3.桜咲く
北陸のとある小さな町、その田舎の中学校に都会から男の子がやって来た。父の転勤でやって来たというその少年は、どことなく垢抜けていて、女子達の関心を引いた。
4月6日の入学式と共に入って来たが、入学者がほとんど同じ小学校の出身者ということもあり、彼だけが目立っていた。
「沙耶、あの子と同じクラスなんやろ?いいなぁ〜あんなイケメンと一緒なんて〜」
「そう?私は何か話しにくそうな子やと思ったけど……」
高倉沙耶は、親友の田中瑞穂と学校の帰り道にそんな話をしていた。2人の両親は卒業式が終わると、仕事に戻って行った。家が近いこの2人は保育園からずっと一緒で仲が良い。
「だってさ、あの茶色っぽい髪の毛って地毛なんやろ?瞳の色だってさ、黒っていうより、グレーだし。おじいちゃんがどっかの国のクォーターらしいやん?」
たった1日でそんな情報まで流れているのは、田舎ならではなのだろうか?沙耶は瑞穂の情報網が少し怖くなった。
「木村優亮だっけ?もう、何人かは告るって言ってたよ」
「はやっ!流石に無理でしょ」
「なんかさ、早いもの勝ちみたいになってるみたいよ?」
沙耶はそういうノリには気後れしてしまう。確かにカッコいいとは思うが、どういう人かもわからないし、第一、自分が彼に受け入れられるとも思わない。どちらかと言うと、話すこともなく、関わりもそんなに持てない気がした。
「それより、部活どうする?瑞穂は陸上部だっけ?」
「そのつもりだよ〜アイツもそうみたいだし」
アイツというのは、瑞穂がずっと片思いをしている男子のことだ。佐藤祐希といって、長距離が得意な子だ。特別なイケメンというわけではないが、背が高く清潔感があった。
「沙耶はどうするわけ?ウチと陸上部入らん?」
「無理無理!走れないもん!!文化系にしようとは思ってる」
「ふーん。そっかぁ、ちょっと残念だけど。いいよ」
「え?何気に上から?」
「いいやん!そーいえばさ、木村優亮はバスケ部らしいよ」
「へーイケメンは、部活までイケメンなんだね」
「そうそう!マネージャー希望者凄いらしいよ〜」
「へぇ、そうなんだ」
沙耶は全く興味がない。そういうスター的な人は光の当たるところで生きてく人。自分は関わらずに卒業する自信がある。
「今週末、遊びにいっていい?」
「今週末はダメ、兄ちゃんが帰ってくるから」
「え!匠さん帰ってくるの?大学休みじゃないよね??」
「彼女を親に会わせたいんだってさ」
「え———!彼女いるんだ!?ちょっとショック〜」
「おいおい、瑞穂は佐藤君一筋やろ?」
「沙耶のお兄さん、素敵だからさぁ。東京に行ってからは、もっとカッコ良くなったし」
「そう?あんま変わんないよ。タイムラインの写真なんて、絵の具塗れだし」
「芸術家っていうのが、いいよねぇ〜」
2人でトボトボ歩く。同級生は両親と車に乗り、何台も通り過ぎて行った。
チャリンチャリン
沙耶は慌てて瑞穂の後ろに回り、歩道を開けた。
「どうも」
そう声をかけ、男子生徒の自転車が追い越していく。線の細い華奢な体、茶色の髪の毛が印象的だった。
「あっ!木村優亮だ」
瑞穂は小さく囁く。
横で聞いていて、アイツに聞こえないかビクビクしてしまった。確かに、綺麗な男の子だと思った。それでも、自分には無関係な人に思えた。
とても輝いているから。
その時の私は予想だにしなかった。あの子と変な関わりが生まれ、それどころではなくなるとは。