六十二話:カルマール制圧
カルマールの街に強襲を仕掛けたクレアデス解放軍。呼葉の先制で街門を吹き飛ばし、先行する騎馬隊に続いて歩兵部隊も街の中へと突入を果たした。
聖女部隊の呼葉達はまだ街の中に入らず、未だ煙の燻る残骸となった街門跡で待機している。同じく街門跡の前で聖女部隊と並んで待機しているロイエン達指揮部隊のところへは、突入した騎馬隊や歩兵部隊からの伝令が引っ切り無しにやって来ては戦況を伝えていく。
「東区と南区の制圧完了!」
「敵軍は西門から撤退を始めた模様! 中央の行政館はもぬけの殻です!」
「行政館の地下を調べよ。収容所の様子はどうか?」
「今のところ、我が方の捕虜は見当たりません! 西区の農地周辺に元街の住人らしき労働者が確認されています!」
総指揮ロイエンの隣で、一歩前に出て指示を飛ばしているグラドフ将軍。
そんな将軍と伝令達のやりとりを横目に、呼葉は聖女部隊の幹部を集めて会議を開く。敵軍が早々に撤退したので、司令部を探りに出ていたシドも戻っている。
六神官とクレイウッド参謀にパークス傭兵隊長、それにクラード元将軍も交えて話し合う。
「西門から撤退って事は、メルオースに向かうのかな?」
「だろうなぁ。だが、東のバルダームにも連絡くらいは入れてる筈だぜ」
「カルマールの陥落は必至ですから、恐らく魔族軍側はメルオースとバルダームで連携してくるでしょう」
呼葉の問いに、パークスとクレイウッドが今後の流れも読みつつ応える。
メルオースに撤退する魔族軍を追う形でカルマールを空けると、バルダームからカルマールを奪還せんと魔族軍部隊が進軍してくるかもしれない。
攻める側にとって、互いを補うように絶妙な距離で配置された三つの街の厄介なところである。
「なら、メルオースには解放軍の本隊を向かわせて、バルダームには私達が仕掛けましょうか」
「我々だけで陥落させるのは、流石に無理があると思いますが……」
辺境の街の時とは状況が違う。呼葉の提案にアレクトール達が懸念を示すが、呼葉は別に落としに行くわけではないからと説明する。
「ロイエン君達がメルオースを制圧してバルダームに来るまで、私達で足止めをするんだよ」
街の近くに布陣して睨みを利かせ、打って出て来るなら殲滅。護りに徹したならばロイエン達と合流してから普通に攻めるという作戦案。
実質、同時に攻めるのと変わりないが、小隊規模の少数部隊で街一つを相手取るなど、呼葉のような規格外の力を持つ聖女部隊でなければ出来ない。
早速ロイエン達に相談してグラドフ将軍からも賛同を得た呼葉は、カルマールの制圧が済み次第、出撃する事となった。
それから間もなく、カルマールの制圧が完了した。味方の損耗は軽微。
聖女の祝福効果により、今まで勝てなかった強敵である魔族軍兵士を、格下の如く余裕をもって打ち倒せる状況に、兵士達の士気は上がりっ放しである。
しかしその一方で、超強化の全能感に興奮してタガの外れた一部の兵士達が、独断専行に無理な深追いをして手痛い反撃を受けるという、祝福の弊害と統率力の甘さも露呈した。
「まあ、事前に祝福状態での訓練とかも無しで、ほとんどぶっつけ本番みたいなもんだからね」
舞い上がる兵士が居ても仕方がない。呼葉は、クレアデス解放軍の指揮の乱れについては想定の範囲内であると理解を示す。恐縮するロイエン総指揮とグラドフ将軍。
「では、我々は直ぐにメルオース攻略に取り掛かろう」
「分かりました。私達もバルダームの牽制に出ますね」
出撃準備に向かおうとするグラドフ将軍に、呼葉も応じて席を立つ。その時、ロイエンが素朴な疑問を口にした。
「聖女様の祝福は、それほど遠くまで届くのですか?」
三つの街はそれぞれが一キロ近い距離を置いて三角形を象るように配置されている。
カルマールにも守備兵を残して行くとして、聖女部隊がバルダームに向かった場合、かなりの広範囲を祝福で覆わなければならないのではないかと気にするが、呼葉は首を振って答える。
「詳細は省くけど、私の祝福は対象選択式だから、距離は関係ないみたいよ?」
どこからどこまで届くというタイプではなく、誰を対象にするのかというピンポイントながら、特定の相手を明確に認識していなくても届く、割と大雑把な加護なので、距離の心配はない。
クレアデス解放軍は全軍を一度祝福対象にしているので、祝福が続くよう意識していれば、そうそう外れる事は無いのだ。
実は、今も辺境の街では、食料調達係りの狩人など一部の住民に祝福効果が続いていたりする。この辺りの情報は、聖女の力を敵対勢力に分析されない為にも、あまり公にするつもりはない。
ともあれ、すっかり夜の帳も下りた刻。クレアデス解放軍と聖女部隊は、予定通り翌朝までに残り二つの街を解放するべく、カルマールの街を出撃するのだった。




