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第3話

「うん、お味噌もあるし、缶詰も。今日は、あるもので作れそうです」


「了解! 楽しみ〜! 今日は居間にいるからさ、何かわからないことがあったら言ってね! 私、キッチン出禁になってるから、手伝えなくてごめんね!」


「出禁……?」


「ちょっとね、やらかしてさ……」


 遠い目をする、キョーコ。


 ピィ……。


 なんだか大家さんの顔色も、どよんとしている。




 くい、くい。


 何かを思いついたように、大家さんが、リカの袖を引っ張ってきた。


「あ、お野菜ですよね。あればで大丈夫なのですが、玉ねぎと、大根と、にんじんと、白菜、あとえのきかしめじはありますか?」


 あ、きのこって畑じゃないわよね……。と思ったけれど、大家さんは大きく頷いて、勝手口から出ていった。

 その背中に任せておけと書いてある気がしたので、きっとあるのだろう。


「あ、お茶淹れるね! これだけは許されてるの私!」


 本当に、キッチンで何があったのだろう。もう少し仲良くなれたら、聞いてみよう。


「あ、ありがとうございます。じゃあお茶をいただいたら、準備しますね。エプロン、お借りできますか?」


「おっけー!」


 あったかいほうじ茶にほっと一息ついていると、勝手口の仕切り窓から野菜が転がり入ってきた。


 たまねぎ、にんじん、それに白菜。あ、大根。最後は黄色い……大家さんだった。

 大事そうにしめじを抱えながら、よっこいどっこい入ってきた。


「ありがとうございます!」


 かけよって、野菜を台所に運ぶ。


 エプロンを借りて、調理道具の場所を聞いた。


「よし」


 土鍋に洗ったお米を入れる。


 野菜は洗って、最初にまとめて切ってしまおう。


 おあげは油抜きをして、きざみにする。


 鰹節があったから、お茶用の不織布パックに入れて、お鍋にポン。


 出汁が出たら、野菜をいれて、ゆっくり煮て……。


 ああ楽しいな。


 忙しい日々にひとりだと、お料理の楽しさも忘れていたのだなぁ……。


 ………………………………。


 ……………………。


 …………。


「いいにおーい!」


 ピィ。


「あ、あとは食べる前の仕上げだけです。他の皆さんは、いつ頃お戻りでしょうか……?」


「んー。そろそろじゃないかな? ふたりとも」


 キョーコがスマホを取り出すと同時に、玄関の方で扉の開く音がした。


「ただいまー」


「っす」


「あ、お邪魔しております、嘉洋梨花です!」


 居間に入ってきた男性2人組に、頭を下げて挨拶する。


「本日のお料理を担当させていただきました!」


「わー! 可愛いお客様だねぇ」


 明るい色の長い髪をひとつにまとめたお兄さん。

 年齢はよくわからない。

 ギター? かな? 楽器の入れ物を持っているから、この人が音楽担当かもしれない。


「仙道です。よろしく」


「いつみっす。五味って書いて、いつみ」


 もうひとりは、若い青年だった。

 黒髪ショートの前髪は長くて、言葉少なそうな雰囲気に勝手に共感を覚える。

 でもよく見たらとっても背が高くてスタイルが良くて、服装もオシャレすぎた。

 さっき覚えた共感は、淡雪のようにとけて消えた。


「わぁ、美味しそう! ありがとう。疲れたでしょうに。手を洗ってくるね」


 と、仙道さん。


「あったかいご飯、楽しみにしてたんで。嬉しいっす」


 と、五味さん。


 ふたりとも、優しそうでよかった。






「どうぞ。土鍋ご飯のきつね丼と、たっぷりお野菜と鯖水煮缶のお味噌汁です。あ、あと白菜の浅漬けを添えてます」


 しぃん。


「あ、何かお嫌いなものがありましたか?」


 やっぱりひよこさんに卵料理を出すなんて引かれてしまったのだろうか。でも冷蔵庫にあったし。


「ち、ちがうの、嬉しすぎて……まともなご飯……」


 ピィ!


「お出汁の匂い……いい……!」


「めっちゃ嬉しいっす。ありがとうございます」


 あ、よかった。喜んでもらえていたのだ。






「おいしぃい〜! きつね丼って美味しいのね! お揚げに煮汁が染みてる〜。卵もとろっとろ! トッピングに糸唐辛子って、珍しいわね」


 ピィ。


「以前のお料理担当の方が、いろいろと置いていってくださってたので。私、丼ものにも三つ葉のかわりに時々使うんです」


「鯖缶のお味噌汁は初めてだよ。美味しいね」


 ピィピィ。


「はい、私これがとっても好きで。具沢山にしてみました」


「白菜も良い感じに浸かってて、うまいっす」


 ピィピィピィ!


「あ、ありがとうございます。お口にあってよかったです」


  




「ごちそうさま〜!」


「ごちそうさまでした。後片付けは僕らに任せてね」


「ごちそうさまっす」


「あ、ありがとうございます! お粗末さまでした」


「お風呂にお湯張ってくるよ〜」


 といいながら廊下の先に出たキョーコが、走って戻ってくる音がきこえた。


「ねぇ、部屋が増えてるよ!」



  



「わぁ!」


 廊下の先には、いくつかの扉が並んでいた。

 案内された部屋の雰囲気は、大好きだったおばあちゃんの家にとても似ていて、嬉しくなる。


「見ても良いかな?」


「はい、どうぞ!」


「ああ、和室なんだね。うん、なんだか落ち着くね」


「懐かしい感じっすね」


「おばあちゃん家ににてます。大好きだった家……嬉しい。私、本当にここに住んでも良いのでしょうか」


「何いってるの! ここはリカちゃんのための部屋なのよ〜!」


 ピィ。


「この家に、住人として認められたって事だねぇ」


 ピィピィ。


「よかったっす。明日からも美味いご飯お願いします」


 ピィピィピィ!


「とりあえず予備の布団と私のパジャマ、部屋に運ぶね。今日はお風呂入って、ゆっくり寝たら良いよ!」


 部屋を出て行こうとしたキョーコさんが振り返って、とびきりの笑顔をくれた。


「あ、そうだ。いい忘れてた。ひよこ荘へようこそ!」


「歓迎するよ」


「よろしくっす」


 ピィピィピィ!


「あっ。本日からお世話になります! どうぞ、よろしくお願いいたします!」

お付き合いいただき、ありがとうございました!


ここで一旦、完結いたします。


そのうちシリーズとして続きを書きたいな。書けたら良いな。というラストにしてます。


気に入っていただけたら、☆評価、いいねなどいただけると喜びます!


よろしくお願いいたします!

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