51,そのとき。(ギルマス視点)
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「【英雄】が街を鎮めに言ってくれている!ほかの奴らは、ベルが倒した魔物の後片付けをするぞ!」
英雄と、いくつかのパーティがギルドを出ていったのを確認した俺は、残っている冒険者たちにそう声をかけた。
魔物の死体は放っておくと腐敗して病気をまき散らす。
早いこと処理しなければ、折角危機が去ったというのにまた別の危機にさらされることになってしまう。
俺は、所在なさげにしていた冒険者たちが俺の方向を向いたのを確認してから、魔物の解体を専門としている職員と、レアスキルの【アイテムボックス】を持っている職員、あとは土魔法を使える職人を呼んで現場へと向かうのだった。
「俺たちは、俺たちができることを」
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「ッ!ちっ、また欠けやがった!」
誰かが、そう苛立たし気に吐き捨てた。
手を止めるまでもなく、何が起こったかは明白だった。
こういった緊急事態の時には、冒険者ギルドから【緊急依頼】として冒険者たちに依頼をだす。
勿論、普段とは比べ物にならないほどの危険を伴うからには、報酬は段違いに多い。
……そうでもしないと、命を懸けるぐらいならと別の街にとんずらしてしまう冒険者が多いから、というのも大きな理由となってはいるが。
つまり何が言いたいかというと、緊急依頼は、費用がかさむのだ。街の存続にかかわる事態で、物資や金銭の出し惜しみなどしている暇はないから良いのだが、それはそれとして、全てが終わった後。
防衛に成功したのちも、ギルドは続く。
その時に貴重な財源となるのが、魔物の死体なのだ。
往々にして、緊急依頼が出されるのは魔物の大量発生か、途轍もない強力な魔物の出没のときだ。
その依頼が達成されるということはつまり、それらの魔物の死体が手に入るということでもある。
そういった魔物を剥ぎ取って売りさばくことで、今後の財源とする必要があるのだが……。
「こっちもです!まるで歯が立ちません」
「魔法耐性も異常よ!死んでいてこれって、どうやってこんなの倒すのよ……」
職員たちの目にほんの僅かな恐怖が見て取れ、俺は溜息をつかざるを得なかった。
確かに、ベルのあれは強大すぎる力だ。あの力があれば、俺らなぞいとも簡単にねじ伏せさせられることは想像に難くない。
だが、それは違うだろう。
彼は、街を救ってくれた。自分のことも顧みず、たったひとりで。
彼がいなかったなら、今頃この街はなかった。それほど、命の恩人である彼に、恐怖を向ける。
それは絶対に間違っているし、途轍もなく無情で残酷な仕打ちだ。
しかしその恐怖心を無くすことができないことも理解している。してしまっているだけに、ギルド長として情けなさが際立つ。
せめて、彼が目覚める頃には。
全員は無理でも、今までと変わらず彼に笑いかけることができる人が増えるように。
そんな気持ちを込めて、俺は目の前の魔物に獲物を突き立てた。
全身の筋肉を使い、無理矢理に鱗を剥がす。
苦労してちぎったそれを放り出しては、また一枚、また一枚。
「パラケル」
「ああ。……お前ら、ギルマスが剥ぎ取った鱗を俺が加工する!そいつなら硬度は十分なはずだ!だが、如何せん数が少ない。他の奴らはどうしようもない魔物を集めておいてくれ!勿体ないが、全て焼く」
名前を読んだだけで全てを理解して発言を代わってくれるパラケルに感謝しながら、俺は目の前の見たこともない死体の鱗を一枚ずつ引っ剥がしていくのだった。
ふと、以前のことを。そう、まだ俺らが現役で冒険していたときのことが、ふっと頭をよぎった。




