37,ダンジョン
「……どうなってるんだこれ」
足を踏み入れた洞窟は、予想に反して柔らかい光に包まれていた。
「ああ、ベルは此処に来るのは初めてなのか」
「そこいらじゅうに生えてる苔が光源なのよ」
ラーの指さした先には、光る岩があった。
いや、岩に取りつく、大量の光る苔だった。
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《ヒカリゴケ》: ダンジョンにのみ生える特殊な苔。空気中の魔力を僅かに吸収し、光る。
生命活動の維持にダンジョン内の特殊な魔力を必要とするが、魔力の貯蓄器官が無いため、ダンジョンの特殊な魔力が無い場所に置くと直ぐに力を失い、枯れてしまう。
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――――ん?
「なあ、此処ダンジョンじゃないのか?」
「ん?いや、違うはずだぞ?」
「でも、こいつダンジョンにしか生えないって書いてあるぞ」
「「「「「……え」」」」」
え?
***
ダンジョン。
世界各地に乱立する、超大型の魔物。
そう、ダンジョンというのは魔物なのだ。
その姿は様々であるものの、共通して言えることがある。
それは、ダンジョンというものの性質である。
まず、ダンジョン内には特殊な魔力が満ちている。ダンジョン外にこの魔力が出ることは殆どない。
そして、ダンジョンは魔物を生成する。ダンジョン外に出ると消滅する、特殊な魔物を。
その魔物は、餌を必要としない。恐らく、ダンジョン内に満ちる特殊な魔力を餌としているのだろうと言われている。
また、ダンジョン内で死亡した場合、魔物であれ人であれ、ダンジョンに吸収される。
吸収されたそれらは、ダンジョンの成長や魔物の補充に使われると思われる。
更に、ダンジョンはそれ自体が成長する。
大きさが変わることもあれば、出てくる魔物の強さが強化されることもある。
いずれにせよ、成長するほど厄介になることに変わりはない。
そして、最下部には、ダンジョンの心臓とも呼べる、魔核がある。
魔核というのは、いくつかの原始的な生物が持つ、人間でいうところの心臓のようなもので、それが無ければ生命活動を維持することが出来ない、極めて重要な器官だ。
殆どの魔物は、そんな分かりやすい弱点は持っていない。
魔物は、普通の生物に比べ、進化がとても早い。
幾度も進化を重ねるうちに、明確な弱点である魔核は消えていったのだと思われる。
……少し話がそれた。
最下部にあるダンジョンの魔核、通称ダンジョンコアを破壊すると、ダンジョンは死に、破壊者には莫大な経験値が入る。
多くの冒険者が、その経験値を求めてダンジョンに潜り、逆に餌にされているのだ。
***
「……ライトモスじゃないのか」
「というか、ベル君鑑定持ちなのね」
「そんなことを言っている場合じゃないでしょう。不味いことになりましたよ。取りあえず私はギルマスへ報告しに行きますから、貴方たちで洞窟の探索を進めておいて下さい」
「兵士に伝言してもらえばいいんじゃないのか?」
今にも駆けだしそうなベラルツにそう尋ねると、ベラルツは首を横に振った。
「兵士よりも私の方が速いですから」
「そうだな、ベラルツ頼む。よし、俺らはこのまま洞窟を探索するぞ。情報を持ち帰ろう」
ガルムの一言で、俺らは洞窟の奥へと潜っていくのだった。
***
「あの角を曲がったところにアルムオアーが2体だ」
「了解だ」
声を上げて魔物の接近を知らせる。
洞窟に入ってから5分。俺らは順調に洞窟の奥へと進んでいた。
ガルムいわく、特に魔物の構成は変わっていないらしいが、明らかに強くなっているらしい。
「――――シッ!」
気配を消してアルムオアーに近づくと、俺は剣を振るう。
剣線は見えなかったが、無理矢理に硬い殻ごと破壊する。
ちなみに、この洞窟に出てくるのは、大体がグレシアルの劣化版みたいな感じで、同じような見た目の色違いが大量の跋扈している。
硬さはグレシアルに比べれば随分と柔らかく、俺の力押しで壊せるぐらいだ。
ただ、適当に斬ると魔核も傷つけてしまいかねないので、割と気を遣う必要がある。
また、魔法が効かないという厄介な性質を持つため、ラーは先ほどから手持無沙汰だ。
俺が先行して一体を破壊している間に、ガルムが綺麗な剣さばきでもう一体を破壊した。
「うーん……散発的に来られると、中々集中できないな」
「集中できるように訓練しといた方が良いぞ」
そんなアドバイスをもらいながらも、特に苦戦することも無く降りていく。
ちなみに、地形はだいぶ変わっているそうで、以前は本当に天然の洞窟だったらしいが、今はダンジョンらしく、階層があり、階段を見つけて下に降りていくタイプになっていた。
俺たちは今9層に来ている。
俺の魔法がここで活躍したのだ。
ガルム達には言っていないが、俺はこっそり空間魔法を使っているのだ。
2層を彷徨っていた時、ふと空間魔法が使えないかと思い立ち、ソナーをイメージして空間魔法を使うと、見事に的中。
ダンジョンの立体構造が頭の中に浮かび上がり、迷いなく奥へと進むことが出来た。
まあ、怪しまれないように自然に誘導するのは骨が折れるが。
魔法を使えることは出来れば隠しておきたいからな。
別に【踊る炎】を信頼していないわけじゃないが、この世界では情報は基本的に隠すものだから。
そして、9階の階段にたどり着いた。
そこには、何やら色々と装飾の施された巨大な両開きの扉が鎮座していた。
「次の10層には、ボスがいる」
「ボスか……強いのか?」
「そりゃ強いわよ」
「此処の魔物の傾向からすると、滅茶苦茶硬いのが出るんじゃない?」
嫌そうに声を上げたエル。
ダンジョンにはボスが、一定階層ごとに出没する。
戦闘は避けられず、逆に戦闘に勝利すればその層は制覇したことになる。
また、それまでの魔物の性質に似ているボスが出ることが多いらしい。
「皆、準備はいいな。ボスも魔法が効かない可能性が高い。ラーはサポートに回ってくれ」
「ちぇっ、りょーかい」
「よし、行くぞ!」
ガルムが号令とともに、巨大な扉に手を当てる。
すると、音もなく扉が開いていった。
ボス戦の、始まりだ。
***
前話から矛盾してね?っていう指摘が来そうなので言っておきます。
ガルムがダンジョン捜索を決意したのは、ダンジョンが間違いなく最近出来たものであるという点が関係しています。
ダンジョンというのは、年月がたつほど強大に、狡猾になっていきます。
逆に、生まれたばかりのダンジョンは、弱く、基となった建造物から殆ど変化していないものがほとんどです。
最近まで簡単な洞窟でしかなかった場所が、罠を持っていたり強い魔物を持っていたりすることは殆どあり得ないだろうという判断から、一刻も早く情報を持ち帰り、対策をした方が良いという考えへと至ったわけなのです。




