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遅れた救世主【聖女版】  作者: ヘロー天気
かいほうの章

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六十六話:街道上の戦い・前編




 バルダームの街を出発して最初の夜。クレアデス解放軍と聖女部隊は街道の両脇に野営陣地を張り、各々休息を取っていた。

 現在地は王都アガーシャとバルダームの街の中間辺りで、なだらかな草原が広がっている。


「見通しが良くて周囲がよく見えるけど、穴掘って伏兵するのにもいい場所よね?」

「そうですね……この辺りは地面も然程硬くないので、魔族の工兵なら簡単に壕を掘れます」

「一応、あちら(解放軍)さんが中隊規模の部隊を歩哨に出してるってよ」


 呼葉達は聖女部隊の馬車隊で囲った場所に天幕を張り、救国の六神官やクレイウッド参謀、パークス傭兵隊長にクラード元将軍等が集まって今後の活動などを話し合っていた。

 これまでの反省点とそれらの改善案など意見を求めるが、今のところ大きな失敗も無く、これといった問題も出ていないので、ほぼほぼ雑談に終始している。


 その内、話題は各人の待遇の善し悪しに及ぶ。

 六神官やクレイウッド、パークス達が特に不満は無いと告げるのに対して、クラード元将軍は部隊運用指揮という自身の役割に不満を抱いているようだ。

 戦闘部隊である聖女部隊に属しながら行軍補佐に特化して、肝心の戦闘を指揮させて貰えない。聖都の北門防衛隊で培ってきた用兵の采配を活かしたいと語るクラード元将軍だったが――


「クラードさんは指揮官に向いてない」

「何だと!」


「クラードさんは指揮官に向いてない」

「二度も言った!?」


「大事な事なので」等と素気無く言い渡した呼葉は、クラード元将軍の問題点を指摘する。


 行動の目標が明確に決まっている場合、そこへ至るまでの部隊運用は抜かりなくこなせるのに、何かイレギュラーな要素が交じると途端に選択を間違える。

 臨機応変な対応が出来ない。故に、実戦の指揮を任せられない。


「遠征訓練の時もそうだったけど、その前の第一防衛塔? 私がこっちに来た最初の日の出撃でもやらかしてたでしょ?」

「うぬぬ……しかし、それならば何故、私はこの部隊の一員に選ばれたのだ」


 クラード元将軍は、今まで疑問に思いながらも訊けなかった、自身の選定理由を問う。


「フォヴィス様が紹介してくれた人材の中で、一番使える人だったから?」


 咄嗟の判断を誤るので全隊の指揮を常時預ける事は出来ないが、型通りの行動を纏める能力は高いので、通常の行軍時にそれを発揮してもらえるよう重用していると答える呼葉。


「むむう……」


 そこまでキッパリはっきり言われてしまうと、返す言葉も無く唸るクラード元将軍。


「というか、私は初めから部隊運用を任せられる人材が欲しいってお願いしてたけど、フォヴィス様からは何も聞いてなかったの?」

「いや、私は北門防衛隊を外されてから新兵の訓練所に回されていたのだが、重要な任務に就きたいのならチャンスをやるとしか……」


 他の纏め役候補がどんな説明を受けて、またどんな思惑で遠征訓練に参加していたのかは分からないが、クラード元将軍は事前に求められる役割を説明されず候補者に選ばれていたようだ。


「まあ、それであれだけ的確な指示が出せるなら上等よね」

「むう……」


 戦闘が絡む非常事態以外では非常に優秀。間違った結論を出した時、それを却下したり即座に命令の上書きができる上司のもとでなら、有能な人材と言えた。


 そんなこんなと、呼葉達は聖女部隊内での話し合いと雑談を通じての親睦を深め合い、野営の夜は更けていった。



 翌朝。特に夜襲などもなく、早朝から野営陣地を畳んだクレアデス解放軍と聖女部隊は、出発の準備を整えていた。

 そこへ、まだ陽が昇りきらない内に先行していた偵察小隊から、魔族軍と思しき大部隊を発見したとの報告が届く。


 偵察小隊によると、相手の部隊はこちらとほぼ同数の大隊規模で、多少列は乱れているものの、横陣を維持した状態で進んで来ているらしい。


「陣形組んだまま移動するなんて、明らかにこっちの動きを意識してやがるよな?」

「会敵から間を置かず交戦状態に持ち込める事を分かっているようだ」


 パークスとクレイウッドが、魔族軍の様子からその狙いを推察する。移動中の解放軍・聖女部隊を待ち伏せではなく急襲するべく、攻めの姿勢を取っているのではないか、と。


「うーん……なんか違和感」

「コノハ殿?」

「コノハ嬢、何か気になる事でも?」


 唸って考え込む呼葉に、アレクトールとザナムが声を掛ける。呼葉は、違和感と共に思い浮かんだ疑問を口にする。


「向こうの数はこっちとほぼ同数なのよね?」

「ええ、そう聞いています」

「この先に展開しているのが、偵察小隊が見つけた部隊一つとは限りませんが」


 陣形を維持したまま移動している部隊の後方に、更なる部隊が迫っている可能性も、当然あるとザナムは語る。


「私たちの情報はある程度向こうにも伝わってる筈よね? こんな開けた場所で同数程度の部隊を正面からぶつけたりするものかな? 陽動?」


 呼葉の疑問を聞いたクレイウッドやパークスは、言われてみればと考え込む。


「ふむ……接近中の部隊に何か特殊な要素があるのか、或いは別動隊が複数動いているのか」

「正面の部隊に引き付けている間に包囲するってか? この見通しのいい平原で?」


「遠征訓練の時に100倍近い戦力差に圧勝した事実が伝わっているなら、同規模の部隊を迎撃に向かわせるというのは……」

「確かに、無理がありますね」


 アレクトールとザナムも、呼葉の感じた違和感を理解して魔族軍の思惑を測ろうとする。


「実は特に深い理由なんて無いんじゃないか?」

「敵側の内部で我々の情報が正確に伝わっていない可能性もある」


 その内ソルブライトやクラード元将軍も交じってあれこれ考えてみるが、しっくり来る答えは浮かばなかった。


「ロイエン君達はどう判断してるのか聞いてみよう」

「では、解放軍の指揮部隊に向かいましょう」


 このまま戦うにせよ、少し様子を見るにせよ、クレアデス解放軍との意見のすり合わせは必要だ。呼葉は聖女部隊の準備をクラード元将軍に任せて、ロイエン達のもとへ急ぐのだった。



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