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加工  作者: 南ゆう
1/1

ある山奥にて

加工ばかりの現代だ。くだらない。

素の味を楽しもうとする人はとても少ない。

どうにかこうにか付け足して、さも苦労しているかのように見せかける。


私はとある県にある非常に美しいと名高い場所に行った。

その場所は常に絵画のようだと評されており、若者なら知らぬものはない、誰もが行きたがる場所。

それもそのはずだ。

写真に映るその景色はまさに桃源郷。

高速道路を降りて数時間、片田舎のさらに奥に潜む、最後の楽園の楽園のようだった。

甘い香りに惹かれるように私も虜になっていた。

実際にその場所は遠かった。

信号のない曲がりくねった道をいつまで走るのかとせき立てられつつ、ともかく前へ進んだ。

途中には記憶に全くないものの、懐かしいと感じさせる民家が並んでいた。

ようやく目的地を示す看板が見えたと思ったら、その場所から数キロ先だと示されており、このまま目的地ではなく家まで帰ってやろうかとすら感じた。

すべては桃源郷を見るために、そのために車を先に走らせた。


ついた場所は桃源郷でもなんでもなかった。

でかでかと掲げられた看板に、ここが目的地だと示されているからわかるものの、最初は通り過ぎようとしていた。

だだっ広い駐車場が点々とつくられており、中にはコンクリートすら打つ暇もないような場所すらあった。

大型のバスが何台も停まっており、何もないこの場所にたくさんの人がおり、有名な池を見ようと人が群れをなしていた。


祭りのような人混みに流されながら、ついに辿り着いた夢の場所。


ん?


ここが、かの有名な場所なのか。

100人ほどが手を繋ぎ、円を成したならば一周することは容易なほどの小さな池。

蓮や鯉と言った特徴的なものはあるが、どこにでもある灌漑用の池。

その程度の感想だった。

むしろその横にある、小高い山の上にある神社の方が崇高な光を放っているように思えた。


たくさんの人がするように、私も写真を撮った。

構図を考え、人の気持ちを理解し得ない鯉たちが何匹も入るようにする。

写真の色は全て燻んでいた。

鯉も、蓮も、水の色さえも望んでいた色とは異なっている。

若者たちは、スマホを片手に何やら忙しそうにしている。

加工していたのだ。

あまりにも荒んだこの場所に諦めをつけ、自らの理想に近づけようとした結果加工せざるを得ないのだ。

そして、友人たちにこんな良い場所に行ったと自慢するために。

誰しもが行きたがる場所の現実を見た気がした。

なるほどたしかに考えると人と池が映ったものをひとつたりとも見たことがない。

過度な加工によって彩られた写真は、景色には色彩を与えられても人間には不気味さしか与えられない。


試しに私も加工してみた。

スマホの中には清々しいほどの青に身を流す鯉の姿が映し出された。


その場所は未だかつて、人の集まるような場所ではなかった。人がこの地に住み始めて数千年、誰も見向きもしない土地だった。

せいぜいあるのは道と小さな集落だけで、特筆すべき点のない、どこにでもある場所だった。

そんな場所が情報化社会の現代で、あらゆる加工を施した上で世に放たれ、多くの喜びを持って受け入れられたのがこの場所だ。

降って湧いたような話に住民は困惑しつつも乗り気になるだろう。

そのうち入場料を取り出して市政を潤す大きな財源になる。

そうして、誰にとってもなくてはならない場所になっていく。

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