初春の雲
春の気配がする。家の春の気配は桜の匂いだ。本来、桜の花は匂わないけれど、さくらんぼが成る木に咲く花は仄かに甘酸っぱい匂いがする。少し、酸味が強い気も、する。
今年もバカみたいに花が咲いていて、その花の固まりは拳大くらいあって、それが至る所に咲いているのだから壮観だ。蜜蜂がその羽音を立てながら飛び回る中、私は毎年スマホで写真を撮っていた。青い空に、ほぼ白い桜の花。
さくらんぼの花は好きだけど、桜の花は好きじゃないと言う天の邪鬼な私が撮る写真を、祖母は毎年嬉しそうに見てくれていた。もう、いなくなっちゃったけど、あの笑顔を思い出すと……切ないんだけど、嬉しくなる。少しでも彼女の安らぎになれていたんなら、良い。
これだけ花が咲いていると、それこそ鈴なりにさくらんぼが出来る。これが困り者で、身は小さいはたいして美味しくないは、適度に間引きした方が良いんじゃないかと思うんだけど、それを父に言うといつも「自然のままで良い」と反対されるのでそれ以上はなにも言えない。それ以上良い募ると、「もう切ってまうぞ!」と変な逆ギレを起こすから、もう言わないことにした。
それにしても今年も良く咲いた。去年の夏、葉を毛虫にさんざん食われたと言うのに、良くここまで咲いてくれた。そしてポカポカ暖かい。私は最後にここで祖母と花見をした場所に立ち、上を見上げて写真を撮った。そこにはぽかりと雲が浮かんでいた。
ノンフィクションです。
こういう場合は「エッセイ」って言えば良いのかな?