社長候補は社長になった
そのサロンはとても居心地が良い。柔らかな照明、うっすらと薫るアロマ、穏やかな音響、優しい色合い。すべてが私を居心地良くしてくれる、最高の場所。予約の取れないサロンとして有名なここに、私はちょくちょく訪れていた。
着々と積み重なっていくジェルを爪先に乗せ終わると、LEDライトで硬化させていく。ジェルはライトを当てないと固まらない。地中深い所から発掘された物質なんだろうか、と思ったことは誰にも言えない。
わかっている。ライトに当たらないと、この私も固まらない。だけどどうしても、あと一歩が踏めない。
「お客様……なぁ、どーしたん?」
このサロンのオーナーは友達で、私の会社の商品を卸している。友達だけど、商売相手。この関係はどうかとも思うけど、それでもお互い切磋琢磨して頑張る力を貰っている。
「んー、私もこのジェルみたいに、ライト当ててほしい」
自分には荷の重すぎるブランドからのオファーが来たことに、正直びびっていた。私に出来る筈がない、そんな力なんてない、身に重すぎる。なかなか地中から這い上がれないのだ。自分の自信と、そのブランドとどうしても比べてしまう。
そんなことを説明したら、鼻で笑われた。
「あんたの自信なんてちっぽけなんだから、そんなことに気を使うよりも働きな。ダメだったらその後、シーツに慰めてもらいなよ」
そう言って、小型のLEDライトで手の甲を照らしてくれた。