21,救出
混沌の森。
若干来るのは久しぶりだったが、間違いなく見覚えのある森だった。
俺が最初に来た森で間違いないだろう。
俺が懐かしく思っている間にも、ファーンは死にそうな顔でどんどん奥へ進んでいく。
まあ、仲間が心配なんだろう。
俺は、ガルムがギリギリ俺の気配を見失わない程度に気配を消し、周りにモンスターがいないか気配操作で確認して歩く。
というか本来これはファーンの役割なんだが、正直長年ソロでやってきたからか、あんまり他人に任せるというのをやりたくない。相手に主導権を持たせたくない、とは少し違うか。
あとは単純に、今の真っ青な顔のファーンはちょっと頼れないというのもある。
本当に索敵しているのかもわからん。
ファーンは森の入った直ぐといっていたが、果たして。
確かに、3つ人の気配がちょっと行ったところにかたまっている。
そして、そのすぐ横には普段の魔物より少し強めの気配。
余談だが、気配操作をずっと使っているうちに、気配である程度魔物の強さを図ることができるようになっていた。人間相手はまだあまりわからないが。慣れればわかってくるだろうから、そうしたらガルムの真似をして遊んでみようか。……いや、やらんけどな。
閑話休題。
「なあ、ガルム。三人の気配と、突然変異種っぽい奴の気配は見つけたぞ」
「……流石というべきか。近いか?」
「すぐそこだな。だが、このまままっすぐ行くと数体魔物と出くわす。……倒してきていいか?」
「ん?パーティーで戦うんじゃないのか?」
「いや、これぐらいだったら俺が狩ってきた方が速いから」
そう告げると、ガルムは少し考え込み、やがて頷いた。
「本当はCランクの奴らに経験を積ませるってのも目標だったから戦わせてやりたいんだが……今は人命救助が優先だ、片付けてきてくれるか」
「了解」
頷き、気配を消す。
そのまま軽く前に跳び、ファーンを追い越して数歩。
何十メートルか進んだところにいた魔物――――豚が地面から生えているような、不気味なフォルムだ――――を一閃する。剣を振っても体がブレないように意識しながら。
そして間を置かず《淘汰》で魔物を消す。
足は、止めない。
そのまま流れ作業で、植物の様に地面から生えている魔物を片付けると、一応突然変異種に遠くからデバフをかけておいてからガルムの下に戻った。
たどり着いた時に襲われて死んでたら来た意味ないしな。
「殺っといたぞ」
「―――あ、ああ」
ちょっとした悪戯心で背後から話しかけると、微かな動揺が見て取れた。
「ベルが道中の魔物は掃除してくれたから、急いで向かうぞ。もうすぐそこだ」
「おー」
返事こそ気の抜けたものだが、各々表情はいたって真剣だ。
Cランク冒険者になるには、それぐらいの技量が必要とされるということなのだろう。
俺は暇だったので、周りに気付かれないように指の先だけを《影化》するという練習をしていた。
《影化》は、影に潜める魔法だ。
自分の身体を影にすることが出来るこの魔法は、《潜影》とセットで使うことが多い。
自分の身体を影にしてから、影に潜り、繋がっている影の間のみであれば瞬間移動が可能である。
そんな、便利魔法である。ただ、影の濃さは結構厳しく、薄暗い、程度では影と認識されないので、使い勝手はあまりよくない。具体的には、絶望の森の中でも濃い木陰でなければ影とみなされなかったと言えば分かるか。つまり、太陽が出ているときは結構厳しい。
だが、他にも使い道があると俺は感じた。
影になるのであれば、物理攻撃が通らない最強の状態になるのでは?
という。
結論から言うと、物理攻撃は通らなかった。
ただし、魔法攻撃は分からない。あの森には、魔法を使う魔物がいなかったからな。
そして、もう一つ欠陥が、こちらからは物理、魔法共に攻撃できないということだ。
つまり、影に潜んでチクチク魔法を打つ、という卑怯戦法が採れない。
だから、専ら逃げる時用の魔法になるだろうが、こういう奥の手的なものを持っておくのは大事だ。
何が起こるかなんてわからないのだから。
「GUAAAAAAAAAAAA!」
不意に、雄叫びが聞こえた。
近い。
「出たぞ、オッドエンドだ。通常のオッドエンドはCランクだが、突然変異主はBランクだ。このメンツなら負けることはないだろうが、気を抜くなよ」
「なあ、アレなんか弱ってないか?私の目には瀕死に見えるんだが」
「僕にもそう見えますね。ファーンのパーティーがやったのですかね?」
「い、いや……言っちゃなんだが俺のパーティーはそこまで強くない筈なんだが……」
やがて見えてきたオッドエンドの突然変異主は、黒い体毛の大熊だった。
初めて見たな。
のんびりと観察していると、ふとガルムからの視線に気づいた。
「なぁ、ベル。お前、なんかやったか?」
「ん?あぁ………」
一瞬迷ったが、まあ別に隠すほどのものでもないか。
「デバフかけただけだが」
「―――デバフかけただけでああなるんですか!?というかまずデバフも使えたんですか?」
真っ先に反応したのは、レルだった。まあ本職だからか。
ガルムも驚いたように目を開いている。
一番ぴんと来ていないのはアリスか。
「お前さんが色々と可笑しいのはよーくわかった」
「デバフだけで……僕の存在意義が……」
「レル、あいつは化け物だ、同じ人間として考えない方がいいぞ」
「随分な謂れようだな、オイ」
落ち込みぶつぶつと呟くレルに、ガルムが声をかけているが、その言い方はないだろう。
まあ、確かに人間じゃないけどな。
「まあいいか、これだったら私だけで殺れる」
そういうとアリスが弓を構えた。
綺麗なフォームで狙いを定めると、微かな風切り音を残して矢が熊の脳天に吸い込まれていく。
<ブラックオッドエンドを殺害しました>
全然筆が進まなかったのにどうでもいい雑学書き始めたら一瞬で五千字くらい埋まってしまいました。
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