1.ふとした瞬間
僕にはどうしても忘れならない女性がいる。
彼女の名は、優花。
いつも自信に満ち、自分の夢のために真っしぐらだった。気の向くまま生き、いつも僕を振り回した。僕の中には彼女がまだ残っている。
別れたあの日に手放したと思っていたが。ふとした時に、彼女が僕の脳裏に蘇る。それは、彼女が好んだセブンスターの煙草の煙をかいだからか。
それとも、灼熱の太陽を浴び、意識が朦朧としたからか。いや、彼女のことを思い書いた絵を見たからか。いやいや、そんなことではない。
それは突然やってくる。彼女を突然あらわれる。そして、あっという間に消え去る。跡形もなく。
ドキドキして楽しかった日々も、切ない恋しい気持ちも、憎んだ気持ちも、真っ白になって何も無くなる。
「おじいちゃん、ちゃんと聞いてる?」
小さな男の子が、僕の体を揺さぶっている。
「ユウのおもちゃがなくなったの!!」
僕は我に返った。孫の優亮が口を尖らして、見上げている。
「おう、おう、そうか。わかったぞ」
そして、ふと思う。
(え?何を考えていたっけか??)
思い出そうとするが、さっきまでのことが全く思い出せない。思い出そうとするたびに、優亮が僕の手を引っ張った。
(いや、優亮の面倒が先だな、また、思い出せばいい)
(後で———————-)