8,立ち直り
ちょっと長め
遠くで聞こえたモンスターの鳴き声に、ビクッとして起きる。
ため息をついた。
ずっとこの調子だ。
木の葉のこすれる音に怖がっては跳ね起きる。
精神が削られていくような感覚。
調べてようやくわかったことだが、どうやら自分の魔力量も鑑定で調べられるらしい。
思ったよりも鑑定は使えるのかもしれない。落ち着くことができたら色々と調べてみよう。
取りあえず、魔力を調べると、全体の半分ほどが回復したようだ。
気配察知のレベルこそ上がっていないものの、少しモンスターに見つかりにくくなっている気がする。
それでもしょっちゅう気付かれ、場所を移動せざるを得なくなるのだが。
お陰で休んでいる余裕なんてなく、だいぶ精神的に来るものがあった。
極めつけは、食料と水の不足だ。
結構本気で目を凝らして探しているものの、一切水も食べ物も見つからない。
そろそろ、モンスターを倒して食べるしか方法がないのではないかと思い始めている。
出来れば戦闘はしたくなかったし、食べれるのかどうかも分からない。
だが、そろそろ喉の渇きも、飢えも限界に近い。
これ以上致命的なミスをやらかす前に、何かしら手を打たないと、本当に手遅れになる――――。
***
魔力が全回復した。
少し意識が朦朧としてきた。
やるしかない。モンスターを殺して、食べる。
あのグロいフォルムに、四の五の言っていられる状況でもない。
全力で気配隠蔽と魔力遮断を使いながら、地面に跳び下りる。
そして、着地と同時に剣を前に突き出しながら前方に駆ける。
こちらに気付いたカバが、剣から避けようとするが、もう遅い――――――!
俺のAGIとSTR、そして剣の性能を信じ、カバの皮膚に剣を突き立て―――。
ガキィィン!という、およそ皮膚から鳴るとは思えない音が響いた。
だが、入った。
途轍もなく硬い金属に剣を突き立てているような感触。肩が、外れる感覚がした。
くぐもった悲鳴が、俺の食いしばった歯の間に消えた。剣は、絶対に手放さない。
弾かれそうな硬さ、だが。剣の先が、僅かにカバの皮膚を食い破った。
「ガアアァァアアアアアアアアアアアアアアアァアア!!」
痛みにカバが悲鳴を上げ、我武者羅に動こうとするが、もう遅い。
紅く脈動する剣が、カバから吸う。
血と、魔力を。
見る見るうちに抵抗が弱くなっていくカバの眼が、こちらを見た。
ゾッとした。
深い、深い憎悪と、何処までも純粋な殺意。
今まさに死へと向かっているその目は、それしか映していなかった。
その目に、怖気が走る。
だから。
―――――あぁ。お前がそのつもりなら、俺だってそうしてやる。
睨み返す。
絶対に、生き残ってやる。
骨を食らって、泥を啜ってでも。
この森は、弱肉強食。
強いものが生き残り、弱いものが消えゆく。
それが、全てだ。
<スマトートを殺害しました>
<レベルが上がりました>
<メインジョブ《晦冥》がクラスチェンジ可能になりました>
<セカンドジョブ《影魔術師》がクラスチェンジ可能になりました>
<サードジョブ《愚者》がクラスチェンジ可能になりました>
***
カバの死体を持って、木へ登る。
カバの魔力と血を全て吸った剣で、カバの皮膚を剥ぐ。
剣の柄に嵌められた赤い宝石は、気のせいか以前よりもその紅さを増しているような気がする。
不格好ではあるが、一口サイズに切り落としたカバの肉を目の前に持ってくる。
血は、ない。
鑑定で、毒がないことは分かった。
味は、わからないが。
「……いただきます」
覚悟を決めて、黒いそれを口に運ぶ。
恐ろしく硬い肉を、何とか嚙みちぎり、呑みこむ。
ゴムの味がした。
「ッ!――――っぁぐぅっ!」
胃が、脳が、全てが肉を寄せ付けない。鳥肌が全身に広がる。
吐き気が込み上げてくる。
が、絶対に、吐かない。
不味いとか、そんな悠長なことを言っていられる場所じゃないのだ。生き残ることが全て。
水がないのがつらい。
「血って、飲めるのか……?」
飲めるのなら。次は、剣が血を吸いきる前に抜いておこうか。
そんなことを思う。
少しでも気を紛らわせるため、ステータスを見る。
丁度、レベルも上がった。
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名前:
種族:デメテルの使徒
メインジョブ:晦冥☆
セカンドジョブ:影魔術師☆
サードジョブ:愚者☆
レベル:600(MAX)
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SP:149(↑120)
武器スキル:
武具-----------
‣暗器Lv9
‣杖Lv1
‣剣Lv9
魔法スキル:
自衛-----------
‣闇魔法Lv9
‣光魔法Lv5
‣影魔法Lv9
回復-----------
‣二重息吹Lv9
‣光魔法Lv10
特殊スキル:
自衛-----------
‣暗殺Lv7
‣護身術Lv9
技能-----------
‣気配隠蔽 Lv10☆
‣気配察知 Lv9
‣魔力遮蔽 Lv8
‣魔力感知 Lv2
‣魔力操作 Lv8
‣潜影 Lv9
‣淘汰 Lv9
‣不眠 Lv1
ユニークスキル:
‣貪欲ナル異端者 La 2
‣鑑定 La 2
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EP:60
基礎値-------
STR;10
ATK;7
VIT;4
DEF;1
INT;6
RES;1
DEX;7
AGI;10
LUC;2
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まずは職業。
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《晦冥》のクラスチェンジ先
‣戦黯
‣幽冥
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相変わらず可笑しいレベルの上がり方をする。
少し迷う。
そこで思い出した。鑑定を使うか。最近、鑑定の便利さに気付いた。
パッシブで知識が入るので、あんまり自分で使うことがなかったが、詳しく情報が知れるので、出来るだけ使っていこう。
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戦黯:
戦え。潜め。闇を愛せ、争いを愛せ。果て無き闘争の果てに、汝が望むものは在る。
効 : 隠密にかかわるスキル、戦闘にかかわるスキルの効果を25%上昇。
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《幽冥》:
死を恐れないで。死を憎まないで。愛すべき隣人は、貴方の傍へ。
効 : 隠密にかかわるスキルの効果を25%上昇。
死に近づくほど、全能力上昇。
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「うーん……」
迷う。戦う力は欲しい。隠れているだけでは、いずれ手詰まりになるだろうから。
だが、それは完全に隠れられるようになってからにしたい。
まずは、完全な隠密の力が欲しい。
隠密は、どちらも同じ上昇幅か。
悩んだ結果、幽冥を選んだ。
どうせこれからも何度も死にかけるのだろうから。
<メインジョブを《幽冥》にクラスチェンジしました>
次はセカンドジョブだ。
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《影魔術師》のクラスチェンジ先
‣影魔術師
‣影付
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「ん?」
影魔術師から、影魔術師になるルートがある。
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《影魔術師》:
汝は影なり。
効 : 隠密にかかわるスキルの効果を75%上昇。
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《影付》:
大切な人を守るために、影となり支えることを選ぶのでしょう。
効 : ジョブスキル《影支援》を獲得する。
隠密にかかわるスキルの効果を15%上昇。
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これは……。
どういうことだろうか。試しに、今の影魔術師の鑑定をする。
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《影魔術師》:
汝は影なり。
効 : 隠密にかかわるスキルの効果を50%上昇。
ジョブスキル《影魔法》を獲得する。
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成程。
どうやら、同じジョブだと、純粋に効果が上がるようだ。
今の影魔術師が50%上昇なのに対し、次のジョブは75%上昇だ。
これは……選ぶべきだろう。
確かにバフも気にはなるが、今は隠密を優先させたい。
脇見はそれからだ。
<セカンドジョブを《影魔術師》にクラスチェンジしました>
最後、サードジョブ。
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《愚者》のクラスチェンジ先
‣天秤
‣戦黯
‣影付
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なんというご都合主義。
選ぶのを諦めたものが二つとも載ってきた。
これはつまり、そういうことなのだろう。
恐らく天秤が愚者の上位互換で、他にはメインジョブ、セカンドジョブの選ばなかった選択肢が表示されるようになっているのだろう。
一応天秤も鑑定する。
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《天秤》:
貴方が何かを望むのであれば、何かを捨てなければならない。
貴方は、何を天秤にかけるのか。
効 : 《淘汰》での代償が軽くなる。
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未だ使っていない《淘汰》の強化か。
迷うな。
あとの二つは隠密系スキルの効果上昇があるが、天秤にはない。
天秤を選ばなかったからといって、別に《淘汰》スキルが無くなるわけではない。
惜しいが、此処は隠密を取るか。
<サードジョブを《影付》にクラスチェンジしました>
<ジョブスキルを獲得しました>
どんどんストックはなくなっていきますが、正直早く第二章に行きたいので、第一章は駆け抜けて行きたいと思います!
星、ブクマ、感想、誤字脱字報告等、どれか一つだけでも是非していってください!
では次回をお楽しみに!