あざとい珈琲
君はいつも僕の傍で笑っている。それがどれだけ僕の力になっているか、君は本当に理解しているんだろうか。僕の心の中、君への比重はどんどん大きくなっていることを、きっと君はちゃんと理解しているはずだ。
いつもの喫茶店で君は珈琲を頼んだ。いつもなら紅茶なのに珍しい。そう思った時、君は男の人から声をかけられた。それも親しそうに。馴れ馴れしく。僕はものすごくムッとしたけど、それでも彼女が僕を紹介してくれた時にはそんな思いも微塵と消えた。
だって、その男の顔が悔しそうに見えたし、彼女の顔はとても幸せそうに見えたからだ。僕の小さな嫉妬心は、即座にどこかに行ってしまった。それだけの話だけれど、酷く印象に残っている。
今日は彼女は紅茶を飲んでいる。
「この間はどうして珈琲を飲んだの?」
くふふ、と笑う君の顔はいたずらがまだバレていない子供のような顔をしていた。どうも教えてくれないらしい。だけど、全然ムッとしない。むしろ可愛いすぎてこっちが参ってしまうくらいだ。僕は珈琲に手をつけた。この店の珈琲のふぁん、と香ばしい匂いが僕は大好きだった。一口飲んでソーサーに戻すと、彼女はまたくふふ、と笑った。
「この間珈琲を頼んだのはね、聡史が美味しそうに珈琲を飲むから、私も飲んで見たくなった、でしたー」
……なんだこの可愛い生き物は。どことなくあざとさを感じるが、そんなところも僕は大好きだ。