25,宝玉
***
「さて、と」
俺は右の掌を前に出すと、自分の体の中に意識を向ける。
魔力がそこに在ること自体を感知できるのは普通だが、それを動かせるものは少ない。
そして、それをそのまま体外に放出することが出来るのものは、もっと少ない。
「捻出」
イメージのままに呟くと、右の掌に紫の光が集まっていく。
やがてそれは少しずつ凝縮し、四角錐を形作っていく。
少し右手からは浮いたところに、紫の四角錐。
本当は少しでいいんだが、練習の意味も込めて、大きくしていく。
少しずつ、だが確実に大きくなっていく魔力の塊。
――――魔石。
ふっと、そんな言葉が頭に浮かんだ。
純魔力を捻出する。圧縮する。圧縮する。捻出する。圧縮する。
なんかちょっと楽しくなってきた。
圧縮、圧縮、圧縮。
なんだか、少しずつ耳鳴りのような音が聞こえ始めた。
―――――キイィィィィィィィィィィイン――――――――
あ、もしかしてこれヤバいか?
圧縮したときに漏れたのか、魔石の周りに紫電が舞い始める。
なんだろう、気のせいだろうか。
魔石の周りの空間が、少し歪んでいるように見えるのは俺の気のせいであってほしい。
だが、ここでやめるのは男じゃない。
ということでさらに圧縮圧縮。
全力で結界魔法を使えるように準備して。もはや何をしに来たのかわからなくなってきたなこれ。
魔石の大きさが変わらなくなった。代わりに、魔石の色が、濃い紫から段々と透明になってきた。
耳鳴りは相変わらずしている。
あ、牛がものすごい勢いで結界に突進している。
結界に潰されて死んだ。
魔石が完全に透明になり、次は青くなり始めた。
そろそろ制御がきつくなってきた。いい練習になってきたな。
《並立思考》を使う。
―――ん?
そもそも、俺の《魔力支配》のスキルレベルで魔力操作がきつくなるって―――――。
今更ながら少し背筋に冷たいものが走り、気軽にやったことを後悔する。
というかこれ、どうなるんだ。
このまま放出したら多分この辺消し飛ぶぞ。
そんなこんなでどう処分するかに悩みながらも、捻出、圧縮。
俺の全魔力の半分が既に消えてるんですがそれは。
そして、間違いなく空間歪んでるなこれ。はっきりと視認できるぐらいになってきた。
一般相対性理論…………?
重力波が生まれているかどうかは分からないが、視界が歪むってことは光が曲がるレベルってことで……これ星レベルの質量……?
改めてとんでもないものを生み出してしまっているらしいことに気付き、冷や汗が垂れた。
そしてそこで、さらにやばいことに気が付いた。
確か、限られた空間に極めて大きな質量が集中することが………………。
――――ブラックホールの生成条件。
そろそろ流石に止めておこうかと思ったところで、深い蒼になった魔石が、一際眩しく輝いた。
そして次の瞬間、そこにあったのは。
サファイア、和名を蒼玉。
見るもの全てを吸い込んでしまいそうなほど碧い、小さな宝石。
ただし、途轍もない力を感じるが。
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《純魔の蒼玉》:
汝、真理を知らんと欲するか。
効 : 強化素材
《指輪》の素材として用いることで、以下の能力を得る。
・装備者に《探求》を与える。
・装備者のINTの上昇率を10%上昇。
・装備者の魔力関連の成長率に微量上昇補正。
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なんか一切予想していなかったものが出来上がった。
何故俺の魔力を使うとサファイアが出来上がるんだ?
俺の髪の先端が何故か微妙に青いのと関係あるのか?
というか何故指輪???
俺の頭の上に、いくつもの?が浮かんだ。
まあ取りあえずは、目の前に群がる蟻どもをどうにかしようか。
***
純魔力を圧縮していくうちに、牛だけではなく蟻もどんどんと集まってきていたので、一応当初の目的は達成されたといっていいだろう。
アラルダートを闇魔法でサクッと殺して、胃だけを残してあとは《淘汰》。
解体をせずに素材だけ取り出すという便利なことが出来ると知っていたから《愚者》が気に入っていたというのがあるのはまた別のお話(?)
さて、帰って《純魔の蒼玉》をどうにかしないと。
澄んだ魔力をまき散らしていたので、多分魔力が感じ取れる人は吐くんじゃないだろうか。
<スキル《魔力耐性》を獲得しました>
おっと、マジで危ないもののようなので影魔法で収納しておく。
さあ、のんびり(?)出来たし帰るか。
***
「何……今の馬鹿みたいな魔力…………」
広大な部屋で一人。
隅で震える小さな少女の姿があった。
***
「依頼完了手続きを頼む」
「了解しました。―――アラルダートの胃を10個ですが、提出素材は何処に?」
「ああ、これ」
影魔法の収納から出す。ちなみに、一番初めに俺の登録をした受付なので、影魔法にももうあまり驚いてない。
「はい、確かに10個承りました。依頼達成です」
「あー、まだあるんだが、余った分はどうすればいい?」
俺の影には、まだあと数百の蟻の死骸が残っている。
結局、大してレベルは上がらなかったが、魔力の操作はうまくなった感じがする。
やっぱりやるなら本気でやらないと。あれは多分制御をミスったらあたり一帯が消し飛んでいたから、俺も本気で制御を頑張ったからな。
しかし、どうも純魔力を圧縮するときの現象が、蠅退治のときと違うような。
今度考察するか。
「でしたら、今はアラルダートの胃が不足気味ですので、余剰分もこちらで買取いたします」
「分かった」
一つうなずく。今、買い取るって言ったな?
心の中で黒い笑みを浮かべる。勿論顔には出さない。頑張れ《ポーカーフェイス》。
「ここに出していいか?」
「ええ」
許可をもらったので、手をかざし、どんどん胃を取り出す。
数個。
受付嬢は愛想笑いを崩さない。
数十個。
受付嬢の愛想笑いが引きつってきた。
100個。
受付嬢の口端がひくひくしている。
なんか面白い。
200個。
そろそろ受付嬢の顔が死にそう。
いつになったら終わるんだろう、みたいな顔している。
詰まらなくなってきたので、そろそろやめることにする。
あと倍ぐらいあるのはまあ、いつか使うだろう。
「取りあえずこれでいい」
「――――はい、これで以上ですね………何でこんなにあるんですかぁぁああ!!」
心の底からの叫びが出た。
うーん。なんでと言われてもなぁ。
スルーして、無言で会計を促す。
愛想笑いに失敗している受付嬢。
若干震える手で胃を奥にもっていくと、暫くしてお金を持ってきた。
「はい、アラルダートの胃が10個の達成料金で、賎貨600枚と、アラルダートの胃に……200個で銅貨10枚になります」
うーん、まあ中々の稼ぎなんじゃないだろうか。
正直相場がよくわからないから何とも言えないが、酒場の野郎どもの会話的にも、これぐらい稼いでいるのは少ないようだし。
お金を受け取った後、もう一つの用事を思い出して訊いてみる。
「ギルマスは居るか?」
ブクマが少しずつ増えていくのをニヤニヤしながら見守る毎日です。
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