47,舞
短いです!
誰かと親しくなるから、居なくなった時に悲しみなんてものが生まれるんだ。
なら、最初から誰ともかかわらなければいいんだ。
そうすれば、誰かを喪う虚しさも、この胸が張り裂けそうな程の痛みも、感じることはない筈なのだから――――。
***
折れた膝は、消えた心の灯は、そして死した人の命は――――――――もう、戻らない。
***
その後、どうやって戻ったのかは分からない。
気が付くと俺は、ギルドにいた。
そこには、大勢の冒険者と、忙しなく動くギルド職員、そしてギルマス。
俺は気配を消してギルマスに近づくと、気配を戻す。
「おい、何があった!?」
見たこともない険しい顔でギルマスが問い詰めてくるが、今応える余裕などない。
ガルムの遺体をそこに横たえる。
ギルマスの顔が歪むのが見えた。
周りで、冒険者たちの息をのむ声が聞こえる。
うるさい。
「……南に、誰も近づかせるな」
「おい、ベル!説明しろ!何があった!!ベル!」
最低限のことを言い捨て、俺は再び絶望の森に向かった。
後ろでギルマスが何か叫んでいたような気もするが、今の俺の耳には入ってこなかった。
***
絶望の森とギャザールの狭間にある、名無き平原。
俺はそこで、迫りくる大量の気配と一人、対峙した。
スタンピード。
何らかの理由で暴走した魔物の群れが街などを飲み込む災害。
地を揺るがすほどの大移動。
血走った目の魔物が、殺し合い、除けあいながらこちらへと殺到する。
「JDIO`WEJKLAOEJ()J><?JO」
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
「QIAAAAAAAAAAA!!」
「GYOEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
騒がしい隣人に、俺は静かに告げた。
「五月蠅い。――――――黙れ」
***
殺気を全開に飛ばす。
混沌の森の魔物はそれだけで軒並み気絶か、絶命した。
だが、流石に絶望の森の魔物は耐える。
迫りくる魔物をしかと睨みつける。怒りで脳の血が沸騰しそうで、集中ができない。
多重詠唱を使う。
「何物をも通すなかれ―――――――――【絶界】」
「哭け、その業を――――――――――――――――――【狼哮】」
「苦痛に藻掻け――――――――【亡槍】」
「切り刻め―――――――【静刻】」
「破壊を尽くせ――――――――――【黒炎】」
「吹きすさべ――――【愚かな道化師の行進】」
「その身をもって贖え。【静かなる夜】」
見えざる口が、それぞれに咎を紡ぐ。
魔物たちの、そして己の、決して許されざる咎を。
見えない壁が、荒れ狂う魔物の侵入を防ぎ、圧死させる。
何処か物悲しい一人狼の遠吠えが、魔物を委縮させ、著しくその力を削ぐ。
呪われた槍が、ありとあらゆる魔物を貫く。
その場に留まる不可視の斬撃が、止まれぬ魔物を切り刻む。
消えることの無い昏き炎が、魔物を存在ごと融かす。
竜巻という天災が、矮小なる魔物を蹂躙する。
そして――――。
全てを消し去る死神によって、平原に束の間の静けさが取り戻される。
まだ、終わらない。
終わらせ、ない。
依然として押し寄せる魔物の群れ。昏い笑みが、俺の口許に宿った。
***
すれ違いざまに下から剣を振り上げ、首を切り落とす。その余波で、数十体の魔物が爆散した。
左手で光球を生み出し、数百体の魔物の急所を貫く。
俺の周囲にまき散らされる呪いが、魔物を否応なく蝕む。
研ぎ澄まされた殺気が、それだけで魔物の息の根を止める棘になる。
俺と、魔物しかいない夜の平原で。
弱弱しい月光を浴びながら。
嗤う怪物がひとつ、血と踊った。




