって、その景色を見たことある?」
「そ、そんな事できないですし、しないですよ……怖いし……」
「それよ、それ。結局はミナミは『実際には体験してない』の。たぶんどこかで間接的に見たんじゃないの?」
「実際に体験しないで、どこか見た……ですか?」
「そう。う~ん、そうだなぁ~ あ、その『すまほ』だっけ? その光る小さい石版で見たんじゃないの? 風景を切り取って見れるんでしょ?」
「あっ……」
確かに、幼いときに動画で見た気がする……それ以来なんとなく高いところは怖いって認識になって……思い出してきた。
「確かに……そうかも……」
「よし、決まり! 明日はびゅーんってひとっ飛び! アリス明日はよろしくね!」
「言われなくても、よろしくされるわよ」
「あはは……」
不安だ……すごく不安……渇いた笑いしか出てこないほど不安だ……
どうしよう……すごく怖くなってきた……これから眠れるかな……
◆
「うーん! 眠れない!」
眠れないのかアリスの目はばっちりと冴えている。
沈んだ太陽の代わりに空には蒼と紅の月がふたつ。寄り添うように浮かぶ月はまるで姉妹のように仲が良さそうに見えた。
たまらずベッドから跳ね上がると窓をのぞいて空を見上げる。
「まったく……いつも毎度毎度、見せつけてくれるわね」
ふたつの月を見たアリスの感想は少し違っていたようだ。
そのままベッドから降りるとアリスは扉を開けて、部屋を出る。眠れなかったのか、その足取りはしっかりとしていて、目的地までまっすぐに進む。
「あら?」
「あ、ごめん水もらってるわ」
「かまわないわ」
「そ、ありがと」
すでに目的地にいた先客がいた。ミストだった。
ミストは氷冷庫から水の入ったビンを持ち、もう片方の手には水の入ったガラスのコップを握っていた。
「あんたも飲む?」
水の入ったガラスのビンをアリスに差し見せる。
「いただくわ」
自分のコップを手に取り、ミストのもとへ向かう
「このコップ、もしかしてアンタの?」
「それは来客用よ」
「そ、よかった」
注いでもらった水をアリスはひとくち含み、喉を潤す。
「眠れない感じ?」
ミストはアリスに問うた。
「そんなところね。あなたも?」
「そうね。そんな所」
「そう」
そして、数分の逡巡。
「ねぇ」
口を開き口火を切ったのはアリスだった
「なに?」
「最後の勝負の時、どうして1を出せたの?」
「いち?」
「究極の幻想」
「あ~あれね」
「私が10を出す確信があったの?」
「う~ん、半分正解かな? あのときは確信が半分で、あとの半分は賭ね」
「……どうして? どうして半分だけ確信が持てたの?」
「ずいぶんとグイグイと来るのね? もしかして悔しい?」
「悔しい。すごく」
「へぇ~意外と正直。負けた自分を納得させたいんだ」
イスに腰掛け水をひとくち含む。
「ごまかさないで!」
「怒るなって。う~んまぁ、『蒔いた種がうまく芽吹いた』ってカンジ?」
「種が……芽吹いた?」
「そ、わたしはあの瞬間まで勝つための種を蒔いていた。気づいてないと思うけどね」
「じゃあ、あの展開を読んでたの?」
「読んでないわよ。道筋を立てていた。そうなるようにね」
「あのくだらない弱音も泣き言も全部、種ってわけだったのね」
「そうよ」
「あのミナミって子もだまして?」
「敵を欺くには、まず味方から」
「……なるほど、私には思いつかない見方だわ」
「納得してくれた?」
「半分、納得」
「あとの半分は?」
「私のつめの甘さと経験不足。それさえあれば……」
「次は勝てるかもね」
「次は私が勝つわ」
「その次があったらね」
「いいわよ。あなたがどこにいてもどこにでも行ってやるわ。私の飛翔魔法があればどこにでも行けるんだから」
「……待ってるわよ。経験を積んでとっとと挑んでこい」
「首を洗って待ってなさいよ」
「そっちこそ腕を磨いてなさい」
夜が更けて。そして朝になる。
◆
「ど、どうしても……その、そ、空をびゅーんってしないといけないですか?」
「大丈夫です。落ち着いてください。ノアロームにはすぐに着きますから」
「でも……3分くらいかかるんですよね? もし、もしですよ……その間に……」
「ミナミさん。そんな結末を考えてはいけません。思い描いた強い空想は、現実を引き寄せてしまいます。楽しいことだけを考えましょう」
「た、楽しいこと……?」
「そうです。楽しいことだけです」
アズサさんはわたしの手を握ってくれて、そして目を見てやさしく微笑んでくれる……綺麗な巫女天使みたい。巫女天使?
◆
「……」
「……ねぇ」
「……なに」
「やっぱり食わず嫌いじゃなくて……ホントに怖いんじゃあないの? あの子。もうすでに泣きそうじゃない」
「う~ん……不安になってきた」
と、ミストはアリスはふたりの会話を聞いている。
「街に着けば、楽しいことがたくさんあります」
「楽しいこと……例えば」
「おいしい食べ物がたくさんあります」
「他には?」
「他ですが……その、かわいい服とか……おいしい食べ物があります」
「他になにかあります?」
アズサさんの楽しいことって……食べることなのかな?
「そ、そうですね……綺麗な景色とかたくさんの魔法が見れます? とかですかね?」
「遊園地とか、ゲーセンとかはないんですか?」
「ゆうえんち……げーせん? なんですかそれは?」
ううっ……そうだよね、わからないよね。あるわけないよね。
「あ、え~っと……すいません遊べるところとかはないんですか?」
「遊べるところ……たしか、魔導機という大人も子供もあそべる遊具があったような気がします」
「まどうき?」
「はい。その魔導機を使って競争とかするんです。一度乗ったことがあるんですか爽快で楽しいですよ」
「へぇ~おもしろそうですね!」
乗ったことがあるって言ってるし、きっと乗り物だよね!
「面白いです! ですから魔導機の事だけを考えましょう!」
「はい! 魔導機の事だけを考えます!」
「楽しいですから! 思いを馳せてください!」
お互いに手をギュッと握り、異様なまでの盛り上がりを見せるわたしとアズサさん。
「単純ね……あの子」
「そこが良いとところよ。じゃあ話がまとまったようだし、そろそろ行くわよ」
と、ミストさんが急かしてくるので『行きましょう!』と返答!
◆
「あれ、アズサさんは来ないんですか?」
「はい。わたしはお留守番です」
「え~~~~行きましょうよ」
「すみません。またの機会ってことで。今回は」
「う~~~じゃあ、またの機会に」
「はい。ではまた。あ、忘れ物はありませんか?」
「はい。大丈夫です」
カバンも持ったし。朝にダーマドライバーとメモリも入っているのも確認したし。
「じゃあ、行くわよ。わたしの肩を掴んで」
言われたとおりにミストさんとわたしは、アリスさんを挟むように両脇に立ち肩をつかむ。
「じゃあ、行くわよ!」
「きたきた、これこれ!」
つま先が地面から離れ、ちょっとだけ浮いた状態に。
ミストさんはとても喜んでいるけど、わたしはけっこうそれどころじゃない!
「大地は空に、空は大地に! 理を逆転させ空を舞う翼よ! 舞い上がれ!」
「その口上必要なの!?」
「必要よ!」
「うひゃああぁあああぁあああああぁああああぁあ~~~!」
わたしの恐怖のものとせず、身体は空へと舞い上がった!
「落ちる落ちる! 風がすごいぃいいぃぃぃいいいぃい~~~!」
「ミナミ、ミナミ」
「ううっ~~! ううっ~~!」
「ミナミ、ミナミってば!」
「誰!? 今、すごく怖いんですけどぉ!!」
飛んでる最中に声をかけるなんて! 無邪気にもほどがあるよ!
「あたしあたし」
「ミストさんですか!?」
「そう、ねぇ見て、すごく綺麗な光景だよ!」
「綺麗!?」
「目を開けてみて!」
「すいません! ちょっと無理です!」
こんな飛んでる状況で、目を開けるなんて無理です! 絶対!
「いいから、いいから。ゆっくりあけてみ」
「私が支えるから開けてみなさいよ」
「誰ですか!?」
まったく! こんな状況で声かけてくる無神経なヤツはだれよ!
「わたしわたし」
「アリスさんですか!?」
「そう、ほら、しっかり支えるから。見ないともったいないわよ?」
「ほら、ミナミ目、開けてみなよ」
「ううっ……わかりましたぁ……だからしっかり支えてくださいよぉ!」
「オッケイ! これでいい?」
アリスさんがしっかりと腕を回して抱き寄せてくれるのがわかる。
「ううっ……い、行きます!」
「目を開けるだけでどんな気合い入れてんのよ」
なんてツッコミを入れてるミストさん。だけどこっちはかなり命がけなんですぅ!
「ゆっくりね」
「はい……うわぁ……」
ミストさんの声に導かれてゆっくりと目を開けた先で飛び込んできた景色は……
「すごい……綺麗……」
大自然が織りなす光景。それは圧巻だった。
「どう、すごく綺麗でしょ?」
「はい……」
アズサさんを挟んでミストさんの声。
上空に広がる雲一つない青い空。
水平線に広がる太陽と海面。
眼下に広がる森と湖。
吹き抜ける心地よい風と白い鳥の群。
次々と水平に変化する光景。
わたしの世界じゃ絶対に生身では見られないし体験できない。
なおかつ、パラシュートみたいに落ちる景色じゃなくて横にスライドする景色が
すごい。
どんどん通り過ぎていく景色に、どんどん新しい景色が飛び込んでくる感覚。
すごい……すごすぎる!
「ミストさん……アリスさん! ありがとうございます!」
「喜んでもらえてなにより」
「これで高いところは克服ね!」
「はい!」
◆
そしてわたしは、この蒼の絶景を心底楽しんでいたのだった。
決着。その先へ 完