仇と恩
薫「…また、ベッドか」
俺は目を覚ますといつの間にか倒れてしまったことに気づく、今回は頭に包帯が巻かれていることから、頭をぶつけたのだろう
カナン「あ、目を覚ましたんですね!」
薫「悪いなカナン、また迷惑をかけてしまったな」
カナン「いいんですよ、ここに入れるのは龍さんとその友達である、薫さんのおかげなんですから」
薫「お兄さんはいつ来るって?」
カナン「長くて三ヶ月、早くて来月らしいです」
正直、彼とは会いたくはない
彼は親が殺されたのは俺がきっかけだとわかっているからだ、二度とあんな怖い顔は見たくない
薫「そうか、なら帰ってくるまではゆっくりしておくとしよう」
カナン「薫さん、頭打っているのに動いたらダメですよ!」
薫「大丈夫だ、今は問題ない」
カナン「無理はしないでくださいね」
ベッドから離れると、俺の腹から大きな音がなる
カナンの方向を見ると目を逸らしながら、クスクスと笑ってる
薫「カナン、君は今日ご飯は食べたか?」
カナン「そういえば私もまだでした」
薫「君こそ無茶をしているじゃないか」
カナン「薫さんほどではありません」
薫「無茶に程度なんてないから、それで何か食べたいものはあるか?」
カナン「料理できるのですか?」
薫「もちろんだ、男も家事をする時代だからな」
カナン「じゃあ、この法具を使って料理しましょう」
薫「おう!」
カナンは円盤が書かれている紙を俺に渡す
その紙をどう使えばいいのかわからず、しばらく眺める
カナン「わからないのですか?」
薫「待てよ、使い方が分かりそうだからもう少し考えさせてくれ」
彼女から見て今の俺は、とんでもない顔をしているだろう。考えれば考えるほど視線がだんだん斜めになっている、というより変な顔で大きく斜めになっているからだろう。
カナンは俺から紙を取り上げ、台座の上に紙を敷いてフライパンを紙の上にそのまま乗せる
薫「これで料理ができるのか?」
カナン「この世界の調理器具は魔法でできているんです」
薫「でも、『マリョク適正』って言うんだったか? それがなければ俺たちは魔法は使えないんだよな?」
カナン「はい、適正のない私たちには魔法は使えません、しかし、この世界から魔力が発生していて、自然から搾取できるんですよ」
薫「自然のマリョクを搾取だって? けど、どうやって?」
カナン「はい、自然から魔力を搾取なんてことは最初は無理だったんです、しかし、50年前に亡くなった天才魔法学者によって自然から搾取できるようになったんです」
薫「それがこの紙ってことか?」
カナン「いいえ、それはただの結陣が書かれた魔法陣です、それだけなら魔法を使える人にしか使えないし、使えたとしても体力を使ってしまう」
薫「それじゃあ、どれがその天才魔法学者が発明した法具って言うんだ?」
カナンは台座に指を指す
正直、俺はただの台座にしか見えないボタンも設置されていない
薫「なあ、これどうやって使うんだ?」
カナン「そうでしたね、最後に安全装置を取り付けることで利用することができます」
小さな紙を側面に貼り付ける
すると台座に乗せてあるフライパンから熱を感じる
薫「へぇ、この紙で安全に料理ができるってことなのか」
カナン「そうです、この法具は料理だけじゃなく他にも照明や水道としても活躍しているんですよ」
薫「だから、屋内でもこんなにも明るいのか」
カナン「そういうことです、ところで薫さんは何を作るんですか?」
薫「今日は、俺が好きだったシチューかな」
シチューの材料は揃っている、残りは下処理をして料理をするだけだ
三十分をかけてシチューが出来上がる
薫「…できたぞ」
カナン「本当に料理が得意なんですね」
意外そうな顔をするな、俺に家事をとったらなんの取り柄もない影の薄い男だぞ!
地味顔な俺が取り柄すらなくしたら生きていけないぞ、しまいには俺泣いちゃうぞ!
カナン「…どうしたのですか、変な顔をして?」
薫「…いや、なんでもない早く食べようぜ」
カナン「はい、早く食べないとさめてしまいますもんね」
俺とカナンは手を合わせ、「いただきます」と挨拶をすませ一口運ばせる
薫(…いつも通りの味だ)
俺としては味に問題ないと思っている、けど個人で作ったものであり他人には関係はない、評価は個人ではなくその他人が決めてこそ意味があるのだ
薫「どうよ、俺が作ったシチューは?」
カナン「…」
薫「わ、悪い! おいしくなかったか!?」
カナンは泣いていた、カナンにとっておいしくなかったと考えると動揺は隠しきれなかった、しかし、カナンは何も喋らないが首を大きく横に振った
カナン「いいえ、とてもおいしいです」
薫「じゃあ、なんで?」
カナン「私のシチューに似ているんです」
薫「そうか、口にあったようでよかったよ」
カナン「ええ、とても美味しくて優しい味です」
薫「お姉さんから、料理をよく教わっていたんだ」
カナン「こんな味を作れるあなたはひどい人じゃない」
カナンは俺のことを過大評価し過ぎている、俺は大切な人を何度も何度も奪った
『あなたはとてもいい子よ』
思い出すたびにお姉さんの言葉が蘇る
薫「…カナン、何度も言うが俺は」
??「こいつは非道を絵に描いた様な外道だ」
いつのまにかおれの後ろに誰かが立っている、急いで振り向こうとした時、後ろにいる人が俺の首をしめる
薫「だ…れ?」
首を強く掴まれているせいで、うまく声が出せない
後ろを振り向いて確認することができない
??「俺の名前を忘れるとはいい度胸しているよ、島原薫」
カナン「な*でこ*に**の!?」
呼吸ができないからか音も濁った様に聞こえて、目の前が歪んできてそしてかすみ始めた
もう死んでもいいや、誰から殺されても本望だ、彼女の目の前にいるのは肉親を殺した敵だ
『明月流剣術・一の舞・桜前線』
この言葉が横にあるリビングからなにか聞こえたと思えば首の絞まりが解ける
カナン「薫さん、大丈夫ですか!?」
薫「…っけほ、だ、いじょうぶだ」
呼吸ができていなかったせいか咳が出る
目の前には龍が立っている
龍「カナン、薫を頼む」
カナン「は、はい!」
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龍「せっかく薫が作ってくれたシチューが溢れて、床はシチュー塗れ」
??「何の真似だ?」
龍「お前を外に追い出すために家の壁が壊れた、不幸でしかない」
龍「それに今日はシチューだったってことは、俺の大好物を買いそびれたってことじゃないか!」
??「なんの話だ?」
龍「というかお前こそ何してんだ、アーサー!」
アーサー「あいつは俺達兄妹とお前の仇だぞ」
龍「違う、あいつは両親の仇でもなんでもない、俺の家族だ!」




