なんで平凡な僕が学校1の美少女と恋人になることができたんだろう
夏休み明けの教室も相変わらず賑やか───いや、いつにも増して騒がしい。でも、それは仕方が無いことかも知れない。だって学校1の美少女『氷沢 陽毬』に恋人ができたんだから。
そしてクラスメイトはその意中の相手を聞くのに必死の様子だ。
しかし、陽毬さんは頑なに答えようとしない。だって僕が恋人を聞かれても答えないようにお願いしたからだ。なぜって───
僕が学校1の美少女の恋人になってしまったからだ
* * * * *
それはいつもと変わらない7月の中旬、蒸し暑い中駅のホームで電車を待っていた。スマホに目を落としながら待っていると爽やかな香りが漂ってきて右に軽く目を移す。
「おはよう。今日も暑いから、熱中症に気をつけたほうがいいよ」
「おはよう」
淡白ながらも凛とした声でその返事が返ってきた。横に立っている美少女は氷沢さん。基本的に寡黙ながらもいつもクラスの中心にいる。
「きみも気をつけてね」
そんな僕は休み時間はクラスの隅っこで本を読んで日陰にいるタイプだ。こんな僕でも何の因果か氷沢さんと家が近所らしくいつも同じ電車に乗っていて世間話程度の会話をするようになった。
しかし顔見知り以上の発展はなく僕も友達ましてや恋人になれるわけないと思ってる。
それを機に会話は途絶えたままホームの喧騒に耳を傾けたまましばらく待っていると、いつのまにかプシューと音を鳴らしながら電車の扉が開いていた。少し乗り遅れたせいで多少後ろから押されながらも人の流れに乗って入っていく。
今日は心なしか人が多く周りの人と密着して暑苦しい。扉が閉まり電車が徐々にスピードに乗り揺れながら走っていく。
しばらく人の波に揺れながらぼーっとしていると嫌な匂いが鼻につく。僕と同程度の背丈をした40代ぐらいのおじさんが右前にいた。その近くに顔を俯けながら立っている氷沢さんがいる。やや下に目を向けると氷沢さんの履いているスカートが目に入る。
こんなにスカート短かったっけと思いながらその違いに気づく自分に少し自己嫌悪した。そしてすぐに顔を上げようとしたら氷沢さんと目が合った。もしかして見てたのがバレたのかと思ったがそれは杞憂だったらしい。
それと同時に違和感に気づく。おじさんの手がモゾモゾと動いている。
「あ、あの! すみません!」
咄嗟に出た言葉だった。
「あ?」
ドスの効いた声に思わず怯んでしまい、足がすくんでしまった。
その瞬間駅につき扉が開く。そして誰かに手を引かれ千鳥足になりながらも駅のホームに出た。扉からはおじさんは出てこず電車が通り過ぎて行き一息つくとはっと顔を上げた。氷沢さんが僕の腕を握っていた。
「氷沢さん大丈夫だった?」
「何が?」
「え?痴漢されてなかったの?」
「あぁ、いやされてたよ。少しうかれてたみたい。きみが助けてくれたおかげで難を逃れたよ。ありがとう」
「それはよかっ……
「ところでさこれってきみは私の恩人ってことになるよね」
「別にそんなことどうでもいいけど」
「私の恩人だからさ陽毬って呼んでよ」
「僕の話聞いてる?まぁいいけど……」
その日はそのまま遅刻しながらも学校に行き、お礼がしたいからと連絡先を交換した。
それからは次第に会話や徐々に一緒遊ぶ機会が増えていき友達と呼べる仲までに発展したと思う。いつの間にか夏休みに入り、その中の花火大会で僕は玉砕覚悟で氷沢さんに告白をした。そしたら、まさかの『私もきみのことがずっと好きだった』と言ってくれた。
僕は有頂天になりこの夏はさ最高の思い出になった。これからも氷沢さんといろんな思い出を作りたい――
「『好きです!僕と付き合ってください! 』あぁ何回聞いても飽きないなーふふっ。ほんとどうやって恋人になろうかと思ってたけど勇気を出して助けてくれてとてもとても可愛かったなー。思い出しただけでにやけちゃう。だめだめあの子の前では凛とした私じゃないと」
私が君のことを好きになったきっかけは誰もいない放課後の教室で枯れかけていた花に水をあげている姿がとても健気で見惚れててそれからは
誰も見向きもしないゴミを拾ってゴミ箱に捨てたり、
子供を交番に届けたり、
捨てられた子犬を愛でている姿を観察してどうしようもなく私の
ものにしたくなっちゃった。
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと大好きだった――
そしてようやく念願の恋人になることができたんだよね
だからこれからもずっときみのそばに――