魔法使いの世界
みなさん。お久しぶりですこんにちは、そしてこんばんは。
作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す! 元気してた?
あ、ここは前書きだけど、ちょっと読んでもらえるとありがたいかな。
かなり久しぶりだよね~二年くらい?
まぁ、そんなことよりやっと完成しましたぁ~~
いや~長かったね! 長かった!
で、ここからが本題なんだけどぉ~~作者から間宮冬弥から
お手紙がきてまっす! じゃあ、読むね。
「みなさま。お久しぶりです。まずはわたしの小説を待っていた方、新作投稿が遅くなりまして申し訳ございません。
僕からひとつお知らせがあります。今回のこの小説に僕が考えた実在しないカードゲームが出てきます。このカードゲームですが自分なりにかなり考えて作ってありますが、ルールに穴がありガバガバです。考えないと思いますが実際にプレイしないことをお勧めします。では、本文をお楽しみください」
だって! あはは!
そんなことだから、間宮冬弥のお願いだからプレイしないでね。
では、本編をお楽しみください、それではっ!
あ、間宮冬弥は最終話のあとがきにくるからね! じゃあね!
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「ここが……魔法使いの世界なのかな?」
「どうだろう。見た感じはあたしのいたところと似てるかも」
ルーラカーテンという旅の扉を通ってわたしとミストさんは『魔法使い』の世界にやってきた。
……神父さんの操作が間違っていなければだけど……
ここも木々に覆われた場所、確かにミストさんがいた『盗賊』の世界に似てるかも。
違うのは今が夜なのか、空は暗くそしてミストさんの世界にあった巨大なふたつの木はない。かわりにとても大きい樹がひとつだけ空へと延びている。
「すごい大きいな樹……の、周りに? なにこれ? 空中に紋様みたいなのが描かれている?」
そう、ミストさんの言うとおり空中に巨大な丸い模様のような物が描かれている。その周りには小さくて、これまた丸い模様が描かれている。小さく浮かぶ円形の模様の数は8個。それぞれがほのかに青く光る。
「綺麗……」
無意識にわたしの口からあふれ出す。
それはとても綺麗で、心が奪われるくらいにとても幻想的だった。
「どういう原理これ? 星晶石みたいなのを使ってるのかな?」
「う~んどうだろう……確かに星晶石は光ってたけど……」
わたしの世界で言うとLEDで彩られたクリスマスイルミネーション……は、ちょっと違うかな? 一番近いのは、『プロジェクションマッピング』かな。建物や大きな壁に映像を映し出すアレね。
でも、これはそれらとは全く違う感じ……なんというか、本当に空中に描かれてる感じがひしひしと伝わってくる。
裏側? に回ってみる。思った通り壁もない。ましてや巨大な液晶ディスプレイに映し出しているわけもない。
一瞬、ガラスのような透過パネルに模様を映し出してるかと思ったけど……この世界にはパソコンはないから無理そう。というか電気がない。あ、星晶石とマナがあればギリいけるかな?
でも……本当に、本当に文字通りに言葉通りに模様が『空中に浮いて』いる。
「星星石じゃないとすると……なんだろう?」
「やっぱり、ミストさんが見たがってた『魔法』じゃないかな?」
「う~ん、だとすると、ちょっと違うんだよなぁ~」
「そうなんだ……」
わたし的には魔法だと思うけどなぁ……こんなに不思議で綺麗なんだし。理解の範囲を大きく超えているから『魔法』でいいと思うけどなぁ……
むしろ、ミストさんの思う『魔法』ってなんだろう?
でも、この不思議で綺麗な風景……すごくSNSでバズりそうだなぁ……
「とりあえず、1枚撮っておこうかな」
スマホ取り出し、カメラを起動させて構える。
バッテリー問題も星晶石とマナのおかげでクリアできたし……思う存分撮れるぞ。
「あ……」
そうだ、バハラタのみんなの写真を撮っておけばよかったな……向こうじゃいろいろとありすぎて、写真を撮ることを忘れた……もし、戻ることができたら……ミリアちゃんやみんなと写真を撮ろう。絶対。
「ミナミ……なにやってんの?」
「うん、写真を撮ろうと思ってね」
一連の行動を見ていたであろうミストさんが不思議な顔をして声をかける。
「しゃ……しん?」
「あ、そうか……無いんだったよね」
スマホやカメラはここにはないんだよね。写真と言ってもわかる訳ないか……と、言ってもなぁ……じゃあどう説明すればいいんだろう?
「えっと……この機械で風景を切り取って、いつでも見れるように画像を残す技術かな?」
「がぞう……?」
「あ~そっかぁ~~~~そこからぁ~~~えっとぉ~~この世界風に言い換えると……なんだろう? 風景? を一瞬で絵に変えて残しておくことかな?」
「絵に? すごいじゃん!」
「そう、すごいんだよ!」
よかったぁ~わかってくれた!
「見せて見せて!」
「いいですよ。あ、待ってどうせ見るなら……ミストさんこっちに来てください」
カメラをフロントに切り替えて、ミストさんを手招してわたしの横に立たせる
「なにするの?」
「いいからいいから」
スマホを持った右腕をまっすぐに伸ばしてわたしとミストさん。それに後ろの浮いていいる模様がカメラに収まるように微調整をする。
「ミストさん、もう少しわたしに近づいてください」
「なに、なんなの?」
「いいからいいから」
「なんなのよ、もう」
「ミストさん。指をこの形にしてください」
ピースの形にしてミストさんに見せて『そうですそのまま左目に当ててください』と、指示してミストさんは文句をいいつつもピースを左目に合わしてくれた。
「あ、手を逆にしてください。あと、すこしかがんでもらっていいですか」
「注文が多いわね……こ、こうでいいの?」
「はい。大丈夫です」
ミストさんの準備が整ったところで『じゃあ行きますよ。ミストさん笑ってください』とかけ声をかけて
「はい、チーズ」
フラッシュが焚かれ、スマホ画面には写真が残る。
「なに? 今の光……」
「おお~~うまく撮れましたよ。見てくださいミストさん」
撮れたての画像をミストさんに見せる。
「えっ……なにこれ……あたしがこの中に入ってる? どうなってるの?」
「これが写真ってものですよ」
ミストさんの笑顔が堅いけど……最初はこんなもんでしょ。
「へぇ~不思議。すごく精巧に絵にしてくれてるんだね。ちょっと不安になるくらいにだけど……」
「まぁ……正確には絵じゃないんですけどね」
「だ、大丈夫だよね? 魂とか抜かれないよね?」
「あ~大丈夫だと思います」
魂を抜かれるかぁ~~大丈夫だと思うけど、なんだかそう言われるとちょっと不安になるなぁ……
「でも、なんだか思い出がずっと残るし、いいねこれ。絵の大きさも小さいし手軽に見れそう」
「思い出……」
そうか……思い出を残すか。写真がない世界ならではの言い回しって感じ。
ミストさんとの思い出か。うん。いいね!
「ミナミ……どうしたの?」
「ううん、なんでもないです。ミストさん。もう1枚撮りませんか?」
「う~んそうね。ミナミと絵になるなら悪い気はしないかな?」
「じゃあ、撮りましょう!」
スマホカメラを起動して、空中模様をバックにわたしとミストさんは写真を撮ったのだった。
◆
「じゃあそろそろ移動しましょうか?」
と、提案をミストさんにした。ミストさんはミストさんで『不思議だなぁ』と呟いてスマホの写真を見ている。
なんでわたしのスマホ内の写真をミストさんが見ているのか。事の始まりはわたしが撮った写真を『ミストさん』というフォルダに移動している時だった
『それ全部写真ってやつなの?』とミストさんが聞いて聞いてきた時。とても興味ありそうな顔をしていたので『見ますか?』と言ったところから始まったのだ。
「あ、ミナミと同じ格好してる人がたくさんいるよ」
「それは修学旅行の写真ですね。懐かしいなぁ」
わたしもわたしでついミストさんの隣で一緒になって写真を見る
「しゅーがくりょこうって?」
「同い年の子たちで旅に出て、遺跡とかをみる事かな?」
「へぇ~楽しそうだね」
「はい、実際すごく楽しいですよ!」
そんなこんなで、いろいろな写真をミストさんと見ていたり、わたしはわたしで思いでを振り返っていたりして数十分。
「ミストさん、行きますから返してくださいね!」
「わかった、わかったって」
我に戻ったわたしは業を煮やしてミストさんからスマホを奪い取って、強引に連行させる。
「どこ行くの?」
「魔法使いさんの所ですよ」
「まぁそうなんだけどさ。場所、知ってるの?」
「知りません!」
「ったく、根拠がないなら迷うだけじゃない?」
「じゃあ、ミストさんは魔法使いさんがどこにいるかわかるんですか?」
「わかりません!」
「わたしと同じ答えですよ、それ」
と、中身のない問答を繰り返して歩いていると、空が明るくなってきた。
えっ……空が明るく?
「ミストさん……空が……」
「ちょっと……これホントなの?」
後ろを振り返ると空は夜。
前を見ると空は朝。
わたしたちは朝と夜?の境にいる。
「どうなってんのこれ……?」
「魔法使いって言うくらいなんですから……朝と夜を操るってのもできるんじゃないんですか?」
と、わたしが答えると『いやいや、気分で朝と夜を変えられても困るんですけど?』とかなり正論チックの答えが返ってくる。
「まぁ……確かに。それは……困りますよね」
と、しどろもどろでこたえるわたし。
うん、言われて気づいたけど、生活バランスがかなり崩れそう。というか、確実に崩れる。ボロボロに。朝だと思ったら突然に夜になったらかなりアセる!
「あのふらふらと浮いている模様の所だけが、暗いんですね」
わたしは一度戻って、浮いている模様の所で空をみた。
「……ミストさん」
空を見上げたまま、手招きでミストさんを呼んだ。
「なに」
「上」
「上? って……うそ」
空を指さし、ミストさんが見上げた先には、
「なんで?」
ミストさんの答えはわたしが思っていた答えだった。
この『魔法使いの世界』にも月はある。もちろんただの月ではない。その月は『わたしでも見たことがある』
忘れもしない。衝撃的なその光景。
「双子月ですよね……あれって」
双子月。
紅い月と蒼い月が寄り添うように浮かんでいる『ふたつの月』は仲むつまじく空に存在していた。そしてこの双子月は……神殿がある世界にも……盗賊の世界にも存在している。
「魔法使いさんが作ったんですかね」
「昼と夜の件もそうだけど……仮にそんなことができたらかなりヤバイ奴よ、そいつ」
ヤバイ奴……ミストさんの言葉が刺さる。
そんなヤバイ奴……かもしれないヤツに今から……わたしとミストさんは会わないといけない。
「ううっ……どうしよう」
「帰る?」
「ううん、どうせ三日間は開かないんだし。それに……もう手遅れかも」
「手遅れ?」
わたしは見てしまった。アニメや映画で見たホウキのようなものに乗って空からやってくる『それ』を。
金色の長い髪をなびかせた『それ』はわたしたちの上空を通り過ぎ、円形の模様の近くで下降し、ゆっくりと地面に降り立つ。
「確かに……手遅れかも」
ミストさんも空から来た『それ』認識した。
降り立った『それ』はわたしが知っているイメージのまんま。
黒いトップスに黒いスカートそれに黒いマント。頭には黒いとんがり帽子をかぶって……ホウキを持っている。
イメージのまま、黒づくめのそれは見たまま、まさしく『魔法使い』だった。
それに……スカートを履いていてるし、遠目から見ても『女の子』だとわかる。
「全身真っ黒……」
ミストさんがそう形容する。
魔法使いと思わしき女の子は、ゆっくりとこちらへと向かってくる。
ゆっくりと歩いていた女の子はわたし達の数メートル先で止まる。
「ヤバイ奴かな……」
と、わたしは誰に向けてでもなく疑問を呟いた。
「……」
止まった女の子は口を開くわけでもなく、何かをぶつぶつとひとりで言っている。
すっ……と手のひらをわたし達に向ける。
「な、なにしてんの? あれ?」
ミストさんの言葉に『さぁ……?』と返す。
見たまんまを言うと……手のひらを向けてぶつぶつとひとりでしゃっべってるだけだ。
「なんかいやな予感がする……ミナミ、今のうちに……逃げよう!」
「えっ?」
ミストさんが、わたしの腕と掴んだ、その時
「イタッ……!」
「なにこれ!」
上半身に締め付けられるような痛みが走る。
「なにこれぇぇえぇえぇええええぇえっぇぇぇぇえっっぇえ~~~~~~!!」
わたしとミストさんの上半身には縄で縛られたような見た目になる。
体に巻き付いたのは『光の輪』
その光の輪は確実に体を締め付け、圧迫をかけてきている。
「く、くるしい……」
「ち、ちょっとあんた! なにすんのよ! これあんたがしたの!? ほどきなさいよ! あ、イタッ!」
苦悶の声をあげたミストさんは魔法使いにの女の子に暴言を投げかける。
「ヘンテコな格好をしたそこのふたり。あなたたちはどこからきたの?」
「はぁ? ヘンテコ?」
魔法使いさんの問いかけにミストさんはぶっきらぼうに答える。
「あたしの格好は普通でしょ!? ヘンテコはミナミのほうじゃない?」
「ミストさん! 今はそこじゃないです!」
などと縛られているのにまったく緊張感のない、会話を繰り広げているけど……
「微かに感じるマナが全く異質。ここの人間のものじゃない」
そんなことお構いなしに、魔法使いさんは語りかけてくる。
「はぁ? わけわかんないこと言ってんじゃないわよ! 黒づくめ!」
ミストさんが暴言を浴びせてるけど……わけわかんない言葉の中にひとつだけ聞き覚えがありひっかかる言葉があった。
「マナ?」
このひと今マナって言ったよね?
「すみません! マナってなんですか?!」
「ちょっ、ミナミ!」
ミストさんの暴走を止める形で言葉を発して割り込む。
「……マナを知ってるの?」
「詳しく知りませんけど……名前くらいなら。そこのミストさんも知ってます。知ってますよね?」
「道具を動かす動力のマナと言うなら……知ってる」
「道具を動かす……? マナが」
魔法使いさんはうつむき親指を顎に当てて何かを考え始める。その時間は体感時間でおおよそ2~3分。
その間、わたし達は拘束状態を維持させられていた。
ところどころでミストさんやわたしが『ほどいて』やら『聞いてるの』やら思考の横やりを入れたけど魔法使いさんは動じずに考えを脳内でまとめてる。
「なるほど……あなた達から異質のマナを感じると思ったら……『用途』が違っていたのか……やっぱりあなた達はこの世界の人間じゃない」
「まぁ……そうですね」
冷静なわたしは冷静に答える。
わたしひとりだけだったら、きっとミストさんのように叫んでた。取り乱してた。でもミストさんが暴走したおかげでわたしはなんとか落ち着いていられた。
……ひとりじゃないって……やっぱりすごいくいいな。
改めてわたしといっしょに来てくれたミストさんに感謝をしてしまう。
などどと感傷に魔法使いさんが『魔法は使えないよね?』と問いかけてきた。
そんな問いの返答は決まっている。
わたしとミストさんは顔を合わせて、示し合わせたかのように同時に『『使えない』』と答えるだけだった。
「じゃあ、最初の質問と新しい質問。どこからきたの? なにしにきたの?」
「えっと……わたしたちは……」
「待って、ミナミ」
答えようと思った矢先、ミストさんに制止させられた。ミストさんはまっすぐに魔法使いさんの見て……ううん、睨んでこう言った。
「この光の輪の締め付けが苦しくて、答えられないんだけど? 話すからさ、ここじゃなんだし落ち着いて話せる場所を提供してくれない? それと光の輪」といてくれない?
ふてぶてしいまでの要求。魔法使いさんのふたつの質問はこのふてぶてしい要求で一時保留となってしまった。
質問には答えてないけど、しゃべれてるじゃん……と思ったのは心に留めておこう。
「……」
その要求に応えるかのように、魔法使いさんはこっちに近づいてくる。
「いいわ、魔導工房に案内するわ。高いところは平気よね?」
背後に回ってわたしと、ミストさんの肩に手おいてそんなことを言う魔法使いさん。
「はい?」
疑問を感じている間に身体が少しだけ宙に浮いた。
「えっ? えっ?」
「ちょっ? えっ!?」
戸惑いが止まらない。両足が、身体が中に浮いていることに驚きを隠せない。
「拘束は工房に着いたらほどくわ。それとこれからきっと怖い思いをすると思うから覚悟してね」
「こ、怖い思いって?! えっ? なに? なに? なに? なに? なに? なに?」
「ど、どうなるの? どうなるの? えっ? これどうなるの?」
とにかく疑問が止まらないけど、その疑問に対する質問がまったくできない。
「じゃあ、行くよ。遠慮なく声出していいから」
「こ、声? 行くって? なに? 行くってなに!?」
「声って? 声って!?」
ミストさんとわたしが疑問をぶつけてるけど、魔法使いさんはまったく答えてくれない。
「ここから2~3分くらいかな? ちょっと長いけどいいよね?」
「えっ? えええぇえぅえええぇえぇええええぇえええぇえええええ~~~~~!」
宙に浮いた身体が突然引っ張られるように空に弾き出された。
まるで、巨大なスリングショットから打ち出されたように放たれた身体は空に浮いて飛んでいる。
「きゃあああああああああぁぁあああぁぁぁああああああぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁああ~~」
「なにこれぇ! 楽しいぃぃいぃいいいいぃぃぃいいいぃいぃいぃいいぃいいい~~!」
叫ぶ。けど、わたしとミストさんとの叫びの意味はまったく違うものだった。
■
「着いたよ」
その言葉と同時にミストさんとわたしの身体に巻き付いていた光の輪が消え去る。っていうか……うぷっ……き、気持ち悪い……
「おおっ~~ここが……って普通の家じゃない? ねぇミナミ?」
「ひぃ、ひぃ、ひぃ……おふぅ……」
ミストさんの言葉に答えられる状態じゃない。拘束は解けたけど、空飛ぶ移動で腰が抜けて地面に伏せているの状態なのだ。わたしは。
「大丈夫?」
「ミストさん……わたしね」
「うん?」
「ジェットコースター苦手なんだ……すごく」
「なに言ってんの? じぇっとこーすたーって何?」
「こ、怖かったんだよ……し、死ぬかと思ったんだよ」
「う、うん……なんかごめん。そんなにマジな目で見られると……うん。ごめん」
「ううっ……怖かったよぉ……」
「よし! しばらく休もっか?」
「うん……」
「と、言うわけなんで、ちょっとだけ休ませてね」
魔法使いさんはその言葉に『気分が良くなったらベル鳴らして』と言い残して工房に入っていったのだった。
◆
「ううっ……気持ち悪い」
「大丈夫なの? 顔真っ青よ?」
「ちょっと、ダメかも……」
「あ、あの、大丈夫ですか? これどうぞ」
地面に座り込んで休んでいると後ろからわたしに声をかけてきた人物。声からして女の子。
後ろから差し出されたのは透明なコップに入った透明な液体。
たぶん水だろうと受け取って一口飲む。
「あ、ありがとうございま……!」
お礼を言おうと顔を見上げたときに予想もしなかった格好の女の子がそこにいた。
白装束に緋袴。それに綺麗な黒髪。まさしくそれはアニメや初詣でみる巫女さんそのものだった。
「あ、巫女さんですか?」
「みこ……さん?」
「あ、いや、すみません。お水ありがとうございました」
魔法使いさんがいるから巫女さんもいるかもしれないけど……かなり以外な組み合わせだ。
神聖な巫女と邪悪な魔法使い。そんな善と悪? みたいなイメージだけどどんな関係なんだろう?
「いえ、中から見ていたら、とても気分悪そうだったので……」
「あ~すいません。なんか気を利かせてしまって」
「いえ、とんでもない」
「あのさ、ミナミ飲んでおいてなんだけどさ」
「ん?」
と、黙っていたミストさんが口を開く。
「その水にさ、毒が入ってたらどうするの?」
「ふぇ? ど、毒!」
「そんな! 私、毒なんて入れていません……」
「そ、そうですよ! こんな巫女巫女しているひとが毒なんて入れる訳ないじゃないですか! それと、そう思っていたら飲む前に言ってください!」
「それはごめん。だけどどうだかね。あいつの関係者なんでしょ? だっていきなり縛りつけるヤツよ? 非常識はなただしいわ!」
「……」
わたしは呆れた目でじっ~~とミストさんを見た。そして思う。
(ミストさん。ミストさんがそれ言う? ミストさんだってわたしとの初対面の時にダーマトライバーや鎧を盗んで換金しようとしてたのに? それ言うの? 非常識はなただしいわ!)
「なに? その呆れたような目は?」
「いや、別に」
「あんただって、ミリアを縛り付けて拷問のような食事をさせてたじゃない? 非常識はなただしいわ!」
「おふぅ」
わたしも同類だったか……
「と、とにかくごめんね。友達が疑うようなこと言って。そのわたしは大丈夫! ほら元気になったから!」
ふたりの中を取り持っていたら、なんか気持ち悪さが一気にふっとんだな。
それになんかこの巫女さん……なんか儚げで放っておけないんだよね。
「あの、それより巫女さん、工房から見たって言ってましたけど、あの魔法使いさんとどんな関係なんですか?」
気になっていた関係性を聞いてみた。そして巫女さんが答えたのはまさかの『あ、はい。姉です』だった!
「お、お姉さん! 巫女さんのお姉さんが魔法使い!? どんな世界観!?」
「はぁ……世界観……ですか?」
「あ、いや、ちょっとえ~っと、ごめんなさい。驚いちゃって……」
これって普通なら魔法使いと魔女とか魔術師とかだと思うけど……まさかの魔法使いと巫女! と、いうかまるっきりコスプレの世界じゃん!
そう言い切ってもいいんじゃないのこれぇ! 過言じゃないんじゃないのこれぇ!?
「で、そのあんたのお姉ちゃんはお家で何してるの?」
と、ミストさんがトゲのある言い方で、巫女さんに凄む。
「……あなたのその荒んだ性格。見ていて、聞いていて、控えめに言ってとても不快です」
「そう。なら奇遇ね。あたしもね、あんたも、あんたの姉にも不快感全開よ」
「ちょっと待った! ケンカはダメだよ。仲良く仲良くね!」
と、かなり不穏な空気が吹き始めたので、とっさにふたりの間に割ってはいる。
「ミストさん、落ち着いてください、そっちの巫女さんもそう熱くならないで」
「いやいや、ミナミ。あたしは落ち着いているよ。すごく澄んだ心だよ」
「奇遇ですね。私も穏やかな心であなたの戯言を聞き流していますよ」
「と、とにかく! お互いにそんなに笑顔でにらめっこしないで! ミストさん魔法使いさんと話をしましょう! 楽しみにしてたんでしょ?! ケンカが目的じゃないですから!」
必死になだめているがミストさんのイライラはまだ収まっていない。
「いやいやミナミ。ケンカじゃないよ。あたし澄んでるよ。すごく穏やかだよ」
「そうです。ケンカじゃありません。私だってあの青い空のように澄んでいます。清流のように穏やかです」
「イヤイヤ! 澄んでないから荒んでるから! お互い荒んでるから! お願いだからケンカをやめてぇ!」
と、絶叫しながらわたしはふたりを引きはがしたのだった。
◆
「……なにかあったの?」
「なにもないですよ」
なんとかふたりをなだめて、巫女さんの手引きで工房へと入室。そこで外で起こったことを何も知らない魔法使いさんはイスに座って、優雅に飲み物を窘めて、書物を読んでいた。
工房は言うほど工房工房していない。工房と聞いてブライルさんのようなごつごつとしていて物であふれているかと思ったけど、そうでもなかった。
白で統一された部屋。
かなりキレイ。物はきちんと整理整頓されていてされに清潔感が漂う。
アニメでみた煮え立った液体が入った大釜もなく、書物もみる限り魔法使いさんが持っている書物だけ。試験管やら魔法で使うような道具も杖もない。
「座ったら? 立ち話もなんなんでしょ?」
「失礼します」
と、断りを入れてイスに座る。ミストさんはまださっきこの事に怒っているのかブスっとしながら席に着く。
「で、なんでそんなに機嫌が悪いのあんたは?」
「悪くないですよ。普通ですけど?」」
「そ、仲良くね。ついでにそっちのヘンテコな格好で無愛想なあなたもね」
「お心遣いどうも。ヘンテコはミナミだけどね」
「……おふぅ。なんか改めて言われるとショックです」
姉妹なので何かを感じ取ったのか、魔法使いさんは巫女さんに言葉をかけていた。ついでにミストさんにも。
ミストさん、まだ怒ってる……ミストさん笑顔笑顔!
そして、わたしはショックを受けている。
「……」
「なに?」
「なんでもない」
わたしの笑顔でいてほしい思いは、まったく伝わらずミストさんが睨んでくる……
視線が痛い……
巫女さんは『なにもなかった』って言ってるけど『なにかあった』んだよね。なんだろう? 気分は良くなったのに、すごく疲れた気分だ。
「ふぅ~ん。まあいいわ。で、そっちのふたり。どこから来て、なにしにきたの?」
当初の質問。その質問にわたしはメモリを手にとって、ふたりに見せてこう聞いた。
「これ。どこかで見たことありませんか? この世界に必ずあるはずなんですけど、知ってますか?」
見せたのは『勇者』のメモリ。この世界じゃかなり独特な形をしている。見ていればなんとなく記憶に残っていても不思議じゃない。
「……」
魔法使いさんはメモリを一瞥し、言葉を流す。
「知っているって言ったらどうする?」
「どこで見たか教えてもらうわ」
「はい。お願いですから教えてください。必要なんです」
わたしとミストさんが言うと魔法使いさんはこう答えた。
「それって……これの事?」
わたしの中じゃ当たり前の形状だけど、ここじゃ独特の形状。手のひらサイズで先端に差し込み口がある形。文字を写す液晶パネル……
魔法使いさんが見せてくれたのは……『メモリ』だった。
魔法使いの世界 完