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30,淡い想い

結局、一週間後にまた来ることにして、とりあえず商業ギルドの方に行くことにする。

剣は、まあ、無くてもどうにかなるだろう。


別に剣が無くても毎朝の訓練は出来るしな。

最悪魔法で同じ形のものを生み出せばいい。

性能までは流石に真似できないが、重心を全く同じに揃えて魔法で剣をつくれば、素振りをする分には問題ない。

ただ、ひとつだけ言いたい。

指輪つくって貰いに行ったのに、剣取られただけで終わったのは何故だ?



まあいい。

商業ギルドは北区だ。


***


「商業ギルドへようこそ」


商業ギルドのやたら凝った扉を開けると、そんな声が俺を出迎えた。

冒険者ギルドよりもかなり洒落た造りで、内装も綺麗だ。


受付に行って若い男にオラルからもらった金券を渡す。


「交換を頼む」

「はい、承りました。こちら金貨1枚になります」


カウンターの下から直ぐに金貨1枚を取り出した受付の男。


「ん?金貨1枚なのか?」

「ええ、金貨1枚と記されています」


前払いでいくらかもらったはずだが。

まあ、分かってて払ってくれているのだろう。

有難く受け取ることにする。


「では、またのご利用をお待ちしております」


愛想笑いを浮かべて腰を折る男に軽く頷いて、商業ギルドを後にした。

こちらを値踏みするような商人たちの眼には気づかないような振りをして。


***


取りあえず宿に戻ろうとして、途中でアクセサリーの露店があった。

特に凄いものを売っていたわけではなかったが、その中の一つを見た時にふと、ミーナのことが頭に浮かんだ。


日頃お世話になっているからな。

これくらいのプレゼントはいいかもしれん。


大して高くもなかったので、露店のおばちゃんに言って購入する。

喜んでくれるならいいが。


帰りに、またあの串焼きを買ってしまった。

美味しかったです。まる。


***


「あ、お帰りなさい、ベルさん!」

「ああ。……今忙しいか?」


宿に入るなりミーナが声を掛けてきた。


「ううん、この時間帯はあんまりお客さん来ないからねー」


今は大体午前10時くらいだろうか。

まあ食堂に人が来る時間帯ではないな。


「露店で見つけたんだが、何となくミーナにと思って」

「えっ?私に?」


影からアクセサリー―――綺麗な赤い石が先端に挟み込まれたチェーンネックレスだ。

何となくこの赤を見た時に、ミーナが思い浮かんだ。


「ああ」

「―――――ありがと!!うわぁ、私男の人からプレゼント貰ったの初めてだよ、凄い嬉しい!」


安物にここまで喜ばれると逆に少し申し訳なるが、凄く良く喜んでくれた。

今度はもっとちゃんとしたものをプレゼントしよう。


頬を赤らめ、柔らかく笑いながらチェーンネックレスを眺めるミーナをほほえましい気持ちで見ながらそう思った。


***


******


私は、<宿り木亭>という宿兼食堂を運営している、ミーナ。


体の弱いお母さんの代わりに、お父さんと一緒に宿をやっているのだけど、立地の良さと、お父さんのご飯のおいしさ、あとはギルマスが人を送ってくれるお陰で、結構繁盛している。


ギルマスが、宿に送る人をある程度選んでくれるからか、そこまで柄の悪い人も来ないし、悪いことを企んでいる人は来たとしても大抵お父さんの顔に怯えて勝手に逃げていってくれるから、私に危害が加えられたことはない。


一応私自身も少し護身術は学んでいるけど、流石に冒険者には勝てないからなぁ……。

ギルマスと、お父さんの顔には助かっている。



そんなウチの宿に、新しいお客さんが来た。

また、ギルマスからのお勧めで来たというそのお客さんは、全身黒ずくめの、ちょっと変わった格好をした、影の薄い男の人だった。


この辺では珍しい黒髪黒目。ちょっとだけ髪の先端が青くなっているのはどうしたのだろう。

口許まで黒と、ところどころ入った青が埋めていて、殆ど肌色は見えないけど、かなり若い気がする。

私と同い年ぐらいだろうか。私が今年で14だから、彼は私と同じ年でもうCランクだということになる。


……凄いなぁ。


マスクと髪の間から覗く目は、その顔に似合わないほど大人びていて、鋭かった。

何処か透徹したようなその目に、何故か少し目が吸いつけられる。


―――彼は、どんな人生を送ってきたんだろう。


何となく、惹きつけられる黒い目に、そんなことを思った。


***


数週間が過ぎた。

黒ずくめの人――ベルさんとは、結構良くお話しするようになった。


軽く雑談するぐらいだけど、顔を合わせたら挨拶をするぐらいには仲良くなったと思う。

普段無表情なベルさんだけど、お風呂の後とかは表情が柔らかくなるのだ。


それを眺めるのが最近の楽しみになっていることは、誰にも言っていない。


***


更に数日が立った。

ベルさんが、普段の会話でたまに微笑んでくれるようになってきた。


ご飯を食べ終わって食器を下げてきたベルさんが、たまたまいた私に気付いて、こっちに来たことがあった。どうしたのだろうと思ってみていたら、珍しいことにしっかりと笑顔を浮かべて「料理美味しかった」と告げてくれたのだ。

不意の笑顔を見せられて、ドキッとする。


心臓が跳ねて、頬が熱を帯びていくのが分かった。

なんだかすごく慌ててしまって、逃げるように奥に引っ込んでしまった。


少し戸惑ったような視線を思い出し、ため息をつく。

おかしな子だと思われてるかな……。なんであんなに慌てちゃったんだろう。

後悔ばかりが渦巻き、その日は仕事が手につかなかった。



ベルさんのことばかり考えるようになった。



鋭い目で、いつも無表情だけど、たまに見せる年相応の柔らかい表情にドキッとしたり。

真剣に料理を口に運んでいる姿に、なんだか少し可愛さを覚えたり。


鍛錬をしている姿をたまたま見た時は目が離せなくなった。洗練された動きで踊るように剣を振るその姿は、いつまでも見ていられた。

でも、少し鍛錬をやり過ぎな気がする……。


なんだか、いつもよりも毎日が色づいているように、日々が過ぎていった。



そんなある日。

ベルさんが、何となくいつもよりソワソワした雰囲気で宿に帰ってきた。


「あ、ベルさんお帰りなさい!」


声を掛けると、ベルさんがあの、最近たまに見せるようになった笑顔を私に向けて、プレゼントをくれると言った。


―――――ちょ、ちょっとまって!?


笑顔だけでもキャパオーバーなのに!

ベルさん、なんか凄い可愛い!!



ベルさんが何処かからか取り出したのは、綺麗な赤い宝石が嵌まった、チェーンネックレスだった。


視線が、ネックレスに釘付けになった。

それ自体は、多分そこまで高いものじゃない。

でも。


なんだか、目を離せなくなるような、そんな魅力があった。



「―――――ありがと!!うわぁ、私男の人からプレゼント貰ったの初めてだよ、凄い嬉しい!」


ふっと顔を上げれば、何処か不安そうな顔のベルさんがいて。

急いでお礼を言う。


なんだろう、心がふわふわする。地に足がついていないような感じ。夢じゃないかと心配になって、頬をつねった。痛かった。しかもお父さんに変な目で見られた……。


そのあとも、料理を運ぶ手伝いをしながらも、ネックレスを思い出すと頬が自然と緩んでいった。


ますます、ベルさんのことばかり考えるようになった。

ベルさん、今頃どうしてるかなぁ…………。


******

乙「ベル君ベル君、どうしよう!」

ベ「何が?」

乙「何も考えずミーナの気持ち書いちゃったけど、作者恋愛系のハッピーエンド書けないんだった!なんか決まってバッドエンドなんだよね……何でだろう」

ベ「……捻くれてんなお前」

乙「ベル君ほどじゃないけどね!」

ベ「……」



出会って一カ月程の、特に深い関係でもない少女に贈り物をするのは普通なのでしょうか。

私には分かりません(白目)。


ちなみに、ミーナがベルを気にしているのは、理由がいくつかあります。

1つ目は、ベルの異様なまでの若さ。

(ミーナ視点では)15歳程のベルが、Cランク冒険者という強さであるところに、将来性を感じて魅力に思っているわけです。強い冒険者ほど稼げるわけですから、そう言った目線で見ればベル君は稼げる優良物件。現実を見ているわけですね。逆に、年を取っていても低ランクのままだと、モテません。世知辛い世の中よの……。弱肉強食。


2つ目は、ベル自体の魅力()。

この街の人たちはみな明るく、陽気な雰囲気ですが、長年引き籠っていたベル君はちょっと独特の雰囲気を漂わせています。

悪人とも善人とも分からなそうな独特の雰囲気に興味を持ち、惹きこまれていった訳です。興味を持って接していったら、ベル君のたまに見せる笑顔にキュンキュンしてしまったという……。

特に、ベル君は日本人ですから、周りの人の目を気にします。

他の、豪快な冒険者(勿論気遣いできる冒険者も多いですが)と違い、繊細な気遣いが見受けられる場面も多く、そういったことに慣れていないミーアには見事に刺さったのでしょう。

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