38,ボス戦①
短めです!
すみません、一時間遅れです!
意匠が施された大扉を開ける。
俺たちが中に入ると、扉はひとりでに閉まった。
中は、今までの洞窟と同じようなものだが、段違いに広い。
上から見るとおわん型になっていそうな、不思議な形をしている。
「なっ」
「ああ、こういうものだ。ボス戦の決着がつくまで、出ることはできない。まあ、いざというときは転移石を使えばいい話だ。高価だが、命には代えられないからな」
……転移石?
嫌な汗が、背中を伝った。
「……なぁ、転移石ってなんだ?」
「――――ハァ!?お前、命綱を持ってないのか!?……いや、もう話している余裕はない!皆、後退は出来ん!死ぬ気で戦うぞ!」
「あらら、まさか命綱を持っていないとはね。まあ、10層のボスはそこまで強くない筈だし、大丈夫でしょ」
何かをやらかしたことだけは分かった。
名前からして、転移石とかいうものは転移できるのだろう。恐らくは、安全地帯に。
そして、この驚きようから言って、冒険者には必需品、と。
しかし俺がそれを持っていないから、ボス部屋で詰む、と。
不味いじゃねぇか!勝てば脱出できるっぽいことは言っているが、俺のせいで負けられない戦いになってしまったってことだ。
見捨てるという選択肢が無いのを感謝するべきか。
良心的な奴らと来て良かった。
今更ながらに俺が事態の不味さを理解してぞっとしていると、広い空間の中央に、突然魔物の反応が出た。
この反応は……混沌の森の魔物より数段劣るぐらいの強さか。
何となく、気配から強さを予測する。
これぐらいなら、特に苦労することも無く倒せるだろう。
そんな俺の油断をあざ笑うかのように。
現れた巨大な岩は、凶悪な牙をむき出しにしながら雄たけびを上げた。
「チッ、面倒臭い相手が来やがったなぁ!」
「私はどのみちすることが無いのよねー」
「爆風で動かすぐらいは出来るんじゃないの?」
「……まあ、そうね。危なくなった時に手を出すぐらいなら」
「皆さんお気をつけてください!怪我したら私が治します!」
どうやら、彼らはあの魔物を知っているようだ。
《鑑定》する。
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《エレメンタルロック》: 防御を極めた岩には、達人の刃すら通りはしない。
特性 : 鉱石を好んで食する魔物。あまり自分から行動することはない。恐ろしく硬い外殻を持つ。
極稀に物理攻撃にも耐性を持つ個体が現れることがある。外殻が硬いのに対し、内部は非常に柔らかく、物理魔法共に大ダメージとなる。
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大体察した。
VIT全振りの動かない的って所か。
「時間はかかるが、倒せない相手ではない!」
ガルムの指示を流しながら、俺はエレメンタルロックに歩いていった。
無銘ノ剣を漆黒の鞘から抜く。
そう、この鞘もパラケルにつくって貰ったのだ。
抜き身の剣を持って街中を歩くのは気が引けたからな。
「――――ふッ」
軽く息を吐きながら、鋭く剣を振り下ろす。
「……おっと」
すると、ガキィン!という音とともに、俺の剣が弾かれた。
……正直油断していたが。
「……硬すぎだろこいつ!」
「だろ?攻撃はそこまで強くないから、危険はあんまりないんだが、とにかく硬くてうざったい」
「ああ、こいつは嫌だな」
「頑張ってー」
見物しているラーが気の抜けた声を出す。他人事だな。
「バフとデバフいっくよー」
エルが長い杖を振りかざしながら、短詠唱をした。
「エンチャント:アタックU」
俺たちをほのかな赤い光が包み、消える。
「エンチャント:アタックD」
今度はボスを赤い光が包み、弾けた。
そのあと、他の能力もバフとデバフをかけていく。
UがUPで、DがDOWNのようだ。
さて、どうやってこいつを倒そうか。
……正直、多分空間魔法を使えば一撃で倒せる。
裂空は防御無視の攻撃の筈だしな。
純粋な剣技だと、あの剣線が見えないと難しそうだという感想を抱いた。
この魔物、下手したら絶望の森に居たグレシアルレベルに硬いぞ。
今の俺が斬れないと言うことは、そう言うことだ。
俺が考え事をしていると、ガルムが動いた。
「―――ォォォオオオ!」
咆哮じみた掛け声とともに、踏み込み、獲物――――肉厚の大剣を振り下ろす。
その刃が、ボスとぶつかった次の瞬間。
先程の俺よりも大きい衝突音が響き渡り――――ボスが吹っ飛んだ。
「は?」
あの質量が吹っ飛んだことに唖然としていると、ガルムが隣にやってきた。
「妙だな。随分と衝撃が軽い」
ガルムは、自分の右手を開いたり握ったりして感触を確かめながら、そう訝しんだ。
「それは、どういう……」
「――不味いわよ!」
「なにあの挙動……」
俺がガルムに詳しく訊こうとしたのを、ラーの警告が遮った。
見れば、エレメンタルロックは吹き飛ばされた衝撃で、そのままボウル上の壁を上り――――勢いをつけてこちらへ転がりこんできていた。




