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遅れた救世主【聖女版】  作者: ヘロー天気
おわりの章

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七十七話:アルスバルト王子の帰国




 聖女部隊とクレアデス解放軍がクレアデス国の王都アガーシャを奪還してから十日余りが経った。オーヴィス国に避難していたクレアデスの民の帰国が始まり、明日にも第一陣が到着する。

 アルスバルト王子を始め宮廷周りの貴族達も、後四、五日くらいで王都への帰途につけるそうだ。諸々の手続きや関係各所への根回しを考えれば、異例の速さとも言えた。



 王都アガーシャでは、今日も『縁合』の連絡員と離宮の一室で向かい合う呼葉達が、次々と届く日々の最新情報に耳を傾けている。

 フォヴィス王子に『縁合』の『包括諜報網』の利用を許可したお陰か、聖都サイエスガウルの情報は王宮周りの動向も詳細に手に入るようになった。


「アルスバルト様は身辺を信頼出来る者で固める為に、迅速な行動をとるおつもりのようです」


 軍閥貴族達や魔族派と接触のあった者達を出し抜くべく、帰国後直ぐに戴冠して地盤を固め、政策に余計な干渉を受けないよう王宮に置く派閥からの締め出しを目論んでいるようだ。


「そっちは後はクレアデスの問題ね。例の娘さんは見つかった?」

「はい。フォヴィス様の協力で恙無く。既に聖都への移送が決まっています」


 呼葉は『縁合』経由と、通常の伝令も使って聖都の神殿やフォヴィス王子に手紙を送っている。


『推しの魔王候補が見つかりました。つきましては身内の保護をお願いします』


 ――そんな内容の手紙である。


 通常の伝令が聖都に到着する前に『縁合』経由で秘密裏に届けられた手紙の依頼に対し、神殿とフォヴィス王子が直ちに動いてくれた。

 お陰で、聖女や王子に取り入りたい者、あるいは反目する者達から横槍を入れられる事も無く、捕虜にしていた魔族の名門ジッテ家の令嬢ルイニエナの身柄確保はスムーズにおこなわれたようだ。


「色々説得するなら、やっぱりこっちに呼んだ方がいいかも?」

「そうですね……ヒルキエラに潜っている仲間がカラセオス殿と交渉を試みているので――」


 その結果如何によっては、ルイニエナ嬢を聖女部隊に同行させる事になるかもしれない。呼葉と『縁合』の連絡員は、今後の方針で幾つかの段取りを話し合った。


 連絡員が去った後、呼葉は聖女部隊の中枢を担うメンバーである六神官達の他、クレイウッドやパークスを集めて、『縁合』の連絡員との話し合いで決まった内容を報告する。

 クラード元将軍や使用人達随行員の代表者も呼んでの定例会議。


「というわけだから、もしかしたら一人追加するかもしれないんで、みんな宜しくね?」


 まだ件の令嬢兵士(ルイニエナ)がどのような人物か分からないので未定ではあるが、要人扱いにする事は決めている。

 事前にある程度の構想を話しておいた事もあり、聖女部隊に魔族のルイニエナ嬢が加わるかもしれないという説明には、特に反対する声も上がらなかった。

 聖女部隊の主要メンバーと諸々の確認事項を済ませて、この日の会議を締めくくった。



「ふー、今日も大きなイベントは無かったわね」


 自室に戻った呼葉は宝具入り鞄を脇に置くと、ベッドに転がって一息吐いた。離宮内でも常にほぼ完全武装というスタイルは今も継続している。


 ロイエン達が王都の掌握で忙しく動き回っている中、呼葉と聖女部隊はしばらくノンビリ過ごす日々が続いた。

 呼葉としては少々退屈にも感じていたが、六神官や雑用係の世話役を取りまとめている年配の女性は、休まない聖女様の良い休息期間になっていると肯定的であった。



 それから数日後、王都アガーシャにアルスバルト王子達が到着した。

 『縁合』の情報にあった通り、一部の厄介な重鎮貴族派を出し抜く為に、信頼出来る者達ばかりで固めて大勢のクレアデスの民に交じりながらの帰国。

 表向き、アルスバルト王子御一行とされる馬車隊は、まだパルマムの街辺りだ。


 この偽装がバレる前に、手早く戴冠式を済ませて即位した事を喧伝し、クレアデスの実権を掌握する算段らしい。


 離宮の一室で通達を受けた呼葉は、アルスバルト王子を話題にしながらアレクトール達と出掛ける準備をしていた。


「それって周りにイエスマンばかり置く事になったりしない? 大丈夫?」

「いえすまん?」


 呼葉の懸念する言葉を、アレクトールが不思議そうに復唱する。上手く翻訳されなかったのか、言葉の意味が通じなかったようだ。


「主の言う事に賛同しかしない人を指した言葉よ」

「ああ、なるほど」

「その類の話は、実際よく耳にしますね」


 アレクトールは納得して頷き、ザナムがそういった問題も珍しくない事を示唆した。

 とは言え、アルスバルト王子がオーヴィスに身を寄せている間に集めた臣下達は、皆現状を正確に理解している有能な者達ばかり。

 なので、このまま行政に就いても大丈夫だろうとの事だった。


「まあ確かに、あの王子様が太鼓持ちばっかり集めるとも思えないしね」


 そんな話もそこそこに、王城に入ったアルスバルト王子への挨拶に出向くべく、呼葉達は離宮の一室を後にする。

 部屋の外にはクレイウッド参謀と兵士隊が待機していた。一応、聖女部隊の主要メンバーで向かう事になっているので、パークス傭兵隊長やクラード元将軍も同行する。


 今の王都はまだ十分に落ち着いているとは言い難い状況もあってか、迎えの馬車などは用意されていなかったが、呼葉は特に不満に思う事は無い。


「じゃあ、行きましょうか」


 離宮を出た聖女部隊一行は、割と近くにある王城に向かって呼葉を先頭に歩き出したのだった。




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