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色眼鏡屋さん

作者: 村崎羯諦

「確かにこれだけ偏見が強いと、色眼鏡をかけた方がいいですね」


 この前行った価値観の健康診断に引っかかった俺に対して、色眼鏡屋の店主が眉をひそめながら伝えてくる。いまいちよくわからず困惑していたところ、店主は医者から渡された診断書をもとに詳しい説明を行ってくれる。


「価値観の健康診断というのは、一般的な人間と比較して、価値観や考え方が偏っていないかを調べるものです。診断で数値に引っかかった場合、色眼鏡をかけて偏った価値観を矯正することが推奨されてます。例えばそうですね……田中さんは、クラブではしゃぐ若者についてどう思います?」

「彼らは騒いだり、群れたりすることでしか自己表現できない低レベルな人間で、周囲への迷惑なんて考えない自己中心的な愚かな存在だと思ってます。そもそも、若者全体が昔の我々世代と比べて、バカになってると思いますね」

「では、試しにこの色眼鏡をかけてみてください」


 俺は店主に言われるがまま、手渡されたメガネをかける。


「田中さん、もう一度クラブではしゃぐ若者についてご意見をお聞きできないでしょうか?」

「はい。クラブは若者文化であり、彼らなりの一種のコミュニケーションだと思います。確かに騒音といった問題はありますが、それはクラブ側の防音設備の問題であり、そこに集まる個々人は決められたルールのもとで楽しんでいるだけです。最近の若者は意外ときちんとしていますし、昔とは求められる能力やスキルが変わっているので、我々世代の価値観や尺度を当てはめようとすること自体がナンセンスなのかもしれません」


 自分で自分の言葉に驚き、俺は慌ててかけていたメガネを外す。すると、店主は笑いながら、色眼鏡の仕組みについて簡単に教えてくれた。なんでも、偏見や差別は一種の電波らしく、色眼鏡からその人が持っている偏見や差別とは逆位相の電波を出すことによって、上手い具合に両者を打ち消し合い、中立的な考え方へと戻しているらしい。


「職業によっては、価値観の健康診断を定期的に受け、数値に異常が見つかった場合には、業務中に必ずこの色眼鏡を装着することが義務付けられてたりします。例えば、中立性が求められる裁判官や記者とかが代表的ですね。最近はコンタクトレンズもあるので、誰が色眼鏡をかけているのかはなかなかわかりづらいですが」


 それから店主は俺の目をじっと見つめて言葉を続ける。


「思想の統制だと非難されることも多いんですが、やはり、考え方があまりにも偏っていると、その人自身が生きづらくなってしまうんですよね。考え方のせいで、周りと軋轢が生まれたり、余計なストレスを抱えてしまいますから。もちろん全てとは言い切れませんが、極端に偏った思想は間違っていることが多いですし、結局自分も周りも不幸にしてしまうくらいだったら、もっと中立的な考えへ矯正するというのも個人的には悪くない判断だと思います。どうでしょう? 購入を検討してみませんか?」


 店主がそう提案してきたが、俺はそれを断った。


 なぜなら、このような胡散臭い商売をしている奴は大体、相手のためにと言いつつ、結局は自分の金儲けしか考えていないからだ。目の前の店主や診断を行った医者を含め、そういう奴は全員死ねばいいのにと思う。

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