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32,お嬢様!

「お嬢様!お怪我は有りませんか!?」

「大丈夫よ、マザラン。こちらの方が助けてくださったの!」


あの後、お礼は要らないと言った俺に彼女は頑として譲らず、結局根負けしてついてきているわけなのだが。



大通りに出た瞬間に跳んできた執事と、あとからガラガラとやってきた馬車。

裏路地にいるときに、少女が何やら石のようなものに話しかけていたから、恐らく連絡用の魔道具を使ったのだろう、恐ろしいほどの速度でやってきた。


「それはそれは。この度は、お嬢様を助けていただき、誠にありがとうございます。わたくし、お嬢様専属の執事のマザランと申します。ところで、あそこの者どもが下手人ですかな?」

「いや、殺してはないから下手人ではないが。まあ、実行犯はこいつらだ。……話を聞く限り、計画犯の様だぞ」


慇懃に礼をするマザランは、厳しい目を気絶した男たちに向けると、後ろに控えていた人たちに運ぶよう言った。

何処に運ぶのかは知らないし、知りたいとも思わない。


「では、改めまして。……この度は、私アリア=メディチを助けていただき有り難うございます」

「気にしないでください。ただの自己満足ですから。ひとつだけ言わせてもらえば、いくら治安がいいとはいっても、あんなところを一人で歩くのは如何なものかと」

「うぅ……はい。以後気を付けます……」


しょぼんと俯くアリアに、後ろでマザランが頻りに頷いている。

……苦労しているんだろうな。


まあ、なんか事情がありそうだが、触れないようにしておこう。

そう考えていると、再びマザランが口を開いた。


「お嬢様をお救い頂いた恩人様に報いたく、メディチ家にご招待させて頂こうという所存にございます」

「……別に要らないだが」

「そういうわけにもいかないのです。恩人様に何の礼もなさらなかったとあってはメディチ家の恥じとなりますし、何よりお嬢様がご納得されないかと」


確かに今も頬を膨らませてこっちを見てるな。

……はぁ。


「まあ、アリア様が貴族だと知った時からなんとなくこうなるような気はしていました」

「こちらの都合を押し付けてしまう事、深くお詫び申し上げます」


ということで、無駄な抵抗を止めて俺はメディチ家へと運ばれることに。

まあ、メディチ家に行くということは、メディチ家当主と遭遇する可能性が高い。

そうなれば、有力貴族との接点を持てるという意味では、行くのも有意義か。


俺は、そう前向きにとらえることにした。

人生、前向きに生きてかなきゃやってらんないんだよ。


***


ちょっと揺れのある豪華な馬車に乗って街の中央にのんびりと向かう。

どうやらメディチ家は街の人たちには嫌われていないらしく、端によって礼をする人々の顔は笑顔だし、時々アリアに手を振っている人もいる。アリアもニコニコと笑いながら手を振り返しているし、結構貴族と平民の距離は近いのか?



「……そういえば、貴方様の名前を伺っていませんでした」

「ああ……C級冒険者のベルです」

「ベル様ですか、素敵な名前ですね!あと、私に敬語は必要ありませんよ。様付けも不要です」


それでいいのか貴族様。

目をキラキラさせてこちらを見るアリア。救いを求めて御者――マザラン――を見れば、やれやれと首を振った。


「わたくしは何も聞かなかったことと致します。どうぞ、ごゆるりとご歓談を」


やっぱり本来は駄目なんじゃねぇか!

だが、無邪気にこちらを見上げる視線が痛い。


「あー……じゃあ、敬語は無くさせて貰おう。ただ、今だけだ。メディチ家の中では敬語を使う、それでいいか?」

「――はい!我が儘を聞いて下さりありがとうございます!!」


ここら辺が妥当だろう。

調子に乗っていないアピールをマザランに送りつつ、俺はのんびりと馬車に揺られながら、アリアとの会話を楽しむのだった。


***


「ようこそ、メディチ家へ。歓迎させてもらおう」

「いえ、こちらこそこのような場に請待頂いたこと感謝します」


街の中央、教会と並ぶ大きさの館に辿り着いた俺を迎えたのは、思ったより若い男性だった。


「自己紹介をしておこう。<ギャザール>責任者で、辺境伯の地位を預かっている、メディチ家当主ジェームス=メディチだ」

「C級冒険者のベルと申します」


堂々とした佇まいで名乗るその姿は、威厳に満ち溢れていて、これが貴族か、と思わせた。

俺には出せない雰囲気だな。


「さて……。私の娘を救ってくれたこと、感謝する」

「当然のことをしただけですから、頭を上げてください」



辺境伯という偉い立場の貴族がよりにもよって冒険者に頭を下げるとは思っていなかったため、動揺してしまった。それを必死に隠そうとしたのが功を奏したのか、何とか平静を保った声を出すことが出来た。


「これは、貴族としてではなく、一人の親として言わせて欲しい。……有り難う」

「……ええ、お役に立てたのなら光栄です」


そう頭を下げるジェームスは、確かに自己紹介の時とはまた違う、穏やかな、一人の男親としての顔をしていた。

そして、次に頭を上げた時には、一人の、貴族としての顔に戻っていた。


「では、ここからは貴族として話をさせて貰おうか。具体的に言うならば、娘を助けてくれたことに対する報酬の話となるね」

「……別に報酬を目的として助けたわけではないのですが」

「ああ。だとしても、貴族の面目を保つためとして、そして娘の思いを掬う目的としても、君に報酬を上げないわけにはいかないんだ」


この親にしてこの子在り。

予想はついていたが、アリアの頑固さはジェームス譲りの様だ。

だが、別にお金には困っていないのだが。いざとなったら《絶望の森》で狩ればいい話だしな。


「もし、金品や物品を望んでいないというのなら、後ろ盾というものも上げられるが」

「ッ!」

「ふむふむ、成程。物よりも後ろ盾を希望、と」



――――チッ。

心のなかで舌打ちをする。どうにもたちが悪いことに、カマをかけられたらしい。

それにまんまと嵌ってしまった自分に苛ついた。


ジェームスの顔が、ニヤリ、と歪んだ。俺を挑発するかのように。

俺の望みを言い当てられて、表情まで読まれた。


――――成程。


人間関係の駆け引きは難しい。

今はジェームスと、報酬の話だからまだいいが、もしこれが、もっと欲深な商人との、商売の話とかだったら、俺は今頃見事に足元を見られているだろう。


それだけの情報を、今の会話だけで抜き取られたような、そんな感じがした。

そして、もう一つ気付いた。

多分だが、ジェームスは、あえてこの、駆け引きのような会話をしている。

俺に、何かを教えるために。


「……この会話自体が、何よりの報酬です」

「そうか、そうか。謙虚なのも、素直なのも、その学びの姿勢も好ましい。―――時にベル君。君は、貴族とは、民とどうあるべきだと思う?」


唐突な質問。

俺の人柄を試されているのだろうか。


「……貴族の暮らしも、権力も、全ては民という土台があってこその借り物。それらを享受するのであればこそ、民の重要性を知るべきかと。治めるべき民なければ、権力者など只の張りぼて。そう肝に銘じ、民と良好な関係を保ち、非常時には率先して民を保護するものが、貴族だと、貴族のあるべき姿なのだと、そう考えています」

「――全くの同意見だ。それを理解できず、見苦しく権力を翳す愚か者のなんと多い事か…………よし、やはり君にはこの短剣を上げよう」


大きく頷くジェームスは、少し満足気な顔をしている。

ジェームスは後ろにいた執事から鞘に入った短剣を受け取ると、わざわざ俺の目の前まで来て手渡してきた。


俺は、その短剣に妙な既視感を感じながらも、表情を変えず受け取るのだった。

ちなみに、ベル君はすっごい負けず嫌いです。

別に会話での駆け引きを学ぼうとして来たわけでもないのに、ジェームズの挑発的な笑みを見ただけでそっち方面に熱中してしまうほどには。


ちなみに。

平民にとって、貴族や商人特有の駆け引きを、痛手なく学べる場所というのはほぼ存在しないと言えます。

ベル君も当然平民ですので、本来は商人やらなんやらと腹の探り合いをして痛い目を見て学んでいき、成長していくものなのですが、その学習を無償でジェームズ君は教えてあげているのです。

きゃー、ジェームズ先輩かっこいー




余談ですが、お嬢様にはベルへの恋愛感情は在りません。

助けてくれた恩人で、あまり年の変わらないベルですが、どちらかというと友人として見ていますね。まあ、身分的にまだ友人として話すことすらあまり褒められた行いとは言えないのですが。


いつかベル君が権力を手にしたら、仲のいい友達として再登場することがあり得るかも……?

シランケド。

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