邂逅、そして究極の幻想
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「それ! それメモリ!」
「……」
ミストさんがメモリって言うんだけど……確かに形は似てる……似てるけど……
「ミナミどうする。土下座してもらう? あたしはしないけどね!」
「しないんかい!」
と、ツッコミを入れたけど……なんかあのメモリは『違う』んだよなぁ……
「ミストさん。落ち着いて聞いてね。あれはたぶんメモリじゃないです。精巧に作られたニセモノです」
「えっ? そうなの?」
「そうなんです。見てください」
わたしは『勇者』のメモリをミストさんに見せる。
「へぇ~そこってガラスなんだ」
「……」
魔法使いさんの言葉を無視してミストさんとの会話に入る。
「この小さい液晶パネルのような部分。あの部分がなんとなく違います。それに全体の雰囲気っていうのかな? 輝き? 光沢? それがないんだよね。あのメモリ」
ミストさんは『ぱねる?』と不思議そうな顔してるけど、それを無視。そしてわたしは魔法使いさんに『それ、見せてもらえますか』と手を出す。
「見せて『本物』か『偽物』かわかるのあなたに?」
「わかりますよ」
「ちょっと……ミナミ? 大丈夫なの?」
「大丈夫です。ボタンを押せばわかります」
そう。ボタンを押せばわかる。押せばかわいい女の子の声で『勇者』や『盗賊』って言うから。そうもし本物なら……きっと『魔法使い』って言うはず。
「どうぞ」
「どうも」
あっさりと渡してくれた。意外だ。絶対に抵抗すると思ってたけどこんなにあっさりと渡してくれるなんて……
「……なるほどです」
ひと目でわかった。受け取ったけど……ボタンを押すまでもないなこれは。
「ありがとうございます」
「もういいの?」
「はい。もういいです」
「で」
魔法使いさんに返して、答えを求めてきている。そんなの決まっている。
触ったときに確信……ううん、見たときからわかっていた。
「紛れもなく精巧に作られた偽物ですよ。そのメモリ」
魔法使いさんが持っていたメモリは紛れもなく『偽物』
とても精巧で遠目で見ただけじゃどっちかわからない、かなり完成度の高い『偽物』
「あんなにすぐにわかるの?」
「ええ、だって……『ボタン』が『押せない』んですから」
「押せないの?」
「はい? あの偽メモリはボタンが押せません」
魔法使いさんが持っていたメモリはすごく本物っぽいけど……ボタンがまったく機能しない。ただの突起物となっている。
「……すごいね。ご名答。これは似せて作った偽物」
魔法使いさんは拍手で称えてくるけど……なんか皮肉っぽい。
「ミストさん出ましょう。本物がない以上、ここにいてもしようがないですから」
イスから立ち上がり、ミストさんを促す。
「そうね行こう。じゃあね」
ミストさんも捨て言葉の残してイスから立ち上がる。
「いいの? 本当に?」
立ち去り間際に魔法使いさんがわたしたちに引き留めるように声をかける。
「いいんです。ここには偽物しかありませんから」
「……バカね。あなたたち」
ひとつため息をついて魔法使いさんが頬杖をついた。
「なにが言いたいのよ。あんたは」
売り言葉に買い言葉に。魔法使いさんの言葉にミストさんは反応して鋭い目つきになって睨む。
「ヒント1私はあなたたちと今日、初めて会った」
「ヒント……」
わたしがそう呟いていると……魔法使いさんがさらに『ヒント2』と言ってくる。
「私はそのメモリとやらの形を知っていた」
魔法使いさんは『ここまで言ってわからないなら本当のおバカさんね』と言いメモリを人差し指で軽く叩いた。
「……ごめん」
「意外と素直なのね。あなたって」
と、ひと言謝ってミストさんはイスに座った。
「ミ、ミストさん?」
「ミナミ座って。まだここから出て行くのは早そうよ」
「どういうこと?」
「訊かないといけない事があるの。こいつから」
魔法使いさんを睨みつつミストさんはさっきまで座っていたイスに座る。
「あなたはおバカじゃなさそうね」
「えっ? なになに? なんなの? 説明を要求します」
訳が分からずとりあえず、席に着くわたし。
「あたしたちとあいつは言ったとおり、今日、初めて会った」
「はい……そうですね」
「それなのにあいつは……メモリの形を知っていた。それもかなり精巧に」
「はい、精巧でしたけど、あれは偽物で……」
「問題なのは、本物なのか偽物なのかじゃない。なんであいつはメモリの『形』を知っていたってところ。さらに言うなら『本物』を見たのはついさっき」
「それが、なんの問題なんですか……?」
「本物を見て偽物を作る時間なんてあるはずがない。なら……」
「なら……?」
「わからない? 見ているのよ。どこかで『メモリ』を。だから『偽物』を作れる。ミナミに『精巧』と言わせるほど間近で」
「あ……」
ミストさんは『まぁ、触らせてはもらってないようだけどね』と付け加えた。
そうか……どこかでメモリを見ていたから形を知っていて偽物を作れる。なるほど確かに。
ミストさんの言うとおりまだここから出て行くのは早そう。
でも……
どうしてヒントなんてくれたんだろう? あのまま放っておいてわたし達が出て行くのを待っていればいいのに……
なんだろ、なんだかイヤな予感がする。
「だからねミナミ。あたしたちはこいつから……ううん」
ミストさんは魔法使いさんの後ろで静かに佇んでいる巫女さんをみて言った。
「こいつらから聞かないといけない。メモリを見た場所とその人物を」
「そうですね」
姿勢を正して魔法使いさんと巫女さんふたりを見据える。
「せっかくお招きいただいたんだから、最後まで接待を受けないと損よ」
「ええ、せっかく招待したんだから、最後までおもてなしさせなさいよ」
ミストさんと魔法使いさん。ふたりのやりとりを聞いて気を引きしめるわたしだった。
◆
「さて、どうしたもんかな。どうしたら話してくれるのかな?」
「さぁ? どうでしょうね」
「こっちは力づくでもいいんだよ?」
ナイフの柄を握り脅迫紛いな事をするミストさん。
「ちょっ、ダメですよ! 力づくなんて」
「ミナミ。あんたは甘いのよ。どうしてもって事態になったらそれも選択肢に加えておかないとあんたが傷つくんだよ」
「そうかもですけど……今はまだその選択をする事態じゃないです」
「お優しいお仲間さんに感謝ね。そっちのナイフをもった狂暴そうなひとには勝てなさそうだし」
「ちょっ! 誰が狂暴なのよ!」
「ミストさん! だめです!」
掴みかかろうとしたミストさんを抱きしめて、身体を張って止める。
「暴力はダメですって!」
「ミナミ! あんたってヤツは……甘すぎるよ!」
「甘くてもいいですから! いったん落ち着いてください!」
「あなたも大変ね」
頬杖をついて他人事のように言葉を漏らす魔法使いさん。
まったく、誰のせいだと思ってるですか!?
「そう思うなら、静かにしてください!」
「はいはい」
わたしの切羽詰まった言葉に素直に従う魔法使いさん。
■
「そんなに睨まないでよ。怖いじゃない」
「いいから進めて」
「わたしからもお願いします。事を進めてください」
座り直して魔法使いさんを見据える。
「そうね、時間は有限だし。有効に使いましょ」
魔法使いさんはそんな事を言って、テーブルから小さい箱を取り出す。
「力じゃあなたたちには勝てなさそうだし。ここはひとつゲームをしましょう」
「ゲームですか……?」
「そうゲーム」
箱をあけて中からカードの束? を取り出す。
「それって……カードですか?」
「ええ、カードよ」
確認のため聞いてはみたけど……カードなんだ。カードって異世界にもあるんだなぁ~
「で、そのカードでどんなゲームをするの? ファイブカード?」
「ファイブカード?」
「知らないの? 5枚のカードで役を作るゲームよ」
「ああ、フィフスフラッグね。そっちじゃファイブカードって言うのね」
「……」
ふたりのやりとりを聞いていて、そして見守っていたわたしは思う。たぶんだけどそれって『ポーカー』の事だよね? と。
「ん?」
と言うことは……カード=トランプって事かな?
「すいません、気になったのでふたりに聞いてもいいですか?」
どうしても気になったのでわたしはふたりの会話を遮って聞いてみた。
「カードの枚数って53枚ですか?」
と、聞いたらふたりとも『そうよ』『そうだけど』と返ってきた。
「あ、ありがとうございます」
「枚数なんて聞いてどうするの?」
「すいませんすごく気になったので……すいませんどうぞ」
と、大手を振って、ふたりに会話を進めるように促す。
ふたりの表情はかなり疑問符が浮かんでいる。みてわかるそんな顔。まぁそうだよね。話を遮っていきなり『枚数は53枚ですか?』聞いたらそりゃ変な空気になるよね……
「ついでにあたしからも聞きたいんだけど」
「なに?」
「あたしたちが勝ったら、メモリを見た場所教えてくれるんでしょうね?」
「ええ、もちろん。だけど私が勝ったら」
ううっ……イヤな予感しかしない……絶対に負けたらやばいことを要求してくるよこれ!
「その子が持ってるメモリ。『全部』もらうから」
「やっぱり……そうきたか」
と、イヤな予感が当たったところでミストさんが『いいよ』と突然答える!
「ちょっと、ミストさぁん! なに言ってんですかぁ!」
隣に座っているミストさんの肩をガシっと掴んで左右に揺らす。
「落ち着いてミナミ」
「いやいやいやいや! 落ち着いてられませんって!」
手を握って、まっすぐにわたしの目を見据えてミストさんは『簡単な事よ』と言葉を紡ぐ。
そして、そのままわたし達は手を握ったまま、じっと見つめ合い、ミストさんは宣言した。
「勝てばいいの。大丈夫あたし勝から」
と。
その宣戦布告はとても自信に満ちていて……必ず勝てる。そんな気にさせてくれる宣言だった。
「そ、そうですけど! そんな簡単には……」
言葉で言うのは簡単だけど……勝負ってことになると話は違ってくる……
「あたしを、友達を信じられない?」
「そ、そんなことないですけど……」
じっと、ミストさんに見つめられていると、なんだか恥ずかしいよ……
「ふたりの世界に入っているところ悪いんだけど、いい」
「あ、その、ごめんなさい」
と、とっさに視線を逸らして握っていた手を離す。
業を煮やしたのか魔法使いさんが割って入ってきて話を元の線に引き戻す。
「ずいぶんと言ってくれるじゃない? どんなゲームか知らないのにそんな事を言っていいの?」
「いいの」
「そう、本当なら2対2のチーム戦にしようと思ったけど、私とあなたの1対1で勝負をしましょう」
「いいね。サシでの方が簡単でいい」
「負けないから」
「ううん、あんたは勝てない。あたしに負ける」
「……!」
魔法使いさんは明らかに顔に出ていた。『怒っている』という感情をむき出しで。
そんな魔法使いさんは天を仰いで、深呼吸しカードを手に取ったのだった。
「ゲームのルールを説明するわ」
魔法使いさんがカードをシャッフルを始めたのだった。
◆
「究極の幻想?」
「そう、これからやるゲームは『究極の幻想』っていうゲーム」
初めて聞くガードゲーム名。
まぁ、ここはわたしのいた世界じゃないし、知らないゲームがあっても不思議じゃないけど……
『究極』ってついているゲームって……なんだかルールが難しそうだなぁ……
「ルールは?」
と、ミストさんが聞く。
『今から話すから』と口上を述べて魔法使いさんは『簡単よ。1枚のカードの強さだけ』と言葉を返す。
「本当に?」
「基本的には」
「わかった。詳細」
「カードは52枚+1枚これらをフルに使う」
「まぁ、そうでしょうね」
「で、ここからが」
と、魔法使いさんがルールの詳細を続ける。
かなり簡単にまとめるとこうだ。
○使うカードは火・水・風・土のアイコンと1~10までの数字カード。わたしたちの世界で言うとハート・スペード・クローバー・ダイヤのアイコンのこと。
○11・12・13とジョーカーはイラストカード。これもわたしの世界で言うとジャック・クイーン・キングとって事になるのかな?
カードデザインも11が『心無い天使』・12が『秩序』・13が『混沌』となっている。ちなみにジョーカーは『道化師』と言うらしい。
○手元に持てるのは5枚。山場からカードの補充をする。
○一度使用したカードの再利用は不可。使用したカードは『壷』と呼ばれている指定の場に置かれる。
で、ここまではなんとか理解できたけどここからが、かなりややこしい
このゲームは赤い石と青い石を使う。赤い石が『生命』で青い石が『体力』
○青い石(体力):10個
○赤い石(生命):5個
この15個の石を無くしながらゲームを進むことになる。ちなみに上限は増えない。石を減らされたら基本、そのまま。
詳しくは後でだけど、攻撃の度に体力が削られて青い石がなくなったら今度は赤い石、つまり生命が削られる。
青い石が残っていても勝敗に問わない。つまりは最終的に赤い石がなくなったら決着。
で、どうやったら赤い石や青い石を削るのかというと……
魔法使いさんも言ってたけど、『カードの強さ』で決まる。つまり場に出したカードに乗っている数字がそのままカードの強さになる、だね。
「オッケー、カードは交互に出すの?」
「違うわ。『リミットブレイク』と言って同時に出すわ」
「同時か……」
「場に出したカードが強ければ石を削れる」
「赤? 青? 削る石の判断は?」
「場に出したカードの向きよ」
「向き?」
また、ややこしいルールだけどつまりこう?
○カードは同時に出す。
○削れる石はカードの向きによって決まる。魔法使いさんが言うには……
→カードが縦向きなら『体力』
→カードが横向きなら『生命』
と、言うことらしい。
で、体力つまりは青い石がなくなったら、縦の数字カードでも赤い石、まぁ生命だよね。を削られる。
「連続攻撃?」
と、ミストさんが魔法使いさんに訊く。
どうやら連続攻撃なるルールがあるらしい。
説明では言葉通りに連続で攻撃できる。ということらしい。
簡単に言うとこういうことかな?
○場に出せるカードは一度で最大で3枚出す事が可能。
○ただし、生命を削る横向きカードは最大で1枚のみ。つまり3枚出しても横向きにできるのは1枚だけ。
○道化師は場に出すとカードを追加で2枚、場に出すことができる。
この場合も同様で生命を削る横向きの数字カードは1枚だけ。最大で縦向き3枚、横向き1枚
「道化師を使えば最大で5枚場に出せるって事ね」
「そうよ。まぁ正確には効果を発揮できるのは4枚だけだけど」
「追加の2枚はいつ場に出すの?」
「まず1枚ないし3枚を場に出して道化師があれば、追加で出す」
「つまり『後出し』ってこと?」
「その認識でいいわ」
「了解。で、こっちの秩序とか混沌のカードは?」
「それは召喚カード」
「召喚カード?」
「この5色の石を使うわ。ちなみに召喚石って言うわ」
「召喚石ね……赤と青の他に石があるのね。ずいぶんと凝ったゲームね。これあんたが考えたの?」
「違うわよ。ヘンテコな格好をした旅人が街でやってたの。面白そうだから教えてもらったわ」
「ふぅ~ん。ヘンテコな格好ねぇ~」
と、チラリとわたしを見たミストさん。なんで? まぁ……わたしもこの世界じゃへんな格好になるけど……
◆
もう訳わからないけど、まとめるとその召喚石の種類と効果はこうなっている。
○金:バハムート 効果:生命をふたつ削る
○銀:カーバンクル 効果:生命を三つ回復
○赤:フェニックス 効果:壷にある数字カード・召喚カードをどれでも1枚再利用できる
○黒:オーディン 効果:相手の場のカードをすべて無効化して壷に送り、体力をふたつ削る)
○白:マジックポット 効果:自分の生命と相手の生命を入れ替える
ちなみに、召喚石は1度使用するとカードと同じく壷に送られる。数の通り最大で5回だけ使用できる。
「うまく考えてあるわね」
「何か質問は?」
「フェニックスを使用した時、召喚石はどうするの?」
「壷にある召喚石を使うわ」
「どれでも?」
「ええ、自分相手問わず壷にある召喚石を取っていいわ」
「マジックポットは生命を入れ替えるって言うけど、どういうこと?」
「言葉通りよ。つまり、生命が私が5あなたが1の場合、マジックポットを使用すると私が1であなたが5になる」
「なるほど。オッケー」
「まだ訊きたいことある?」
「そうね……」
と、ミストさんがカードを見ながら質問を続ける
「最大で5回召喚石を使用できるけど、5回使い切ったらその後の召喚カードはどうなるの?」
「壷に送るか2の数字カードとして使えるわ」
「なるほど。じゃあ、絵柄による違いは?」
「違いはないわ」
「オッケー召喚石で決まるってわけね」
「そうよ。まだある?」
「召喚カードと召喚石は複数だせるの?」
「場にはひとつの召喚石だけしか置けないわ。召喚石ひとつに対して召喚獣1体だけ。複数枚出しても効果は変わらない。むしろ出したら2枚目以降は数字カードの2として扱う。召喚カード2枚出したからって2回効果がでるわけじゃないからね。あ、あと付随してだけど、召喚カードは常時数字の2として扱ってもオーケーよ」
「なるほど。了解」
「ちなみに召喚獣の召喚は任意」
「任意? どういうこと」
「こういうこと」
と、言いながら魔法使いさんは召喚石の上に召喚カードを置いた。
「どういうこと?」
それはわたしも思う。どういうこと?
「この召喚石の上に召喚カードを置くと、好きなタイミングで召喚獣を召喚できる」
「なるほど……極論だけど、使わずにゲームを終えてもいいってことね」
「ええ、でも使わずに終えるなんてもったいないわよ?」
「ご忠告どうも。で、置いたカードも場のカードに含まれるの? それと置くカードは裏表どっちでもいいの?」
「場には含まない。置くカードの裏表はどっちでもいいわ。ちなみに使うときは『フレア』って言って使うわ」
「フレアね。了解。ミナミここまでのくだり覚えて置いて」
「へっ……わたし?」
「悪いけど、重要な事だからお願い」
「うん……わかった。」
返答して忘れないようにスマホをスリープ状態から復帰させて、メモアプリに入力。
召還石は5回まで。
召還カードは数字の2として扱う。
召還石ひとつと召還獣は1体だけ。
複数カードを出しても意味はない。
召還石の上に召還カードを置くと好きなときに召還可能。
置いたカードは場に含まれない。
カードの裏表は問わない。
大体こんなところかな?
あ、召還獣を召還しないでゲームを終えてもいいっても加えておくか。
うん、こんなところか。
……でも、なんでわたしが覚えておかないといけないの?
「他に質問は?」
と、スマホをスカートのポケットにしまっても会話が続く。そりゃそうだけどね。
「カーバンクルだっけ? を使用したときに生命が4だった場合はどうなるの? 生命が7個になるの?」
「さっきも説明したけど、体力と生命の上限は増えない。この場合は生命の絶対数は5個。生命4個の状態でカーバンクルを使用しても生命の回復はひとつだけよ」
「了解」
「他になにかある?」
「あのぉ……」
と、わたしは恐る恐る小さく手を挙げた。
「ゲームには参加しないんですけど……ひとつ訊きたいんですけどいいですか?」
説明を聞いていると気に思っていたひとつの疑問が浮かんでいる。そのひとつの疑問を訊いてみる。
「なに?」
魔法使いさんの返答を受けてわたしは疑問を口する。
「すみません、数字のカードの事ですけどぉ、そのぉ、最弱は1ですけどぉ……最強の10に」
「まってミナミ」
「ミストさん?」
「それの疑問はあたしも思ったわ。最初に数字カードの事を訊いたときから」
「なに? 疑問って」
ミストさんは場に出してある数字カードの10を指さして疑問を発する。
「10を出されたら勝てないんじゃないのって事? 10より上の数字はないんだし」
そう、それを訊きたかったんだわたしも。
10以上の数字はない。11 12 13は召喚カードとして使用してるし、道化師は場にカードを2枚しか出すことしかできない。カード1枚の強さで決まるこのゲームにおいて10は最強。
これも極論でそんなことはありえないけどだけど、10をずっと出されたらこちらの詰みだ。
「なるほど、当然の疑問よね。でも安心して」
魔法使いさんはカードを手で扇上に広げて1枚のカードをテーブルに置いた。
「1……?」
置いたのは数字カードの『1』
「この最弱が化けるわ」
「化ける?」
「10に対する1は『アルテマ』っていう究極カードに化けるの」
「アルテマねぇ……」
「まぁ、名称なんてどうでもいいわ。要は『10に勝つには1の数字』カードがあればいいって事」
「なるほど理解した。限界突破ね……最弱の最強か」
「えっとぉ……限界突破? その……つまりは」
わたしがふたりの短い会話で理解したことはこうだった。
魔法使いさんも言ってたことを繰り返すと最強の『10』に勝てるのは最弱の『1』だってことか。
「今ミナミの言ったことに間違いはないわね」
「ええ、言葉通り。だから、召喚後の召喚カードは『2』として扱うの」
「なるほどね。これを考えたヤツはほんとにすごいわね」
「これ……かなりルールを単純化したものなのよ」
「へぇ~じゃあもっと上があるのね?」
「ええ、上はこのカードのアイコンを使った『属性・弱点』や数字カードを組み合わせた『ものまね師』さらに『心無い天使』『秩序』『混沌』に強力な効果が付与されるってルールが追加されるわ。それと特殊召喚って言って、『リヴァイアサン』と『イフリート』それに『シルフ』と『タイタン』っていう召喚獣が新たに追加される。とにかく難しい。あんたが思うほど倍にルールの理解が難しいわ」
「へぇ~面白そう」
ミストさんは面白そうって言うけど……今でさえルールの理解に苦しいのにさらにルールが追加されるなんて……無理。わたしには絶対に無理!
リヴァイアさんって誰ですか? 状態だよ!
「やめときなさい。イヤって言うほどめんどくさいから」
「じゃあ、やめとく」
「賢明ね。あと何かある?」
「そうね……今のところないかな」
「そう。じゃあ最後ルールを説明するわ」
「この後に及んでまだあるの?」
「簡単だから訊きなさい」
「なに?」
「場に出したカードの強弱の結果を整理するために『リザルト』を行うわ」
「りざると?」
また……難解な言葉が出てきたなぁ……
「なにそれ?」
「言葉通りのカード結果の整理よ。青と赤の石をちゃんと削る時間」
「詳しく」
会話を訊くとこう言うことらしい。
相手がカード3枚と自分がカード2枚出したとする。
例えば……
○相手のカード:1 3 10(横)
○自分のカード:2 7(横)
例えの結果だと……
相手の数字カードが1 3で自分の数字カードが2
何度も言ってるけどこのゲームは『カード1枚の強さ』で結果が決まる。
縦の数字カードの強弱はこう『1<2<3』
なのでリザルト(結果整理)は……こうなる。
相手:1 3=青い石(体力)をひとつ失う
自分:2=青い石(体力)をひとつ失う
この場合は1は考えなくていい。と、思う。
同じく横向きカードこうなる
赤い石も7<10。
こうなので……
相手:10=赤い石は削られない
自分:7=赤い石をひとつ失う。
ちなみに数字カードが『1同士といった同数カード』がある場合は縦カート横カード問わない『回避』という状態になる。これはお互い赤、青の石を失わない事。で、そのカードは壷に送られる。つまりはドローだね。
例えば、場に数字カード3が2枚あるとする。ちなみに縦横の向きは問わない。
相手:3 5
自分:3 6
数字の強弱は『3=3<5<6』
となってリザルトすると……
相手:回避+体力をひとつ削る
自分:回避+なにも削られない
と、いうことになるのかな?
「これを必ず行うわ」
「オッケイ」
「それと、リザルトの途中や後にフレアや道化師の効果のカード2枚は追加はできないわ」
「了解」
リザルトを行う理由は簡単。召喚獣の効果や数字カードなどがごちゃごちゃしている場合がある。
赤と青を間違えて減らしている場合や召喚獣の効果が間違っている場合もあるのでしっかりと見極める時間を作ろうって事らしい。お互いがお互いをチェックしあって、間違いがなければ使用したカードと赤青の石、それと召喚石が壷に送られてる。で、この時にカードの補充と召喚石の設置を行う。
リザルトを終えてるとわたしたちの世界で言う『1ターン終了』となる。
「さて、だいたいこんな感じ。再三聞いているけどなにか質問ある?」
「そうね……例えば、あんたが3枚カードを出してあたしが1枚カードを出したとする。こういう場合はどうなるの? カードの強さで決まる以前にカードがないわ」
「いいわね。なかなか良いところに目を付けたわ。確かにカードの強さで勝敗が決まる。でもそもそもカードが出てない。今の例えでわかりやすく言うと、あなたが縦横共に10のカードを3枚出して私が縦カード1枚の場合」
「ええ」
「この場合は私のカードがアルテマじゃない限りは私の一方的な負け、つまり青い石をふたつ削って赤い石をひとつ失う」
「カードが出てないから?」
「そう、守りがないからガード不可」
「1枚だけ出すってのはリスクしかないわね」
「そうね」
「で、アルテマだった場合は?」
「特殊効果の『リフレク』が発動。場に出したカードの枚数と向きの分だけ赤と青の石が削られる。今回の場合は青がふたつで赤がひとつ。私の石が削られる」
「なるほど。アルテマだった時のリターンはでかいわね」
「リフレクの発動条件は場に出したカードがすべて数字10だった場合のみよ」
「狙って出せるもんじゃないわね」
「ご明察」
「ムズかしいね。このゲーム。頭がこんがらがりそう」
「ミナミはこのゲームの攻略法はあると思う?」
「どうしたのいきなり?」
「どう、ありそう?」
「う~ん……そうですねぇ」
攻略法か……たぶん『召喚獣』か『アルテマ』がカギになると思うんだけど……
「召喚獣か……アルテマが重要っぽいかな?」
「なるほど……ありがとう」
ミストさんはそれでけを言って心ない天使のカードを見つめている。
◆
「他には質問ある?」
魔法使いさんがミストさんに聞いてくる。
ミストさんはカードを見たまま『山場のカードがなくなったらどうなるの?』と質問を返した。
「リレイズになるわ」
「りれいず?」
「簡単に言うと再スタートね。壷のカードを山場に戻してゲーム続行。あ、体力と生命、召喚石はそのまま引き継いだ状態よ」
「了解」
「他には?」
「そうね……特にないかな」
「そう、じゃあ……わたしたちの究極の幻想」を始めましょう」
こうして、ゲームの火蓋は切られたのだった。
邂逅、そして究極の幻想 完