空飛ぶ血液(スプラッタじゃない)
そこから見る夕日はとても綺麗で、山から降りてくるパラグライダーとの対比が目にも鮮やかだ。誰も居ない教室の中、風に揺れるアイボリーのカーテンが私の心も軽くしてくれている。正直、こんなにも穏やかな気分になれるとは思っても見なかった。面倒くさい授業、先生、友達。私は避けてきたつもりだけど、案外心にストレスが溜まっていたみたいだ。
一つ、二つ、三つ……
次々降りてくるパラグライダーの色はバラバラでカラフルで、思わず笑ってしまった。笑ってから気がついた。なんだ、私まだ笑えるじゃん。まだ、大丈夫だ。張り付けた笑顔じゃない、素直な笑顔で戸締まりをして教室を出た。
閑散としている廊下を進み、下駄箱までやって来る。ここまで知っている人は誰も居なかった。珍しいな。そう思いながら靴を出していると、声がかかった。
「お、佐藤、今帰り?」
振り向くと山口くんがこちらを見ていた。片手をふっ、と挙げながらこちらにやって来る野球帽を被った姿が可笑しくて、また、笑ってしまった。さっきの笑いを引きずっていた。
「……そんな笑い方も出来るんだな」
どん、と心臓が跳ねて、急速に駆け回る血液に体がついていかない。何で、この人私の笑顔の違いがわかるの?
「なんで……?」
それしか言えない私に、彼はこう言った。
「あー、それはほら、だってずっと見てきたし……俺佐藤の事、好きだし」
血液の勢いが止まらない。