男の休日
男は煎餅布団で横になりながら、テレビを見ていた。誰も訪れることはないだろうその部屋は汚く、煎餅布団の回りには脱ぎ散らかした服やら、飲み干したビールの缶やらが転がっている。つまらないテレビをつまらなさそうに見る男は、うっすらと髭が生えて男臭い。
休日の終わりの夜ってのは、こういうもんだ。
男には男の矜持と言うものがあるらしい。久しぶりの三連休、寝たいだけ寝た。誰とも繋がりたくなかった。飯の為、コンビニだけはどうしても行かなくてはならなかったから、夜中にこっそりと部屋を出た。鍵を閉める「かちゃん」と言う音が、やけに響いたので肩がすくんだ。
だけどそれももう終わる。嫌だ。明日からまた仕事だ。上司にせっつかれ、部下には突き上げを食らい。中間管理職の胃にかかるストレスと言うものが、男にはわかっていなかった。だけど今ならはっきりとわかる。
「あんとき、引き受けなきゃよかった」
起き上がりシャワーを浴びる。髭にカミソリを当て、体の隅々まで洗う。さっきまで飲んでいたビールの酒気さえ洗い流すよう隅々と。まるで儀式のように。
煎餅布団の回りに散らかっているものたちを片付けた後、ふとローテーブルを見ると、その上には二つの胃薬が。
「上司と部下からか……変な感じだな」
久しぶりに笑いながら、「今日は上司のにするか」と封を切った男の顔は、少しだけ引き締まって良い男に見えなくもなかった。