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遅れた救世主【聖女版】  作者: ヘロー天気
かいほうの章

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六十九話:反省点




 王都アガーシャを目指すクレアデス解放軍と聖女部隊は、中央街道を塞ぐ魔族軍の関所陣地を発見。そこで禁呪と思しき大規模な儀式魔法が行われている事を突き止めた。

 魔族軍側が行使中の戦略儀式魔法――生け贄を使う広域殲滅魔法の発動を阻止するべく、呼葉は祝福を乗せた強烈な風魔法で陣地全体を巻き込む竜巻を発生させた。


 柵を薙ぎ倒し、建物も半壊させた竜巻は、その向こうで儀式魔法を執りおこなっていた魔術士達を魔法陣ごと飲み込み、上空へと吸い上げる。


「――えっ!?」


 たちまち黒く染まる竜巻。その原因に気付いた呼葉は、思わず声を漏らして術の制御を手放した。途端に竜巻は四散し、空に吸い上げられていたソレらが関所陣地の敷地内へと降り注ぐ。

 砕けた柵や建物の残骸に、抉り取られた地面の土草に石。そして、黒いローブをはためかせる大勢の魔術士達が、上空――約数百メートルの高さからバラバラと落下していく。

 ざっと見積もっても数百人は下らないであろうその光景に、呼葉は呆気にとられる。


「なに……あれ?」

「おそらく、儀式魔法を行使していた魔術士達でしょう」


 ザナムの推定では、1200人以上は居るはずとの事らしい。


「何でそんなに多いの!?」

「広域殲滅魔法で使われる生け贄には、一人の『贄』につき凡そ三十人からの魔術士が必要とされるそうです」


 『贄』が仕込まれていたと思しき件の奴隷部隊は、クレアデス解放軍とほぼ同規模の1200人。その中に何人の『贄』が組み込まれていたのかは分からないが、交戦中に術を発動させる作戦で効果的な戦果を上げるなら、あの長い横陣に満遍なく配置されていたはず。


「恐らく、十人や二十人では済まないでしょう。最低でも四十人は用意したと考えれば、単純計算で1200人の魔術士が必要という事になります」

「魔力の光柱も消えたようですし、もう広域殲滅魔法が発動される危険はないでしょう」


 アレクトール達のそんな説明を聞いた呼葉は、聖女部隊の車列を脇に寄せて止めるように指示を出す。関所陣地の魔族軍は諸共壊滅状態にあり、戦略儀式魔法も阻止する事が出来た。

 後はクレアデス解放軍に任せるつもりなのだなと、聖女部隊の皆が納得している。


 街道脇に停まった馬車から飛び降りた呼葉は、口元を抑えながら草むらに駆け込んで行った。一瞬、呆けた表情でその姿を見送ったアレクトール達は、慌てて後を追う。


「コノハ殿――」

「待ちなさい、アレクトール」


 一緒に飛び出したザナムが、それ(・・)に気付いてアレクトールを止める。他の六神官達も何事かと馬車を下りて来たが、二人の後ろで足を止めた。

 草葉の陰から漏れ聞こえるのは、嘔吐。


(コノハ殿……)


 ――このまま無思慮に近付くのは憚られる。呼葉が落ち着くまでしばらく待つべきかと、その場に立ち尽くしていた六神官達のところへ、使用人達が駆けつけた。

 シドが呼んで来たらしい。


「殿方達は少し距離を置いて下さいな」


 いつぞやの、雑用係の世話役を取り纏める年配の女性から『配慮が足りない』と駄目出しされて、すごすごと馬車に戻る救国の六神官。

 呼葉の事が心配ながらも、介抱を彼女達に任せたアレクトール達は、クレアデス解放軍との連携に意識を向けた。

 まだ戦闘は終わっていないのだ。


 とは言え、関所陣地の魔族軍は既に壊滅状態にあり、突撃するクレアデス解放軍の動きを見ても聖女の祝福が失われている様子は無い。


 アレクトール達は、呼葉が回復するまで現状維持に努めた。

 クレイウッド参謀やパークス達傭兵部隊もその判断に「まあ無難だな」と理解を示し、兵士隊共々掃討戦には参加せず、聖女部隊の護りを固めるのだった。



 呼葉の放った竜巻で街道を塞ぐ柵は全て薙ぎ倒され、その向こうの建物も概ね瓦礫の山と化している関所陣地跡に、クレアデス解放軍が雪崩れ込む。

 牽制の矢が必殺の威力になるほど祝福で強化されたクレアデス解放軍の兵士達には、魔族軍の一般兵では太刀打ちできない。間もなく制圧された関所陣地跡に勝ち鬨が上がった。


 そんな街道上の戦いが一段落した頃――


「ふぅ~、ミスったわ」


 ようやく回復して使用人の馬車から降りて来た呼葉に、六神官がわらわら集まって来る。


「コノハ殿!」

「コノハ嬢」

「大丈夫かよおい」

「コノハ様っ」

「コノハもどれり」

「コノハさん」


(これは大分心配かけちゃったな……)


 と誤魔化し笑いなどしてみせた呼葉は、先程の痴態について釈明した。

 情報の確認不足による油断。遠征訓練の時は、前もって敵軍の規模を把握していたので、相応の覚悟を以て相対する事が出来た。

 だが今回は、関所陣地の施設と、多くて数十人からの魔術士を吹き飛ばす程度に考えていたら、その十倍でも済まないような数の人影が巻き込まれていくのを見て、動揺したのだ。


 想定外の『戦果』に驚いた事で、軽めに纏っていた『付け焼き刃の悟りの境地』が解けてしまった。アガーシャの奪還戦と、その先の戦いにばかり意識を向け過ぎていたと、呼葉は反省する。


「近場って程でも無いけど、こんな場所にあんなに居るとは思ってなかったのよね」


 予めアレクトール達から、ここで行われていた儀式魔法に係わる推定人数を聞いていれば、これほど動揺する事も無かった。つまりは完全に自分の油断であると。


「今後はもうすこし慎重に事前情報を確かめる事にするわ」

「いえ、我々もコノハ殿がこちらの世界の事物に詳しくない事を考慮すべきでした」


 心配を掛けた事を詫びる呼葉に対し、アレクトールは自分達もフォローすべき本来の役割を果たせていなかったと謝罪する。

 遠征訓練で辺境の街を解放した際、呼葉は魔族軍の駐留部隊を凄まじい量の魔法の矢で殲滅して見せた。あの時は平気そうだったので、今回も大丈夫だと思っていたのだ。


「これからは移動中も座学の時間を増やしましょう」

「うう~……不本意だけど仕方ないわね」


 クレアデス解放軍が制圧した関所陣地内では、生き残った魔族軍の捕虜が集められ、呼葉の竜巻やその後の掃討戦で死んだ者達の遺体が片付けられていく。

 そんな中、街道脇で待機している聖女部隊の馬車隊では、行軍スケジュールにお勉強の時間を加えられた呼葉が呻いていた。




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