帰巣本能
私は怒っている。と言うか意味がわからない。何で、彼氏と、私の親友のポジションにいたはずの彼女が、腕を組んで幸せそうに歩いているんだ。意味がわからない。だって、私は彼とまだ別れていないし、彼女も親友だと思ってる。まだ。
「あ、気がついた?」
ぎくぅっ、と心臓が音を立てて跳び跳ねた、一瞬血液が凍る。ぎぎぎと隣に首を回してみると、そこには同じ大学の、同じ講義を取っているあんまり喋らない子が突っ立っていた。ちゃんと知っている人とわかった途端、筋肉と言う筋肉が弛緩して、その後に精神が緊張した。私なんでこの子と一緒にいるの?
「その顔じゃ覚えてないね……」
苦笑しながら教えてくれた。
講義の連中と飲みに行く途中に目撃した私はとことん酔っぱらった上、ふらふらと歩き出したらしい。
「あれだけ酔っぱらっても、ちゃんと家に帰れるんだからすごいね。帰巣本能って」
目の前には私の部屋のドアがあった。じゃ、この子は私の事が心配でここまでついてきてくれたのか。
「ありがとう」
そう言うと苦笑しながら帰ろうとしたから、つい「お茶でも飲んでって」って誘ってしまった。
テーブルに置いたアイスコーヒーは美味しくて、頭を冷やすのにちょうど良い。こうやってワンクッションがあることによって、ショックを些かやり過ごせると知った。
「じゃ、帰るね」
そう言って帰る彼女に、笑顔で答えられるほどには。