八十八話:復興といつもの爆走
聖女コノハの働きでルナタスの街にルーシェント国の臨時政府が立ってから数日。
特に目立った混乱もなく、聖女部隊はクレアデス国の復興支援と援軍が派遣されて来るまでのあいだ街に留まり、休息期間に入っていた。
次の目的地に向けて準備も進められる中、盗賊団に村が襲撃されたので助けて欲しいという陳情があり、街から討伐隊が出撃。
聖女の祝福の援護もあって、近辺を荒らしていた盗賊団は捕縛された。
被害を受けていた村だが、呼葉の祝福が届いた事で村人達が自力で盗賊団を撃退したらしい。討伐隊が到着した時には、既に決着が付いていたそうな。
とはいえ、祝福の恩恵がなければ酷い事になっていたのは間違いないと、盗賊団をしょっ引いて来た討伐隊の隊長が神妙に語っていた。
調査した結果、その盗賊団はルナタス周辺の村々を幾つも壊滅させた凶悪な集団であった事が分かっている。
襲撃で占拠した村に居座って備蓄を食い荒らし、蓄えが無くなると女子供問わず家畜も含めて皆殺しにした上で次の標的を定めて襲うという事を繰り返していたようだ。
魔族軍の侵攻で村同士の交流が途絶えていた為、中々発覚しなかったとの事だった。
「周辺の治安回復も急務だわね」
呼葉はルナタスの臨時政府と統治に携わっている人々や、治安維持に努めている兵士達を引き続き祝福の対象に加えてサポートする。
馬より速く走れて殆ど疲れない上に、装備品も含めて数倍に強化される祝福効果付き討伐隊が西へ東へと活動的に働き、ルナタスと近郊の治安は凄まじい勢いで回復していた。
「それと、自称レジスタンスの若者達ですが――」
「自称……」
クレイウッド参謀から近況報告を受けている呼葉は、統治者選定の時に揉めた若者グループの話題に耳を傾ける。
魔族が支配するルナタスの街で、レジスタンス組織を率いていたという若者グループのリーダー、クレバートは、街の統治者選定に立候補したが、選定条件を定めた祝福が掛からず落選。
不満を表明するクレバートとやや口論気味になり、呼葉が心に溜め込んでいた本音をぶちまけて少し騒動になった。
それが切っ掛けて発動した聖女部隊メンバーの過保護モードは、今は落ち着いている。
統治者を選定した会議の夜、クレバートは「魔族の支配下で民の安全な暮らしを護って来た」と豪語していた。
そんな彼等に『本気でルーシェント国を復興し、民を救いたいと願っている者』という条件の祝福が掛からなかった件については、結局あの騒ぎで有耶無耶になったままだった。
「今のところ、大人しくしているようですが」
「まあ、この状況じゃ何も出来ないでしょ」
騒ごうにも彼等には祝福が掛かってない。彼等に反目する者には掛かっているので、どうしようもないだろう。
それどころか、若者グループの中からも離反者が出ているらしい。
クレバート派だった若者グループの内の大半は、選定条件の祝福が掛かって天井まで飛び跳ねていたが、クレバート本人と彼の組織の幹部達数人には掛からなかった。
その事が気になった呼葉は、ルナタスに潜む『縁合』に頼んでサクッと探って貰ったところ、彼等がレジスタンスと称していた組織の実態が明らかになった。
クレバート達のレジスタンス組織は、魔族の統治を安定させる為に住民の不満の捌け口を用意して不穏分子を一ヵ所に集めておく工作機関の一種だったのだ。
要は、街を支配する魔族側と裏で繋がっていた。
組織の中でその事を知っていたのは、祝福の掛からなかったクレバートと数人の幹部達だけなのだろう。
今のところ、呼葉はこの情報を公にする気はない。
「それにしても、統治者に立候補したのって自分が街の支配者にでもなりたかったのかな?」
「自分達には魔族の後ろ盾があると考えていた節がありますからな。まあ、成り上がりに憧れる若者としてはよくある事でしょう」
と、クレイウッドはクレバート達の行動を『若気の至り』で一括りにした。選定会議で見せた彼等の言動に、深謀遠慮を感じさせるモノはなかったそうな。
街を支配していた魔族との繋がりについても、クレバート達が交渉してその地位を築いたのか、魔族側の工作にまんまと乗せられていたダケなのかは分からないが。
「とりあえず今はこのまま元側近さん達の統治が安定するまで見守って、クレアデスからの援軍と入れ違いに出発かな」
「そうですな。避難していたこの国の貴族や住民達も戻って来るでしょうし」
ルーシェント国からの避難民は、隣国の隣国オーヴィスにまで至っている。
以前、慰問巡行で訪れたオーヴィスの聖都よりさらに南にある開拓振興の街ベセスホードにも、ここルナタスから避難した母子が隠れ住んでいた事を思い出す呼葉。
「そういえば、サラ達はこっちに帰って来るのかな? テューマちゃんが目覚めない内は無理なんだろうけど」
魔族の男性と結婚してハーフの子を産んだサラと、全ての魔族が抱える種族特性『睡魔の刻』で仮死状態のような眠りについている娘テューマ。
ベセスホードの街にある孤児院の地下に匿われていた親子は、聖女の名において保護している。
魔族軍の侵攻が始まった時にサラ達をルナタスから逃がし、穏健派の魔族仲間を助けに王都シェルニアに向かったという彼女の夫は、安否不明との事だった。
(旦那さんの名前とか、聞いておけばよかったな)
呼葉は『縁合』に届けてもらう次回の定期情報に、サラ達親子の近況も加えてもらおうと予定を立てる。
そして、ここから先は魔族と交流のある一般人や、魔族の一般人とも関わる機会が増える可能性を推察した。
「ルイニエナさんにも意見を求めようかな? 魔族との付き合い方とか」
「では、呼んで参りましょう」
そうしてルナタスで準備と休息の日々を過ごした呼葉達、聖女部隊は、クレアデス国から派遣された復興支援を担う商人や職人達の一団と援軍が到着する頃、入れ替わるように街を出発した。
復興支援組と援軍部隊にも祝福を与えているので、商人達による交易の活力は凄まじく、経済の立て直しもかなり捗っているようだ。
王都シェルニアを奪還するまでの間、ルナタスには人類側の最前線の街として守りを固めて貰う。
「さあ、次はシェルニアを奪還してルーシェント国を解放するわよ!」
「「「おう!」」」
呼葉の鼓舞に勇ましく応える兵士隊と傭兵部隊。祝福効果で異様に早くて丈夫な聖女部隊の馬車隊は、一路シェルニアに向けて北の街道を爆走して行くのだった。




